経済学の基礎で考えるコロナ危機 「Go Toキャンペーンの評価」

 Go toトラベルやGo Toイート・キャンペーンは、困った人(事業者)を救いたいという善意に裏付けられた政策であるだけに、ちょっと批判しにくい面があるのだが、経済学の重要なところは「温かい心とクールな頭脳」の組み合わせにあるのだから、政策は政策として、きちんとロジカルに評価しておく必要がある。
 これらGo Toキャンペーンには、「政策発動のタイミングの誤り」「事業者を救済するのに需要拡大策を割り当てている」という本質的な問題点がありそうだが、長くなるのでここでは論じない。
 もう一つ私が大きな問題だと思っているのは、このキャンペーンが(意図したわけでないのは当然だが)国民に次のような誤ったメッセージを伝えていることだ。
 一つは、「積極的に旅行や外食を行うべきだ」という誤メッセージだ。国民は、国が補助金まで出してキャンペーンを行っているのだから、キャンペーンを使うかどうかとは別に、一般的に旅行や外食を奨励しているのだろうと受け止める。感染防止の観点からは、この誤メッセージは危険なものとなる。
 もう一つは、「Go Toキャンペーンが、コロナ感染症の感染拡大または防止にとって最重要のポイントだ」という誤メッセージだ。国会でもマスコミでも、感染症との関係でこれらキャンペーンを取り上げているのだが、このキャンペーンが感染症の第3波をもたらしたとは言えないだろうし、このキャンペーンさえ修正すれば感染症の拡大が収まるわけではない。
 これに関係して、政府が「このキャンペーンが感染症の拡大をもたらしたというエビデンスはない」と繰り返し主張しているのも気になるところだ。エビデンスというからには、統計的にきちんとしたデータに基づいた議論であるべきだが、この点は大丈夫だろうか。国会でもマスコミでも、政府の言うエビデンスとはどんなものなのかについての踏み込んだ議論がないのはどうしたことか。
 この点について、私が、中曽根康弘世界平和研究所で共同研究を行っているチームのメンバーである高橋義明氏が、JB Pressに「Go Toとコロナ第3波、本当に関係があるのか?」というレポートを発表している。


https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/62899


 詳しくは本文を読んで欲しいが、キャンペーンと感染者の関係を把握するには、次のような限界があることが指摘されている。
 ①Go Toトラベルの場合は、参加事業者は、従業員や宿泊者に感染が確認された場合は、事務局に報告することになっているが、チェックアウト後に感染が確認された場合、それを事業者が把握することは難しい。
 ②Go Toイートについては、こうした報告義務はない。都道府県段階で従業員に感染者が出た場合の報告義務を課している場合があるが、その場合も利用者については把握されていない。
 ③保健所の側からは、感染者が出ても、それがキャンペーンに関係しているかは把握していない。
 こうして考えてくると、キャンペーンと感染者の関係を把握するにはデータ上の大きな漏れがありそうだ。キャンペーンが感染症の拡大とは無関係であるのか、一定の関係があるのかについては、より精緻なデータの蓄積がないと何とも言えないということになる。(2020年12月5日記)

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