経済学の基礎で考える日本経済 「コロナ禍後の成長率」

 これは書くべきどうかやや迷ったのだが、あまりにも杜撰な議論が朝日新聞という影響力のあるマスコミに登場したので、「これは言っておかねば」という気になった。
 ここで取り上げるのは(やや古いが)、1月20日の「経済気象台」というコラムに載った「コロナ禍後の成長率の行方」という小論だ。「コロナ禍後の経済についての明るい話を考える」と言うので、「ほほう」と読んでみたら、これがとんでもないロジックだった。学部の学生に読ませて「この小論のどこが間違っているかを述べよ」という試験問題に使いたいくらいだ。
 ロジックはこうだ。「経済活動とお金の量には一定の安定した関係(マーシャルのk)がある」⇒「20年4-6月期には、マネーが大幅に増えて、GDPが大幅に減ったので、マーシャルのkは大きく跳ね上がった」⇒「この異常なマーシャルのkはいずれ正常値に戻る」⇒「マネーの量も正常値に戻るとすると、名目GDPは大きく上昇する。これを計算すると7%の成長が実現する」⇒「コロナをしのげば高成長が待っている」というものだ。
 このロジックには数えきれないほどの誤りがある。
①経済活動とお金の量には安定的な関係はない。安定的な関係があるなら、日銀の金融緩和でマネーの量が増えれば名目GDPも増えるはずだが、名目GDP成長率は全く高まらなかった。要するに、マーシャルのkは一定ではなく、上昇し続けている。
②マーシャルのkが安定的なレベルに戻るとは言えないし、マネーの量が当面減る見込みはない。
③このように、わざわざ間違ったロジックを使わないでも、7-9月期以降の成長率がかなり高いことは誰にでも分かるし、既にそうなっている。4-6月期の落ち込みが非常に大きく、それが回復して行けば、成長率としてはかなり高くなるからだ。7-9月期の名目成長率は、前期比5.5%、年率で23.9%であった。
④筆者の言うコロナ危機後の高成長は既に実現しているが、だれもこれを「明るい話」だとは受け止めていない。それは、経済のレベルがまだ低水準だからだ。ちなみに、7-9月期の名目GDPのレベルは、コロナ前の19年10-12月期より3.3%低い水準である。
 このコラムの筆者は匿名だが、「この欄は、第一線で活躍している経済人、学者ら社外筆者が執筆している」となっている。私から見ると、このような穴だらけのロジックを展開する人が、第一線で活躍しているとはとても信じられない。(2021年1月27日記)

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