スポットライト

Creepy Nutsを初めて知ったのはラジオだった。
学生時代によく聞いていたラジオを、社会人になってからは忙しすぎて全く聞かなくなっていた。再び聞き始めたのは仕事を辞めて結婚して自由な時間ができてから。知ってる芸人の番組を探して聞き始めたのが、オードリーと三四郎のオールナイトだった。どちらの番組でも、時折Creepy Nutsの名前が出てくるので、試しに火曜の深夜も聞いてみようと思った。
最初は若いお兄ちゃんが2人できゃっきゃ喋ってるなぁと言う印象だった。芸人なのかアーティストなのかさえ知らなかったけど、HIP HOPをやっていると分かってからはチャラい人達なのかなぁとすら思っていた。続けて何週か聞いてみたものの、番組の中で本人達の曲が流れないことがあったので、たまに番宣で流れるBGMから聞こえてくる歌詞を頼りに、検索して辿り着いたのが「助演男優賞」だった。
そこから彼らの音楽もラジオも聞くようになっていったが、ここ2年位はラジオリスナーとして見届けようと言う感覚で彼らの動向をそれとなく追いかけていた。CDを購入したり、出演番組をちゃんとチェックしたり、自分はファンかもしれないと自覚するようになったのはここ1〜2ヶ月の話で、明確なきっかけがないままいつの間にか今日に至っている。

でも、どうして今ハマったのかなぁとずっと考えていた。

HIP HOPに対しては「俺は東京生まれ HIP HOP育ち」の柄が悪くて怖そうなイメージをそのまんま抱いていた。世代的にKICK THE CAN CREW、RIP SLYME、ケツメイシは聴いてたし、高校生の時にRHYMESTERとクレイジーケンバンドの「肉体関係 part2」を聴いてドキドキしていたりしたけど、どれもHIP HOPと言うジャンルを意識して聴いてはいなかった。ラッパーと言えば、俺、俺、俺と一人称でひたすら自分のことを語っていて圧が強いし、押し付けがましいとすら感じていた。ひたすら自分のことを晒して表現するなんて、自分に絶対的な自信がある人にしか出来ないし、人見知りや秘密主義を言い訳にして卑屈に偏屈に生きてきた私にとっては異世界どころか異次元の人達だと思っていた。

だが、Creepy Nutsはラジオを通して、音楽を通して、私の偏見を少しずつ解いてくれた。彼らが弱くて情けなくて恥ずかしい部分を晒すと、その痛みがストレートに私の胸にも刺さった。「俺」がもがいて苦しんで歩んできた道のりに何かを感じずにはいられなかった。

この十数年、私は自分がちっとも成長していないし、進歩もないし、何も変化していないと思っていた。いつの間にか人見知りを卒業した若林さんを見て、勝手に取り残された気にもなっていた。上手に人と関われないし、生きるのが下手と言ってしまえばそれまでだった。でも、このままでは駄目だと自分を奮い立たせて何かをしてきたわけでもないし、もうこのまま誰にも迷惑をかけないようにひっそりと最低限の関わりの中で生きていこうと思っていた。
でも、代わり映えのしない毎日の中でも、色々なものを少しずつ吸収して、昔は素直に受け入れられなかったものを今なら格好いいと感じられるようになったんだな、と気がついた。きっと彼らの音楽や言葉の数々がそうさせてくれたんだと思うし、毎週毎週溢れんばかりのHIP HOP愛と共に紹介される数々の楽曲が私の心を打ち続けていたのだと思う。自分の中に起きた、ほんの少しの変化が嬉しかった。今になって新しいものを好きになるなんて、夢にも思わなかった。

たりないところだらけだった貴方達も、少しずつの変化を重ねながらあの武道館のステージに立ったんだろうか。もっと早く出会えていたら、東京で働いていた頃だったらライブにも行けたのに、とも思ったけど、私にとってはきっと今があなた達と触れるべき一番のタイミングなんだと思う。

武道館公演。
一曲目が始まった瞬間から、真っ暗闇だった私の心に一筋のスポットライトが射されたようだった。昔の曲から最新曲に至るまで、感情がただただ揺さぶられ続けた。
HIP HOPに出会わせてくれてありがとう。衝動を思い出させてくれてありがとう。
かつて天才だった私。今より少しだけ上を向いて歩いていった先で貴方に会えたらいいな。

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