5月までの収穫。

 まんだらけオークションで、戦前の単行本を数冊買いました。結構な値段になりましたが、そもそもあまり持っていないので勉強代ということになりましょう。新関青花の単行本も買いましたが、そこに出てくる紙太郎というキャラがあります。峠哲兵は戦後に『怪力太郎大活躍』で使ってますね。峠は『木平くん』でも大城のぼるの『愉快な鐵工所』のオマージュを描いています。縦三段のコマ割りで、キャラの全身を描くスタイルは戦前漫画のものでして、1949-50年ごろ戦前の中村書店の影響を意識的に受けてるようです。峠の単行本って戦前にあるんでしょうか?見たことないですが。

 戦後ものだといいのを三春の本を二冊買いました。一冊は海産増強の啓蒙科学漫画のフリをしていますが、内容はお化けが出たり、蛸の芋取りが出たり、犯罪集団が出たりとメチャクチャです。こういうのがあるから戦後仙花紙本収集をやめられません。もう一冊は須磨寅一の漫画です。たぬきが化かす、というよくある話ですが、ルンペンは出るわ、メチルで酔っ払う野球選手が出るわで凄まじいです。リーダビリティが高くて、絵物語ではない須磨の実力に感じ入りました。須磨はカストリ雑誌にもコマ漫画を描いてますが、それに近いスタイルです。

 堀万太郎の1950~3年ぐらいの絵物語も入手しました。背に厚みのある貸本漫画直前といった感じの本です。糸とじがされていて、苅部文庫という、多分貸本屋で扱われた個体です。

 戦中の絵物語も三冊手にいれました。一冊はターザンものです。どれもおとなしい絵で、戦後の絵物語とは違う俗悪さのないものです。啓蒙的な内容です。こういうのも好きなので本当は児童文学を読むべきなのかもしれませんが、小説はあまり読まないので後手になってしまいます。先日坪田譲治の短篇を一冊読んだのですが、意外と腑に落ちない、余韻のある終わり方の作品が多くて感銘を受けました。とてもおもしろかったです。
 もう一冊、B6横綴じの漫画も買いました。新関健之助『富士の山』の復刻本の解説の参考になれば、と思って買った山に関する本ですが、ほとんど関係なかったです。兄弟が山に登り、途中で一泊します。そのとき弟はイモ人間の夢を見るのですが、目が覚めたところで終わってしまいます。作者はもっと描いたはずなんですが、出版社が途中でカットしたんだと思います。

 信頼している知人三人が愛読しているので、とうとうアーサー・マッケンの作品集全六巻を買いました。時間がなくて全く活字本を読んでいないのですが楽しみです。

 今年のはじめごろにあった池袋西武百貨店の古書位では、戦前の雑誌『コドモ漫画』一冊、あと10冊ほど1970年代のアメリカのティーンが読んでたような漫画を買いました。二段割白黒のB6サイズのものです。まだ読めてませんが。

 手塚治虫の豪華本が出ると、一応漫画批評のようなものも書くので買わなきゃいけないと思い買ってます。『ロマンス島』の復刻なんか2万円もするので、いやだったのですが、今年になって読んだらとてもいい本でした。手塚治虫『創作ノートと初期作品集』二巻本(というか箱)も刺激になりました。最近は手塚と同じ、B6判ノートにネームを描いてますが、全然構想がまとまりません。キャラクターデザインが今年の課題だと思います。 
 実家から名著刊行会の復刻本を10冊くらいもってきて何度も読んでます。『有尾人』『地球を滅ぼす男』『太平洋の火柱』『ターザンの秘密基地』『吸血魔団』あたりを何度も読んでます。特に『有尾人』と『ターザン』は素晴らしいですね。

 最近の変な漫画だと『養豚の星』というハウツー本が、サイケで、トリップ感のある作品でした。実感のともなった表現は強いという当たり前のことを再認識しました。

 神奈川近代文学館でやっている『新青年』展も行ったのですが、大正時代の実録犯罪本の紹介があまりに雑で少し悲しみと怒りがありました。B6の厚みのあるもので、詳しく知っているわけではないのですが、適当にまとめて展示してキャプションをつけないのは端的にそれらの作品を文学扱いしていないということです。隣にあった黒岩涙香本には一冊ずつキャプションをつけているのに。学芸員の姿勢に不信感をいだきます。探偵小説には明るくないのですが、実感のこもった展示ではなかったです。

 探偵小説は実感を込めて語るマニアがまだいると思いますが、私が想像してるよりも少ないのかもしれません。戦後の仙花紙本漫画も詳しい同世代の方が全然いなくて、寂しいものがあります。私と近い世代だと茶蟻さんと、寛永さんと、あと数人じゃないでしょうか。戦前の講談本マニアも昔はいたんでしょうが今もいるんでしょうか。昔ちょっと集めようと思いましたが、あまりにも情報がなく、よしたこともあります。片っ端から買って読むのが一番なのですが、漫画を優先しました。大学のころ浮世絵の権威の先生の授業もとったことがあり、研究者何人かとお話をしましたが、どなたも実感がない話し方をされていました。やはり不信感があります。流行りの韓流ドラマを語る現代の主婦たちのように、黄表紙などを語れないと研究しようがないと思うのですが……とか書いてみましたが、私自身まだまだなので、来たるべき30代に向けて色々読み続けてみようと思います。

 復刻本第二弾として、某戦後すぐの仙花紙単行本を出そうと思っています。作者は全く知られておらず、twitterで検索しても一件も出てこないし、Googleでもプランゲ文庫とまんだらけオークション一件しか引っかかりません。でも絵もいいし、話もとても面白いです!漫画家じゃなくて画家が手掛けた本だと思います。私が知る限り、戦後の児童向け漫画のかなり早い段階でデモを描いた作品です。色々なことを考えさせらる単行本です。復刻本はメジャー作家と、マイナー作家を交互にだそうと思ってます。私が復刻する作品もプランゲ文庫に入ってますが、レア度よりも強度のある内容を優先したいです。

 たとえば太閤堂や島村の時代絵物語は大好きで、見つけ次第買ってますが、あまり復刻しようという気にはならないのです。現代の漫画家が読んで、使えるか、というのも復刻するときには気にする点です。とはいっても時代絵物語は楽しいですけどね。どうせやるなら堀万太郎になるでしょうが、多分やらないと思います。『鞍馬小天狗』はかなり集めましたが『ターザン』ものをあまり持ってません。堀万太郎の戦後の絵物語単行本は全部欲しいですね。オリオン書房や太平洋文庫のB6も欲しいっちゃ欲しいですが優先順位はかなり下がります。A5だと兎月書房のものとSFが欲しいです。A5ハードカヴァーの絵物語というのがあるのですが、これは全部欲しいです。

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