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【現代日本人がウォッチするべき七賢人】~林修(後編)~

コチラの記事は後編です。前編から読んでいただけるとより理解が深まります。

■テレビ番組について

そして林修先生の真骨頂ともいえる番組が始まりました。それがTBSで2014年4月22日から 2015年3月24日まで放送された『林先生の痛快 ! 生きざま大辞典』という番組です。
これは僕が記憶している限り、彼のレギュラー番組の中で最も教養的な番組でした。林修先生が本当に尊敬する人物にフォーカスし、先生の視点からその実績や半生、名言などを紹介していく。例えばポアンカレ予想やフェルマーの最終定理を解決した数学者を紹介したかと思えば、手塚治虫から赤塚不二夫、松井秀喜から野村克也、中島義道からハンナアーレント、森内俊之から村山聖などバラエティに富んでいて、これほど刺激的な番組はありませんでした。

ただし本人が事前に綿密な準備をして収録するという形式だったために、時間的な余裕がなくなり、番組が終わったのではないかと推測します。週一で、あの分量の番組を準備するのは物理的に不可能でしょう。これは本当に神懸っている番組であり、僕は半分くらいしか録画しておらず、死ぬほど悔やまれています。DVDでの販売を希望します!このような実績が示すように、十分な時間さえあれば本当に質の高い教育番組を作ることができる人だと思うのです。

本業の予備校講師と、全国各地での講演、テレビバラエティの収録という忙しい毎日の中で、試行錯誤しながら落ち着いたのが今の状況だと思います。情報の密度は落ちたと言わざるを得ませんが、そこは林修先生です。それでも十分に見る価値のある番組に継続的に出演し続けています。そこで、現在放送中で、見て損がない番組を三つ紹介します。

①『林先生が驚く!初耳学』→『林先生の初耳学』→『日曜日の初耳学』
基本的には、知識豊富な林修先生が知らないであろうネタを出題して「知っているor初耳」ということを試すという構成です。ここでは出演者VS林先生という構図になり、いかに林先生をやり込めるか というゲームが展開されます。「知っている」と宣言しても、その知識が合っているかどうか審査されます。そこで初耳コンシェルジュの大政絢に「林先生、その説明、全然違います」と言われてガックリする林修先生。

いかにもテレビバラエティ的でチープな発想ですが、その「いじめられ役」にも嫌な顔一つすることなく適応しているのがまずスゴイ。そして前述のように、ゲストの女優との即興演技や、モノマネなども披露します。本業とは関係のないこれらのふるまいは、サービス精神から来ていると言ってよいでしょう。
流行や飲食店など俗っぽい内容もありますが、ビジネス関係のニュースや話題の書籍の紹介など、林修先生が今取り上げておくべきだと考える教育的なトピックについての話題も多いです。たとえば通称 “ふろむだ本”と呼ばれる『人生は、運よりも実力よりも「勘違いさせる力」で決まっている』や、中室牧子『「学力」の経済学』、新井紀子『AIvs. 教科書が読めない子どもたち』を真っ先に紹介したのはさすがだと思ったし、数学者の森重文へのインタビューで「小数点以下の0を消さないと減点」や「立体の体積を求めるときのかけ算の順番を守らなければいけない」といった指導は間違っていると断言しました。また今いちばん会いたい教育者として麹町中学校長の工藤勇一との対談では「宿題の効用のなさ」を指摘し、教育の本来の目的に立ち返るべきだ、という視点を示しています。

改めて言及するまでもないですが、この重厚な内容をゴールデンタイムのバラエティでやるということに最も大きな価値があります。それはここまで芸能界に深く食い込んだ林修先生だからこそできる貢献です。彼はまさに教育者を体現している。普段は Twitterで息巻いている教育アカウントも(たいていネットだけに生息する教育者は林修先生を毛嫌いしている)、この時ばかりは「よく言ってくれた」と持ち上げていました。世の中に影響力を持つとはどういうことか、というのを如実に表す事例であると思います。

この番組の魅力はこれだけではありません。「高学歴ニートに熱血授業」というコーナーでは林先生や橋下徹、古舘伊知郎といったクセのある講師が人生訓を語っていて面白いです。他にも学院生がその 道のプロに学ぶという形式で「アンミカ先生が教えるパリコレ学」「吉川美代子先生の女子アナ学」「ギャル曽根のパティシエール学」などのコーナーが展開されて、ものすごく刺激的です。特にアンミカ先生の印象が激的に変わりました。アンミカはクイズ番組の「東大王」でも難読漢字をバンバン読むなど 大活躍をしていてその深い知識に驚きますが、本業がモデルであり、また指導者としても優れていると いうことを感じます。また、「スキャンダル日本史」など、文学者や偉人など、さまざまな知識人を紹介することも多く、勉強になることが多い番組です。

最近では様々な分野の第一人者(芸能人など)をゲストに呼んでインタビューで深く掘り下げるコーナー「初出しインタビュアー林修」がヒット企画です。その人選は、かつての「生きざま大辞典」を彷彿させる通好み。しかも林修先生本人が深くリスペクトを向けている人たちばかりなので、愛が感じられるだけでなく深く掘り下げる。今最も情報量の多い番組だと思います。初心者はまずこれからチェックしてください。だいたいまとめ記事にもなりますが。


②『林修のニッポンドリル』
MCに林修先生、副担任に千鳥ノブ、学級委員長に風間俊介を据えて、クイズ形式で授業をしていくという番組です。日常の雑学的な話題から始まり、日本語、神社仏閣、歴史などから、食品メーカーや製造メーカーにスポットを当てるなど、幅広い話題が出てきます。こちらも映像を交えた授業形式なので勉強になることが多いです。

日本全国の名家に潜入し、お宝を鑑定するというコーナーでは、ワタナベエンターテインメント所属、 元あかいらかのれきしクンが大活躍します。彼はMBSの「芸人○○王(戦国時代編)」で優勝するなど実力は折り紙付き。良い活躍の場を与えられています。 全国の(首都圏が多いですが)街のちょっとした謎を解明するという企画も面白いです。しかしまれに長嶋一茂や千鳥大吾が悪ふざけするだけといった回もあり、注意が必要。あるいは飲食店メニューの人気ランキングなど、情報量が薄いときもあります。

③『林修の今でしょ!講座』
こちらは林修先生が生徒となって、三人ほどの学友と共に様々な分野のスペシャリストから授業を受けるという形式の番組です。かつてはレギュラー番組でしたが、現在は特番がメインで大まかに月一の二~三時間放送であることが多いです。頻出の学友は伊集院光、伊沢拓司。

一時期は健康系に寄っており、「名医に聞いた」とか夏の健康法、冬の健康法、風邪の予防、肥満の対策、健康長寿の食生活、食材の調理法とかにフォーカスすることが多い。これはこれで面白いが、林修先生の独自の視点からの解説といったものがあまりないのでそこまで面白くはない。所々で出題されるクイズも、クイズ形式にされる意義の分からないものばかり。当ててもハズレても何もない。

やはり欠点は林修先生が受け身の出演者でしかないということだろう。であるならば、彼を起用するうまみはない。ただの知名度に頼った冠番組なのだろう。売れっ子タレントであるためには、必要な仕事なのかもしれない(メディアの需要に応えつつ、事前準備の要らない番組であると思われる)。

アニメや声優に特化した内容は、マニア心をくすぐる。「東大生がオススメする○○ランキング」も良い。かつては「歴史を変えた戦国武将」とか「日本の経済を変えた偉人」とかいう知的教養に寄った内容が多く、特に東大文学部卒で歴史学者、ライバルであるところの本郷和人先生が出るときは最高に面白かったのだが(永久保存版)、最近は減ってしまって悲しい限りである。

④余談 『ポツンと一軒家』
衛星写真で見える、山の中にポツンと存在する一軒家を訪ねてどんな生活をしているかを紹介する番組。ロケに行って突撃取材するのに芸能人を起用せず、番組制作クルーが行うというストロングスタイル。この番組で所ジョージと並んでMCの座についている。
都会を離れて山籠もりや自然豊かなところに住みたい人が多い昨今においては、癒しとあこがれを喚起する番組なのかもしれない。林修先生オタとしては、先生らしさは特になく、コメントを入れる程度だから物足りない。個人的には積極的に見たい番組ではないが、両親のほか、一緒に住んでいる祖母が大好きな番組なので、その意味でも幅広い年齢層にリーチしている存在なのだということを伺わせる。これがタレントの目指すべきゴールだろう。

■女好きを隠さない

ときに自身の恋愛論(デートにおける戦略や体験談)を語ることからも分かるように、女性が好きというキャラは隠していないようです。これも僕の中で信頼できるポイントです。男は若くてキレイな女 が好きって、本質だと思うんです。『初耳学』で若手女優がゲストにいるとまず握手しに行くというふるまいや、『ニッポンドリル』内でクイズが出されたときにお気に入りの女優が回答すると強引に正解にしてしまったり。可愛い子に対して採点が甘くなるって、ベタですが、男のオタク心を分かっているなあと思うから僕は好きです。教育の本質は「えこひいき」にあると思います。先生から教えを乞いたいなら「ひいきにしてもらう」という視点を忘れてはいけない。むろんここで言う「可愛い」はビジュ アルのことだけに限らないので誤解しないでくださいね。内田樹先生であれば「師をその気にさせること」と言っていますね。

おそらく本当にそういう性質で、それを隠していないんだと思います。ちなみに講演ではもっと前面に押し出してきていて、「学生時代に家庭教師を引き受けていたら次から次へと指名されるようになって、しょうがないから可愛い女の子だけに絞って指導してきた」と豪語していました。最近はどんどん教育格差が広がってきていて、その証拠に「東大生女子が可愛くなってきている」というんですね。以前にテレビで「東大女子50人VS高学歴女子50人」という企画があった時に、東大生の方が明らかに可愛かったと。どうして東大女子が可愛くなるのが格差なのかというと、自分みたいな講師が優先的に教えるからだと言っていました。これには笑いました。

■思想・語録


「努力は必ず報われるという言葉は不十分。正しい場所で、正しい方向に向かって、十分な量なされ た努力は報われる」
「受験勉強に、フライングもスピード違反もない」 「文豪の小説は格調高い作品。最近のベストセラーは離乳食」
「勝てる場所で勝負する」
「友達は要らない」
「ストレスはノーカロリー」
「デブには二種類いる。グルメデブとジャンクデブ」
「本を読まない人は嫌い」
「ゴールを設定して逆算する。デートと記述問題は同じ」
「今の東大生はスッカスカのカッスカス」
「浪人制度は廃止した方が良い」
「男子生徒が頼りないのは男親が軟弱だから。女子の方が優秀」
「東大生女子が可愛くなっている」
「岩波文庫が充実しているのがよい書店」
「作者の顔を見ながら本を読む」
「文学者が異性にモテたかモテていないかは、作品に決定的に影響を与える」

物事を分析するとき、2×2のマトリックスを多用する。 たとえば「仕事が好き・嫌い」×「仕事ができる・できない」など

■本を書くことに関して

無類の文学好きであり、東海中学校時代に1000冊近い本と日本文学全集を読破。元々は自分自身で決定的な文学作品を書くという夢があった。
テレビで売れっ子になってから、いわゆる「自己啓発本」の執筆依頼が来たことに驚いたそうです。それに応じるか迷ったが、頼まれたことで自分にできる限りのことは精いっぱいやるというスタンスで 『いつやるか?今でしょ!』を執筆。その後にも立て続けに本を出版することが続いた。最初の数冊で累計100万部以上売り上げるベストセラーになる。また、対談本を打診された際には、まだ東京都知事になる前の小池百合子を指名している。それで実現したのが『異端のススメ』という本です。のちに小池フィーバーが起こったことを考えれば、先見の明があるといえます。

自分は本を書いても良いんだと認められた気がして、今度は本当に自分が書きたい内容の本を書くことを決意する。それが『うなぎ、すし、てんぷら』という本です。これがびっくりするほど売れず、数少ない重版がかからない本となった(あまりにも流通している数が少ないため、逆に中古市場でプレミアがついている)。ここで出版社に迷惑をかけてしまったと痛感した林先生は、本を書くことを封印する。プロの世界では、一度負けたら終わりだという考え方らしい。

ある時期に立て続けに出版したこと、またこれほどの知名度がある人にしては、書籍の数が少ないといえます。僕個人としてはもっと新しい視点のものを出してほしいと思いますが、一方で同じような内容の焼きまわしを何冊も出版する人がいることを思えば、いかにも林先生らしいなとも思います。

■「子育て論」に死角なし

講演活動では「子育て論」を展開してきました。 僕は2016年8月、2016年11月に、直接講演を聞く機会を見つけて、実際に会場に足を運びましたが、綾小路きみまろばりに会場の高齢者たちをいじってから、「あなたたちは逃げ切った世代です。だけどまだまだやるべきことはある。これからを担う子どもたちこそが大変なのだから」と檄を飛ばしました。

これだけ子育てについてや、教育の分野を語っていながら、彼自身が子育てをしていない(子どもがいない)という状態でした。しかし2016年に第一子が誕生(公表したのは2018年だったか。テレビバラエティの中でサラっと発表した)。教育を語る者としてほとんど唯一と言ってよい手落ちであった「子育てを経験していない」という点も、現在進行形でクリアしつつあり、もはや死角はない。

■How To Watch

テレビを見る、ということでしかないだろう。とはいえ現状、あまりにもテレビ業界で過剰に消費されて しまっている感があり、一つ一つの情報量は薄くなっているのが正直なところだ。しかしこれは彼の責任ではなく、自身の鍛錬とメディアから求められる仕事とのバランスを取っているゆえだろう。林修先生自身、 現在あまりにもメディアに消費されてしまっているという自覚があり、このバランスは今後変わっていくかもしれない。 本は数冊しかない。基本的にどれでもよいが、処女作の『いつやるか?今でしょ!』をまずは押さえよう。 受験勉強というものに多少なりとも関わっているなら『受験必要論』、ビジネスマンなら『林修の仕事原論』 を。文学にも触れておかなければという危機感を持っている人なら『林修の「今読みたい」日本文学講座』 が良い。古典作品の解釈の勘所といったものを教えてくれる。有名作家の代表作をサラっと押さえるということが教養人への第一歩である。 上級者向けには『すし、うなぎ、てんぷら』を手に取ってもいい。とはいえ現在 amazonでもプレミアがついており、そう簡単には入手できないのだが。 もしもあなたが林修マニアへの道を踏み出したいなら『世界の名著』という番組のDVDをご紹介したい。 林修先生が各界の著名人をゲストに呼んで、ゲストが選んだ「究極の一冊」の本について語るという、BS-TBS で放送された番組である。ハッキリいって知的興奮レベルが最高峰だ。ゲストそれぞれが思い入れのある作品を持ってくるが、当然のことながら林修先生もそれを読み直して、様々なテーマについて深く入り込んで 議論を展開するというのは、さすがだと言わざるを得ない。趣としては NHK『100 分 de 名著』に近い。 この番組の DVD-BOX(全8巻)が存在しており、正規にはユーキャンの通販で購入することができる。(一括払いで30400円となっている) 僕はこれをヤフオクで5000円でGETした。もちろん、落札の瞬間に人知れずガッツポーズをしたのは言うまでもない。 林修先生の講演会に足を運ぶという活動もある。ただしこれは日本全国で行われているうえ、地元でしか告知していないことが多く、なかなか情報が得られない。僕ですら過去2回しか参加したことがない。本気で探せばもちろん不可能ではないが、だいたい同じことをしゃべっている。とはいえ一度は実際に聴いてお きたいところだ。 ここまで来たらあとは最終段階。東進衛星予備校に入学して、林修先生の映像授業を聞くという手段くら いしか残っていない。健闘を祈ります。

■おわりに

この文章を書いたのは2年前(2019年末)だが、2022年現在でも芸能界においての林修先生の活躍ぶりは衰えることを知らない。2013年放送の『情熱大陸』で「(こんなにテレビに出るということは)一年後にはあり得ない」と言っていたことから考えると、恐ろしいほどの耐用年数だ。おそらく今後も教養番組の顔として活躍し続けていくだろう。これからも心の師匠として、ウォッチしていく予定です。

ながらくチロウショウジとして同人誌を発行してきました。これからはnoteでも積極的に発信していきます!よろしくお願いします。良かったらサポートしてください。