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【馬場と清龍と私⑥】

小島孝子
『人生は何があるのかわからないよ。』大学生の自分にもう一度会えるならこの言葉を言ってあげたい気がします。ほんとうに、その名前を聞けば『えーっ』となるあの場所に、それなりにお金にも余裕がある今、もはや年数回は出かけるようになるとは思ってもみなかった現実があります。そう、ここにいた誰もが既に清龍の虜となってしまった、そんな最終回。


『ここは隠れた名店なのではないか?』

ぼんやりと思ったことが現実のものとして押し寄せる。

例えば鍋もの。
一人前800円とのことで、二人前オーダーしようとすると
『二人前だとかなり量が多くなってしまいますけど』
との店員さんからのアドバイス。

アドバイスに従い一人前を頼むと、2、3人でやっと食べられる量の鍋がやってくる。そして、海鮮チゲも牡蛎なべも味噌の香りが立った満足度の高い逸品。
もちろん、不思議な色の貝は入っていない。
この量で一人前800円というから、驚きである。

ピザも冷凍食品にありがちな小さな申し訳程度のピザでなく、専門店でも出てきそうな薄くクリスピーでチーズの味もしっかりしている。

空豆や木の芽の天ぷらなどの季節ものもしっかり押さえ、ナポリタンやグラタンといった学生向けの良心的なメニューもそろう。
ナポリタンは破格の380円だ。

こうして、さまざまなメニューを注文したときには、すでに我々の清龍感は180度別物と化していたのはいうまでもない。

『おそろしくコスパのよい、超有料店』

これが、生まれ変わった清龍のいまの姿なのであった。

思えば、周りのテーブルをみても学生というよりはスーツ姿のサラリーマンが中心の客層である。さとり世代の大学生は昔のようにばか騒ぎをするためだけの居酒屋なんていらないのかもしれない。
いや、もはや居酒屋もそれほど必要としていないのではないのだろうか?とさえ思われる。
そんな中で、いい大人を相手とした丁寧な商売をしていかないと生き残れない時代なのかもしれない。

そんなこの街の移り変わりを感じつつ、一人あたり2500円弱というあり得ないほど格安の精算を済ませ、大満足のまま各々帰路に着く我々であった。

おしまい。

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