ウォームハートとクールヘッドで考える日本経済5 「ポール・クルーグマンの経済観」
今日(9/13)は新聞休刊日なので、朝の時間がだいぶ浮いた。なんだか得をした気になるが、「では、新聞はないほうがいいのか」というとそんなことはない。人間の心理というものは不思議なものだ。
時間が空いたので、手元の中央公論(10月号)を見ていたら、ノーベル経済学者ポール・クルグマンのインタビュー記事が出ていた(「コロナと対峙する世界と日本経済に必要なもの」)。私自身の考え方をチェックするためにも、クルーグマンの考えに対する私の印象を整理しておこう。
1. 賛成、共感する点
「五輪の経済効果はほとんどない。特定の利害関係者に利益をもたらすだけである。」
これは私もその通りだと思う。にもかかわらず多くの人が「五輪で景気が良くなる」「五輪が終わると景気が悪くなる」と考えがちなのは、「確実に起きることを重視しがち」というバイアスのためだと思う。
各国の経済成長率について問われた際に、繰り返し「現在の成長率の差は、コロナ対応の差であり、経済の実力によるものではないから、あまり気にしないほうが良い(私の意訳)」と述べている。
これもその通りであり、現時点での短期的な成長率の違いを比較してもあまり意味はない。コロナ危機の経験を踏まえて、将来の経済の実力を高めるにはどうすべきかを考える方が大切だ。
2. それは違うだろという点
「国の実質成長率を評価するには、全人口ではなく、生産年齢人口を基準に見る必要があり、その点では、生産年齢人口一人当たりの実質GDP成長率は、日本はアメリカよりも高い。」
この点については、日本の生産年齢人口当たり成長率が高いのは、「生産年齢人口が減っているのに、女性や高齢者を『動員した』結果、労働力人口は増えているから」であり、経済の効率が高まっているわけではない。noteにも書いたことがあるので、興味のある方はこちらを参照してください。
https://note.com/tkomine/n/nb76cb13c3c6e
「世界の経済大国の中で、最もワクチン接種が進んでいない国が日本です。なぜこれほど遅れているのか、私には不思議でなりません」
これはやや認識が遅れている。日本は急ピッチで接種を進めつつあり、現在ではほとんどアメリカ並みの接種率に近づいている。もっとも、インタビュー時点では、このような認識になるのもやむを得なかったのかもしれない(ちなみに、こういうインタビュー記事は、いつの時点のインタビューかを明示してほしい)。なお、当初接種が遅れたのは、菅総理が、党首討論などで、やや控えめに述べているように「主に野党から、日本人による治験に基づくべきだ」という強い要求があったことが一因だ。
3. それは知らなかったという点
アメリカでは早期退職者が増えていると指摘している。「新型コロナ感染症が続く中、人々は自分の人生にとって何が大切だろうかと深く考え出しています。その結果多くの人々が、これまで嫌々仕事を続けてきたことに気づき、『人生の大切な時間をもっと大切なことに使おう。今後つつましく生きていけるだけのお金があればよい』と考えるようになったのです。早期退職者の増加はアメリカのGDPを下げるでしょうが、個人の幸せを考えれば良い傾向です」と述べている。
やや「本当か?」という気もするが、初めて聞く意見であるし、日本では全く見られない動きだとやや驚いた。(2021年9月13日記)
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