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ジンジャーエールと稲垣潤一とあれこれ。

 ジンジャーエールを初めて飲んだのは高校生だったかな。
三宮のさんちかにあった「デザート・アイランド」で、アップルパイと一緒に。
アップルパイが載ったお皿にはバニラアイスも添えられていて、なかなか食べ応えがあった。

 明石の「くるみや」でのお気に入りのケーキがジンジャーケーキだった。
生姜はそんなにきいていた感じはなかったけれど、甘さ控えめでちょっと大人みたいなお味ながら表面にも生クリームが塗られており、ちゃんとケーキとして満足出来るものだった。それで、ジンジャーエールというのはどういうものか興味が湧いたので注文したのだった。ちょっと辛口でシュワシュワしていた。甘いお菓子とよく合う。
ジンジャーエールはケーキよりも、より大人の味がして気に入っていた。

 頃は1987年。もうジンジャーエールもジンジャーケーキも食べに行く暇も気力もなかった。時はバブル景気で日本中が何かおかしかった気がする。新卒で入った会社は景気が良さそうではあったが、私は内心、決まった数しかない牌の取り合いをしているだけの販売の仕事に倦み疲れていた。売り上げを競おうにもお客様の出足はそうそう長く賑わいは続かず、内心はイライラを感じることが多かった。

 そんな時にこのキラキラなCMに心が惹かれた。
動画で観てもあの頃のようなキラキラには敵わないのが少し寂しい。
初めて観た時は、それこそ光り輝くゴールドの眩しさにワクワクした。

Stay Gold きらめく時間の波間に
夏の日のまぼろしたちさ

Stay Gold さよなら僕に隠して
好きなの…と何故してささやいたの

CM曲 稲垣潤一 想い出のビーチクラブ

稲垣潤一の11枚目のシングル、「思い出のビーチクラブ」は、アルバム「Mind Note」の2曲目。

7thアルバム「Mind Note」アナログ盤 1987年

 シティポップとして、リズムもテンポも良く、独特の声は今聴くと色気さえ感じる。いつの間にか私はそんなことも言うようになった。稲垣さんの声はどこか艶っぽい。

 ジンジャーエールと、このCMソングを思い出したのは、NHKののど自慢のゲストに、稲垣潤一が出ていたということを知ったからだ。稲垣さん、おん年70歳。
コンサートに行くまではないにしろ、とにかくカナダドライ・ジンジャーエールが気に入っていたことから、「思い出のビーチクラブ」の一曲が目当てでこのアルバムを買った。
 ヒット曲はたくさんある。「ドラマティック・レイン」「夏のクラクション」「ロング・バージョン」... and more.
CMや映画やドラマに数多く使われていて、その声は自然と耳に馴染んでいた。

 ただただびっくりした。
のど自慢のゲストに稲垣潤一!

 いやはや、時が過ぎる速さときたら、光の速さかというのは大袈裟ではあるけれど、昔から聴いていたミュージシャンたちがお年を召されて、容姿が変わっていくのもまた驚きの速さな気がする。私も年を取るわけだ。最近は白髪も増えて、髪を染めてもきりがないから染めるのをやめて、縮毛矯正して伸ばしていた髪を首の後ろが見えるくらいに短くした。お化粧にコンシーラーを使い始めたり、緩やかに老いに馴染めるように今から徐々に気持ちを調えている途中。

ベスト版 「コンプリート」アナログ盤
2nd アルバム「シャイライツ」アナログ盤 1983年

 のど自慢は見逃したので、レコードを聞いてみることにした。
「コンプリート」「シャイライツ」は、CDに買い換えた知り合いから貰ったもの。まだコンポにはレコードプレイヤーも付いてたので、十分聴けたしありがたいので遠慮なく持ち帰った。今思うと悪いことしたような気になる。なんだか色々なLPを頂いた。
 今はポータブルのレコードプレイヤーで聴いている。
「コンプリート」「シャイライツ」のA面一曲目はどちらも「ドラマティック・レイン」。ベスト版の「コンプリート」にはまだ「思い出のビーチクラブ」は入っていなかったけれど、全部聴いてみようと音楽を流しながら部屋から出たり入ったりしていて、途中でヒョッと声が出ちゃった。

え?今、なんて?

わずか16の
細い肩に惑いすべらせて
俺を むき出しの
白い肌で 受け止めてくれた

君は汗ばんで
甘く 潮の香り

作詞 湯川れい子  「風のアフロディーテ」

16歳の少女に何をなさったの?

「シャイライツ」A面2曲目、「風のアフロディーテ」。

 1983年当時にこの曲があって、どこかで流れていてもおそらくそこに疑問を持たなかったのかもしれない。実際に先日このアルバムを聴くまで、こんなことを思いもよらなかった。むき出しの白い肌で俺さんの何を受け止めたのかはわからない。聴く人による。驚きはこの曲を当時29歳の青年に歌わせたということですがな。大丈夫だったの?
驚くほうがおかしいの?もうそういう脳になってしまった。いつの間にか。
もうとっくに、16歳の少女に自己投影することは難しい。保護対象になってしまう。仕方がない。

 思えばバブル期は、10代20代の女性はみんな大人びて見えていた。ファッションもヘアメイクも今とは様子も全然違う。守られることよりも女性も自立しようという風潮が芽生え始めた頃。社会がそういう向きになってはいてもまだまだ女性は結婚や出産適齢期が来るんだという、人生のぼんやりしたものを意識していた。周りもそうだったし、そういうものだと私も思っていた。そのぼんやりとした夢みたいなこと、結婚、出産が、人の人生のその後を大きく左右する重大事だとも知らないで、まるで歯が生え変わるかのような、または身体が自然と初潮を迎えるかのように、いつかその日がふらぁっとやって来るのだろうという思い違いをしていたことに気が付いて、後々愕然とし途方に暮れてしまうことになるのに。

 バブル景気同様、恋愛至上主義が盛り上がって、男も女もなにかちょっとずつおかしかったのかもしれない。おかしかった方が良かったのだろうか。少子化問題は解決するのだろうか?とにかく16歳の子どもは、いくら時代が変わっても、傷つけてはいけない。湯川れい子さんも今はこんな歌詞は書かないだろうし、30歳近い青年に歌わせはしないだろう。「風のアフロディーテ」は、アルバムにしか収録されていず、CD化もされていないようである。

 Stay Gold きらめく〜時間の波間に〜🎵 夏の日の〜 まぼろし〜たちさ〜🎵

ゴールドの色合いで、シュワシュワとした、カナダドライのジンジャーエールは、グラスの中でキラキラと輝き、小さな泡はすぐにプチプチと弾けて、ちょっと辛めの爽やかさを口の中に残して、いろいろなことを思い出させる。
そして、また飲むのだろう。今度は頭の中で「思い出のビーチクラブ」を鬼リピさせながらになるだろう。なにせのど自慢にゲストで出演していたと知ってから6日も経つのに脳内再生が止まらないのだから。

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