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失恋した話

「あの、僕と付き合って欲しいです。」

池袋の公園のベンチで覚悟を決めた僕は、3回目のデートの終盤に告白をした。

彼女はその言葉を受け止めた後、

「ちょっと保留にさせてもらっていいですか。」

と言った。そして長い沈黙の後にこう続けた。

「いや、やっぱり言うしかないか。」

彼女は、性的少数者だとカミングアウトした。


男の子が好きなのか、女の子が好きなのかが今のところ分からない。

ホルモンバランスの問題もあって、今後好きになる可能性はあるかもしれないが、今は付き合えないと言われた。



彼女は小学校の時からの顔見知りで、中学では同じ部活に入っていたがそんなに親しい関係ではなく、卒業して疎遠になった。

ショートカットで、誰にでもフランクに話せるタイプの子だったので、自分も話しやすかった。

成人式を機に再会して、それから年1ぐらいのペースで同じ部活の集まりで会うことはあったが、サシで遊ぶことはなかった。ある日、自分から遊びに誘った。

向こうにしてみれば突然、そんなに親しくない異性にサシでご飯に誘われるという怪しさしかない誘いだが、乗ってくれた。後から聞いたら「面白そうだから」という理由らしい。

彼女は埼玉の北の方に住んでいる。
僕は埼玉の南の方。
同じ県に住んでいるのに、実質遠距離恋愛みたいな状態だった。だから1回1回のデートを大切にしたいと思った。

1回目のデートは川越にした。

川越にある定食屋
量が想定よりも多すぎて2人とも苦しみながら完食した。美味い。


蔵作りの街を散歩して、途中クラフトビールを飲んだけど、2人ともあんまお酒が強くなくて、自販機で水を買った。

神社で手水をした時、向こうがタオルを貸してくれたことが印象に残ってる。

広場でやってた知らないキッズダンススクールのダンスを見ながら、カフェでお茶して色んなことを雑談した。

お互い無言を嫌わないので、変に話さなくちゃという圧を感じずに、無言の時は無言のまま時間が流れる。それが心地よかった。


2回目のデートはお茶で話した趣味の流れで、向こうから「競馬場とか面白そう」と提案してくれて、東京競馬場になった。

東京競馬場パドック近くにあるもつ煮の店。美味い。

自分は競馬を好きになって4年目になるが、異性と競馬場に行くのは初めてだった。

彼女は買い方すら分からなかったので、競馬新聞を見ながら買い方とか印の見方を最低限だけ教えて、あとは好きな馬を応援する形にした。

この日は風が強かった。指定席に吹き付ける風で新聞が飛びそうになった。

東京10Rで彼女は8番人気の馬を軸にワイドを買って、軸馬が4着だった時「ビギナーズラックなんて無かったね笑」って言った。

メインのNHKマイルカップはお互いワイド15点を買ったが、硬めな決着になって、トリガミになった。

彼女のマイペースだけど、見えないところに自分の軸が通ってて流されない感じが好きだった。

帰りに飲みに行った。2人とも居酒屋に行かないから相場が分からないので調べながら歩いた。

レモンサワー。美味い。


話が弾んだ。楽しかった。本当に楽しい時って案外実のある話とかしてないのかもしれない。自分が珍しく3杯飲んで酔ったのか、帰る時に座敷から靴を履けずによろけたのを彼女が大丈夫って心配した。自分でも靴が履けないことにショックだった。



3回目のデートは夕方からサンシャイン水族館に行くことにした。このタイミングで告白するって決めてたから、内心緊張でどうにかなりそうだった。

サンシャイン水族館では、色々話をしながら回った。たわいもない話だったり、魚の写真を撮ったり。

サンシャインの施設にガチャガチャのコーナーがあって、たまたま見つけたオールナイトニッポンのガチャガチャに興味を示したら、彼女も面白そうだねって乗ってくれた。

カフが欲しかったので、上下で2台あるガチャガチャのうち、彼女が勧めてくれた下の台でやったら、見事に2回目でカフを引き当てた。マジで感謝。

池袋の雑踏を歩くうちに何度かはぐれそうになったタイミングで「手をつないでもいい?」って聞いたけど、断られた。この時に心はちょっと折れかけた。正直告白する気持ちが失せた。

西口の美味しい中華屋さんで夜ご飯を食べて、帰りの時間が迫る中、僕は彼女を公園に連れていった。

告白する時、上手く言葉に発することができずにしばらく無言の時間が続いてしまった。

だけど、このまま気持ちを隠して遊び続けるのも良くないと思った。誠意として言わなきゃ。

僕は言葉に思いを乗せた。




帰った後に今日付き合ってくれたお礼のLINEを送った。

今までも本当に楽しかったからまた遊ぼうねと文面が返ってきた。

めちゃくちゃ良い奴だと思った。
正直、俺だったら適当な理由つけて告白を断ると思う。わざわざカミングアウトしてくれたことに重さと誠実さを感じた。

あ〜あ、だからあの人のことを好きになったんだよ!!

失恋したのに悔しいとかそういう感情じゃなくて、優しさがある恋だった。

ごめんなさい。嘘つきました。本当はこの文章を打ってる時に涙みたいなものが出てきた。

好きだなあって思った。マジで好き。

良い友達になれると思った。
幸せになって欲しいなって心から思った。

正直手を繋ぎたかったしキスもしたかったしそういう事もしたかった。だって好きだから。

でも、そういう事をぼやかすくらいの信頼で心を満たされた今、どうでもいいやって思った。



P.S.

あれから数日経った日の夜、その子から電話があり告白されたので付き合うことになりました。

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