地方創生の経済学5 「地域戦略人材塾のねらい」

 大正大学地域構想研究所では、自治体の若手・中堅職員向けの講座「地域戦略人材塾」を運営しており、私がその塾長を務めている。この塾では、受講生向けの副読本を作っているのだが、以下は、その副読本の冒頭で、私がこの塾の狙いを解説した部分である。

私と地域問題
  私はこれまで結構長い間、地域問題に関係してきた。私は、長く経済企画庁(現内閣府)で政府の役人を務めたのだが、その間に国土庁や発足したばかりの国土交通省に勤務し、この時に地域行政に携わった。国土庁では、審議官として主にハンディキャップ地域(過疎地、離島、山村、豪雪地帯など)の振興を担当した。国土交通省では、国土計画局長として全国総合開発計画を担当した。退職後、大学で教鞭を取るようになってからも、地域との結びつきが強い。退官後赴任した法政大学の大学院(政策創造研究科)は、別名「地域づくり大学院」と称していたほどだから、地域への関心は深かった。現在の大正大学では、そのものずばりの地域創生学部で同学部発足後の最初の4年間を務めた。
  こうした経験の中で、私は「どうしたら地域を活性化できるのか」と、地域の方々が悩むのを見てきた。当事者は、誰もがその答えを知りたいと考え、それを囲む人たちの誰もが、できればその答えを教えてあげたいと思う。しかし、私が感じたことを正直に言うと、現実にはそれは非常に難しい。もちろん、当該地域の実情をよく知り、かつ地域活性化の経験豊富な人間が、活性化の秘訣を地域に伝えるということは可能だとは思うが、それができる人はかなり限られるだろう。
  個々の地域には地域ごとの個性があり、歴史があり、特徴がある。それを外部の者が簡単に把握し、有効に活用するのは言うべくして難しい。すると、結局は当該地域自身が、戦略を練り、ある程度のリスクを覚悟しながら活性化策を模索するしかないのではないか。

経済学的な視点で役に立つことは何か
 「では私には何ができるのだろうか」と私は常に考えてきた。私は一貫して経済学を土台として、日本の経済・地域を観察し続けてきた。すると私にできることは、経済学的な知見を生かして、次の2点を伝えることではないかと考えるようになった。
  その第1点は、経済・社会全体の変化の方向を示すことである。日々の経済を観察していると、日本の経済・社会が置かれている大きな流れをつかむことができる。景気の変動、経済政策の基本的な方向、アメリカ前トランプ大統領の保護主義、グローバル化の流れ、働き方改革等々がそれである。ごく最近の事象としては、コロナ感染症の諸影響、菅政権の発足などもある。こうした大きな流れは、個々の地域がどんなに頑張っても変えることはできない。であれば、各地域はこうした流れを前提として、地域の進むべき方向を考えていくしかないように思われる。
  第2点は、地域を経営していく上で、有効な手段のオプションを提供することだ。経済学には幅広い分野があり、しかも日々新しいアイディアが生まれ続けている。こうしたアイディアの中には、各地が戦略を立て、実行していく上で役に立つものがたくさんあるのではないか。もちろん、こうしたアイディアを使わなければならないということはない。どんな手段をどう組み合わせていくかは、各地域の独自の判断である。その判断の助けになるようなオプションを増やすことはできそうだ。
 以下、この副読本では、有効な手段のオプションとして、EBPM、行動経済学とナッジ、フューチャーデザイン、シティプロモーションなどが紹介されているのだが、詳細は省略する。

(2021年11月3日記)

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