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馬場と清龍と私③

小島孝子
この街にはやはり自分のルーツのようなものがある気がします。
この街を愛する人は、みんなどこかちょっと変わっていて、それでも愛すべきキャラクターの人たち。そして、離れてもまたなぜか戻ってくる、そんなホームタウン。
そんなわけで、第3話。

『残念なお知らせがあります』

かつてより小綺麗になった店を呆然と眺めながら店員に案内され、地下の奥の座敷に通されると、そこには見慣れた顔が。

大学時代の先輩T氏である。

『どうしたんですか?』

という問いに、言葉とは裏腹に楽しそうに、それでもどこかいじわるな笑みでこう畳み掛ける。
『それがさ、ないんだよ。ラガーが。』
『瓶ビールも置いてないんだって!』

……

ええーっっつ!!

慌ててメニューをみると『生ビール』の文字のうえには小さく『サッポロ黒ラベル』の文字が!


『黒ラベルって…』

ふつうじゃん!!!

もとを正せば、あの泡の少ない不思議なビール、薄くてまずいビールの正体を、いい加減分別もつく大人になった今、暴くためにこの店にやってきた、にもかかわらず。

『ないって…』

まさかの顛末にノリでここまで来てしまったことを後悔し始める自分。
しかも、黒ラベルのジョッキ1杯400円。
まあ、ふつうの居酒屋価格である。

『清瀧がふつうの居酒屋になった』
この事実を受け入れる日がついにきたのかもしれない、寂しさとともに、そう覚悟しなければならない日が来たのだと、まだこのときはネガティブな感情にとらえられていた。

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