【日記】全方向美少女と、塾と屋上

 先々週から、全方向美少女という曲を繰り返し聴いている。tiktokでサビが流れてきて人耳惚れしてしまった。


 歌から、ちょっとだけ遅れ気味に入るコード・バッキング、ウィスパー気味だけれども発音の正確な声質、「I-Ⅰm」の、あまりにもベタだが、どうしても胸に迫るサウダーヂ感覚。おお、これぞロックンロール。つまり最高ということです。
 フルで聴いても、即座にコード進行がわかり、楽譜が思い浮かぶタイプの音楽。シンプルでかっちりしている。そして印象的なベース・ラインが否応なく、青春特有の焦燥感を高めてゆく。そしてはじめて見た歌詞も、一番二番、どれもいい。素晴らしい。YouTubeのコメント欄では英語の発音がダサいとあったが、全然気にならない。むしろ好きだ。サビのタイミングがジャストじゃないコード・バッキングも、もうなんかガレージ・ポップに聴こえる。ガレージ・ポップのこと何も知らないけれど。すごい。ディスク・ユニオンに正月から通ってるオッサンみたいな文章!
 コメント欄を見ると女の子を励ます曲として評価されてるらしいけれども、むしろ60sのガールズ・グループを聴くような感覚で聴いている。まぁそのころとコード進行もあんまり変わらん曲ではあるが。
 ハマってすぐ、ヴァレンタイン・デイの日にMVがアップされた。「上から見ても、横から見ても、下から見ても…」のところが斜め30度くらいの角度から撮られていた。どちらかというと、フランソワ・トリュフォー監督の「大人は判ってくれない」のラスト。主人公が鑑別所に送られて、真正面、真横から写真を撮られるのだけれども、そんな情景を想像していたので、ちょっと違うなと思った。


 若者のエモとはなんぞやと思うと、ビルの屋上で、メイドが吸ってるタバコとか色々あるらしいが、屋上というといつも思い出す度にキレる思い出がある。
 中学一年生のときに通っていた本郷三丁目の塾の放課後。夜の10時くらいだと思う。あまり話さない、オタクの女の子がいて、彼女が俺に「死にたい、親に虐待されてる、本当は声優になりたい」と語り出した。俺は当時、ピュアで、誠実だったから、彼女の話をマジに受けとった。で、彼女はアニメ声の真似をした。結構、それっぽかった。挑戦した方がいいよ、とか何とか言ったんだと思う。そのうち彼女は、外に出て、塾の入ってる雑居ビルの屋上へゆこうとした。「もういいんだ死んでやる」とかなんとか言いながら階段を駆け上がる。俺は驚いて彼女を追いかけて腕を掴んで、曰く「死んじゃダメだよ!いけないよ!」とか何とか…。彼女は一言「ふうん、君可愛いじゃん」。
 当時は何とも思わなかったが、二十歳を過ぎた頃から、このことを思い出すと、めちゃくちゃムカついて、憤怒、憤怒、憤怒である。そのときの妙にニンマリした表情、精神年齢の低い童貞を下に見たような表情が、忘れられないのだ。実際彼女の方が階段の上の方にいたので、物理的にも俺の方が下にいたのだ。
 こう書き出すと、あまりにも通俗的な内容で驚いてしまう。人生は小説より奇なり、と言うけれども、いいところを引っ張ってくれば「小説よりも奇」になるが、大抵は三文小説以下の通俗の連続である。
 
 
 今日は自転車を久しぶりに出したらブレーキが効かないので代々木公園のブルー・ラグという自転車屋にゆく。電動式は扱ってないと言われ、代々木上原の個人経営の自転車屋に修理に出す。そのまま歩いて代々木上原のジムへゆく。電車で下北沢へゆき、スーパーへ。ここはいつも大きなビーツ(ロシア料理によくつかう赤いタマネギみたいなやつ)が買えるので嬉しい。
 電車に乗って帰宅。他はずっと原稿を書いている。3月1日に公開されるというが、本当に公開されるのだろうか。いま150ページくらい書いた。


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