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Voigtlander NOKTON 35mm F1.2

春に半ば衝動買いのような形で手に入れたNOKTONだが、今ではXF35mmF2を隅に追いやりX-Pro3の常用レンズとなっている。これの何が素晴らしいかはスナップの撮りやすさに尽きる。
普段はあまり強い勧め方をすることはないが、このレンズについてはスナップ好きなら絶対に買うべきだと言い切れる。

もっとも俺が知っているスナップは人の入った、瞬間を切り取った写真なので最近のスナップの定義からすると狭義だ。
イメージするなら古典的スナップというか、フィルム時代のスナップ写真という言葉がしっくりくるだろう。ソール・ライターとかブレッソンの写真だ。

ああいう写真が好きで、自分も撮ってみたいと思ったらもうこれしかない。それともライカを使うかだ。

MFレンズであるメリット

このレンズはマニュアルフォーカス(MF)でしか使えない。それだけ聞くとデメリットのように思えるかもしれないが、実はメリットが多い。

まずはサイズ。オートフォーカス(AF)の駆動群がないのでF1.2という大口径にも関わらず、重量は約200gと軽量だ。大きさもXF35mmF2と大差ない。
開放F値が1段以上明るい(F2から1段明るくなるとF1.4)のにほぼ同じサイズ感に収まっているのは間違いなくMFに絞ったからだろう。

ちなみに機械絞りなので電源を入れなくても羽根が動く。メカ好きにもおすすめできる。

次に距離指標の存在がスナップを語る上で欠かせない。パッと見の印象では取っ付きづらそうだと感じるかもしれないが、見方がわかると実に簡単だしAFよりも速くかつ正確に撮れることもある。

X-Pro3の世代になってだいぶAFは改善されたが、それでも意図しないものにピントが合うことはある。例えば水滴の付いた窓ガラスに合わせたいのにその奥の景色に行ったり、ヘッドライトで伸びた人影に合わせたいのに横断歩道を渡る人に行ったり。
AF+MFをオンにすることで合焦してからフォーカスリングで位置を変えることはできるが、距離指標で予めある程度合わせておいた方が手間も少ない。

また速写性に加え連写性が高いのも重要だ。AF-Sだと1枚撮ってから再度AFでピントを合わせる。AF-Cでも同様の挙動になるので瞬間を切り取るのであればドライブを連写にするしかない。
だが連写だとAFが間に合わなかったり、連写しすぎるor撮りすぎを気にして止めたら肝心の瞬間が撮れていなかったことがあった。

その点書き込みが終わればすぐシャッターを切ることができる上、被写体との距離を読み違えなければピントを外さないMFはスナップに必要な連写力が高いといえる。

開放付近での柔らかい描写

ほぼ最短撮影距離で。中央付近のしべに合わせたが、輪郭が滲んでいる。

描写の違いは大して分からないことが多いが、このレンズについては同じ焦点距離のXF35mmF2を持っていることもあって同じ被写体での撮り比べをしなくても特徴が掴みやすい。開放付近では合焦面をしっかり描写しつつも柔らかさが残る。

描写特性は好みの問題だが、XF35mmF2は開放からシャープに写すタイプなので違いがある方が使い分けもしやすい。

最短撮影距離でなければピント面の滲みはそこまで気にならないかもしれない。
この写真は通学路の標識に合わせている。

絞ればシャープに撮れるのはオールドレンズでも同じだと思う。現代のレンズは開放からシャープで、最近リニューアルされたXFレンズのF1.4シリーズもその例に漏れない。
それでも未だにXF35mmF1.4を好むユーザーがいるのは開放での柔らかさを求める層が一定数いるからだろう。

F1.2の明るさ

けっこう暗めの喫茶店で。F1.6だけど。

銘の由来を正確に知っているわけではないが、NOKTON(ノクトン)という響きから夜でも撮れる明るさという意味が込められているのではと思う。

開放の明るさは選択肢の多さで、ISOを上げても少し絞って被写界深度を稼ぎ多少なりともシャープに写すか、低ISOでもシャッター速度を稼ぐために開放を使うかという選択ができる。

モノクロはこれだけファインダーで撮影した。
F1.4でISO640、F1.8でISO800にするかF2.8まで絞ってISO2000を許容するか。

もちろん選択肢が増えるほどどう撮るかの判断が必要になる。
そういう意味では上級者向けなのかもしれないが、撮影体験や絞りによる描写の変化を楽しめる点から趣味として写真を始める人が初めて買うレンズに推したい。

距離指標の見方

初見ではとっつきにくい距離指標だが、見方が分かれば実に理に適ったものだと分かる。

まず先端の絞りリング(黄色)で絞りを決める。マウント部に一番近いところに書かれた数字(赤)が、その絞りで概ねピントが合う範囲(青)なのでフォーカスリングで何mから何mまで収めるか調節する。あとはシャッターを切るだけだ。

F16まで絞ると約1mから無限遠までが範囲内となる。さすがに最大まで絞ると回折の影響が大きいと思うが。

この写真だと今の絞りは11でピントは約1.3mから先が合っているように見えるということになり、もし絞りが4だったら約3mから先から先になる。
ピントの合う範囲が絞りによってどう変化するか感覚的に掴むことができるのはウェストレベルで撮るときに必須。

見出しも含め、この投稿のモノクロ写真のほとんどはノールックのウェストレベルで撮っているが、慣れてくると開放に近い浅めの被写界深度でもある程度ピントを合わせられるようになる。
おすすめは横断歩道の白黒の幅で、調べたところ0.45mと決まっているらしい。そうするとこの写真は路肩を含めて白4本・黒5本なので1車線約4mと分かる。

長さに関しては統一されているわけではないようなので、これは完全に目算するしかないが開放でもなければ1m程度の誤差は何とかなる。
光量を確保できる朝から夕方までなら絞ることで被写界深度を稼げるので、ますます楽に合わせられるだろう。



まとめ

買って後悔しないのは

  • ストリートスナップが好き

  • クラシカルな外観のレンズを使いたい

  • MFを使いこなしたい

こういった人。X-Pro3を使っている人は漏れなく当てはまるのではなかろうか。
Xシリーズ自体クラシカルなダイアル群が特長ではあるが、その中でもProシリーズとのマッチングの良さは別格だと思っている。

これで防塵防滴だったら間違いなくXF35mmF2を手放していただろう。
X-H2sの操作体系は全く琴線に触れなかったが、俺にはX-Pro3とこのレンズがある。撮ることの楽しさには当分困ることはない。

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