経済学の基礎で考える人口問題4  生産年齢人口の減少と経済成長率

 5月7日の日本経済新聞に「伸びぬ人口、成長の重荷」という記事が出ている。先進諸国で生産年齢人口が減少しており、これが成長率の低下をもたらしているという内容だ。私なりに少し解説してみよう。
 第1に、この記事で強調しているように、人口変化の中で「生産年齢人口の変化」に注目するのは大変重要なことだ。人口が減り始めると、第1段階として、人口ピラミッドの底辺が狭くなり、中膨れの状態になる。中膨れの部分は生産年齢人口だから、この状態では、「働く人が人口に占める割合が高まる」ということになり、人口要因が経済成長にプラスに作用する。これは「人口ボーナス」と呼ばれる。日本の高度成長や近年のアジアの高成長は、この人口ボーナスの時期と重なっている。
 ところがこの状態は長くは続かない。中膨れの部分が高齢層に移行していくと、今度は人口ピラミッドは逆三角形となり、「働く人が人口に占める割合が低下する」こととなり、今度は、人口要因が経済成長にマイナスに作用する。これは「人口オーナス」と呼ばれる。
 詳しい議論は省略するが、人口変化に伴う経済社会の多くの課題(社会保障の行き詰まり、人手不足、地域の衰退、貯蓄率の低下など)のほとんどの原因はこの人口オーナスである。
 第2に、ここで取り上げた記事では、生産年齢人口と成長率の関係をかなり直接的に対応させているのだが、生産年齢人口の変化は、経済成長を規定する諸要因の一つなのであり、生産年齢人口の変化と成長率が一対一で対応するわけではない。表1に示した私の簡単な計算によると、経済成長に及ぼす人口要因(人口の絶対数の増加要因と人口ボーナス・オーナス要因の合計)は、1950~70年で1.9%程度である。10%の高度成長のうち人口要因は約2割程度だったわけだ。ただし、2010~2030年ではこれがマイナス0.9%程度となる。生産性の上昇で乗り越えることができる範囲ではあるが、かなり厳しい。

表 GDP成長率の要因分解

2105 人口変化と成長

 第3に、本当に重要なのは生産年齢人口ではなく、労働力人口である。生産年齢人口と労働力人口は必ずしも一対一で対応するわけではないからだ。コロナ後は状況が変わってきているので、ここではコロナ前の姿を例に挙げる。
 例えば、2012年から2018年にかけては、生産年齢人口は473万人も減少したのだが、労働力人口は155万人も増えた。「生産年齢人口の減少=働く人の減少」という関係は全く成立していなかったわけだ。これはこの間に、「生産年齢人口だがそれまでは働いていなかった人が働くようになった」(特に女性)、「生産年齢人口ではない人が働くようになった」(特に高齢者、私もそうだが)からである。
 その結果、図に示したように、労働力人口で見た生産性はあまり上昇していないが、生産年齢人口で見た生産性はかなり上昇するという、ちょっと面白い動きが現れた。生産年齢人口で見た生産性が上昇しているということは、「日本経済は、生産年齢人口の減少を、生産性の上昇で乗り越えて成長している」というストーリーに見える。しかしそれは、女性や高齢者(主に非正規)を動員して人手不足を補ったことによるものであり、労働者の生産性はあまり上がっていないということなのである。

図 生産年齢人口当たりの生産性と労働力人口当たりの生産性

2105 生産年齢人口と労働力人口生産性

(2021年5月8日記)

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