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傷んだシュークリームを食べてしまった件

 去年の秋は季節外れの暖かさがずっと続いたことから食中毒のニュースが多かった。最近ではイベントで売られた保存料無添加・低糖をうたっていたマッフィンが傷んでいて返金騒ぎになった。聞くところによるとまだ気温が高かった10月下旬、売り出す5日前にマッフィンを焼いて常温でずっと保管していたそう。具の入った焼き菓子を5日間も常温で保管・・・これでは砂糖を多く入れてさらに保存料を使って作ってあったとしても傷んでしまうかもしれない。
 生クリームやカスタードクリームを使った洋菓子はさらに保存には神経を使わないといけない。年がバレるかも知れないけど、地方の田舎に住んでいた私が子供の時は生クリームのケーキは電車に乗って町まで行かないと買えないものだった。だから生クリームを使ったお菓子に強い憧れがあった。ところがある時お使いに行った近くの駄菓子屋さん兼パン屋さんに生クリーム入りと書いた大きなシュークリームが並んでいるではないか。あこがれの生クリームを使ったお菓子がこんな田舎に・・・。私はビックリして購買意欲を大いにそそられたものの、そのときには買わず家に帰って自分の小遣いで買うかどうかよく考えることにした。心の中ではすぐに買ってみることに決まった。でもようやく実際に買いに行けたのはそれから2日後だった。古びたショーケースの中を見ると件のシュークリームはあまり数が減っていない。粉糖がかかった大人の手のひらサイズのシュークリーム。私は店番のパートのおばさんに紙袋に2つそのシュークリームを入れてもらった。そして持ち帰ってその一つをさっそくかじってみると。えっ?何だか酸っぱい。そうそのシュークリームの中のクリームは悪くなっていた。入っていたクリームはカスタードではなく全部生クリームだった。こんな田舎で買う人もいないから売れるのを待っている間に腐ってしまった・・・と当時は思ったけど今にして思えばシュークリームが入れられていたあのショーケースは普通のケースで冷蔵ケースではなかった。お店の人は生クリームを使ったお菓子は冷蔵保存しなければならないことを思い至らなかったようだ。私は泣く泣く買ってきたシュークリームをゴミ箱に捨てた。その後日本のテレビ番組で見て知ったのだが生クリームだけではなくカスタードクリームもとても腐りやすいという。だからシュークリーム系は冷蔵しておかないといけない。
 その次に悪くなったシュークリーム系のお菓子を食べたのは年長の友人の家でお茶をふるまわれた時だった。何年も前カリフォルニアではあまり日本風の洋菓子は手に入らなかった。しかし当時東京の有名なケーキのお店が近くに支店を出したばかりでとても人気になっていた。その日のために彼女はそのお店に行ってケーキを買ってきていた。アメリカではケーキやパイやドーナツなどはガラスのドーム付きケーキスタンドに入れてキッチンのカウンターに置いておく(飾っておく?)ことが多い。ケーキは生クリームではなく油脂で作ったフロスティングといわれるクリームで周りを飾ってあるのが一般的だから季節にもよるけれど1日か2日なら冷蔵しなくてもいいからだ。
 おしゃれにクリスタルガラスのケーキスタンドに盛り付けられた数個のティーケーキ。何と何があったかはもう記憶にない。ただ全て違う種類のケーキだったことは覚えている。「さあお好きなのを選んでね」と一番最初に私の前にスタンドが回ってきた。私は他の人たちに遠慮して上のほうにあって取りやすくかつ一番地味な見た目のお菓子を選んだ。それが小ぶりなエクレアだった。
 一口食べるなり中のカスタードが傷んでいることに気づいた。とてつもなく酸っぱかったのだ。でもまさか「腐っている」なんて言えるわけもなく我慢して全部食べ終えた。腐っている食べ物を食べたからと言って必ずしもすぐに病気になるとは限らないだろう。お茶会の終わりごろ皆ケーキの美味しかったことを口々に褒めていた。私も気の利いたことを言うつもりがつい「レモンが効いてますね」と口から出てしまった。彼女は「あら本当?」と怪訝そうな顔をしていた。もしかしたらピンと来ていたかもしれない。そのお菓子はレモン汁をたくさん入れたかのように酸っぱい味だったということを。中のクリームが痛んでいたかもしれないことを。多分彼女は前日にケーキを買ってきたのだと思う。そしていつもするようにケーキスタンドに盛り付け,クリスタルドームで蓋をしてカウンターに置いておいたに違いない。冷蔵は必要ないと考えたのだろう。いくら人気といっても高級なかなりのお値段するケーキがそれほど回転がいいとは思えないので、そのエクレアは作りたてではなかったかもしれない。それに冷蔵が必要な種類のケーキを温暖な気候のカリフォルニアで一昼夜室温に置いておけばかなりの確率で悪くなってしまう。しかしラッキーなことに私はそのエクレアを食べた後お腹を壊すこともなかった。
 ケーキだけでなくスーパーで買ったばかりの袋入り菓子パンの真ん中に大きな青かびが生えているのを発見したこともある。もう10年くらい前、3か月くらい日持ちがするという天然酵母パンがカリフォルニアでも売り出された。パン生地が甘くておいしいのでよく買って食べていた。ある日、日系スーパーに行くと店長さんがその天然酵母パンの箱をちょうど開封している所に出くわした。店長さんは箱の上部の段ボールを取り除くと「広告の品」と書いたポップを付けて行ってしまった。「ラッキー!セールの品を一番最初にゲット」と思って一番上にあったパンを取ってカゴに入れた。家に戻ってさあ食べようと袋を開けてみると大きめの平べったいパンの真ん中に大きな青カビがびっしりと生えているではないか!ちょうど袋のロゴに隠れて外からは見えないところに!カビってこんなにみごとにまあるく生えるものなのね。でもそれは今日、今さっき箱から出され店頭に並べられて売り出されたパンなのよ。多分日本から空輸されたてで賞味期限も2か月は先のはずだ。なぜカビが生えているの?そのパンだけ袋に小さな穴が開いていてそこから雑菌が入ってしまったのかもしれない。ひどく損した気分がしたので面倒くさいけれどパンとレシートを持って行ってお金を返してもらう事にした。これもスーパーまで至近距離のところに住んでいたからできたこと。カリフォルニアの日本人は日系スーパーまで何時間もドライブしてくるのが当たり前。だからこんなふうに買ったものが悪くなっていたとしてもふつうは諦めるしかないのだ。小一時間前にそのパンの箱を開けていた店長さんに青カビパンを見せるとすんなりお金を返してくれた。
 大抵の食べ物は遅かれ早かれいつかはダメになるものなのだ。お店で売られているものでも食べる前に注意しないといけないし、保存しておくにも注意しないといけない。
 
 
 
 

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