見出し画像

【現代日本人がウォッチするべき七賢人】~岡田斗司夫(後編)~

■『オタクはすでに死んでいる』

この世界をクリアに見通すために、まずは『ぼくたちの洗脳社会』を読んでほしい。現在は「農業革命」「産業革命」に続く第三のパラダイムシフト「情報革命」の真っ最中であるというトフラーの「第三の波」を紹介しつつ、さらにお互いが影響を与え合う「洗脳社会」がやって来るということを説明した本だ。刊行から27年たった今も色あせない。その耐用年数の長さは驚くべきだ。

そのうえで、僕にはもう一冊バイブルとしている書がある。それが『オタクはすでに死んでいる』だ。ざっくり言うと、そこで語られるのは「オタクとは精神的に強い(=賢い)ものである」という定義と、世間にはもう軟弱なオタクしかいなくなってしまった(=オタクは死んだ)という諦観である。最後には、散り散りになった真のオタクたちに向かってこんなエールを送る。
「オタクが死んだあと、オタクたちは一人一人が「私はこれが好き」「あなたも好きになるかもよ?」という、小さなオタキング活動をするしかない」

この本は、少し心が弱くなってしまったときに何度でも読み返したくなる勇気の書だ。僕は教育的観点からも非常に重要だと思っている。これは岩崎夏海さんの「やると決めたらとことんやる」「自分が本当にやりたいことは何かということに忠実に向き合う」ということにつながる。要するに「お前の好きってそんなもんなの?」ということだ。
僕が好きな箇所でこんなフレーズがある。「世間とは別の価値観を持ち続けるには、知性と意思が必要です。その両方を兼ね備えている人間がオタクだと考えています」というものだ。

オタクは好きなものを自分で決める、だから世間に理解されないのは当たり前であり、それゆえに仲間外れにされる。仲間外れにされてもあまり気にしない。なぜなら世間はバカばかりだから。一般人には理解できないだろうが、俺には関係ない。オタクであることということは、普通を超えるという超人志向なのだ。

普通の人は、何が好きかをテレビで教えてもらったり、好きなものを世間に決められている。押し付けられている。あるいは思い込まされている。何を好きでいれば世間から弾かれないだろう。今話題になっているものは何か。それがメディア(ラジオやテレビ)という巨大な洗脳装置が発明されて以降の大衆のトレンドだ。

「好き」だと言ったわりには、「どんなところが好きなの?」「何で好きなの?」と問われると途端に口ごもったり、「好きに理由は無い」などと説明を放棄したり、「好きだから好き」というトートロジーに逃げるような、軟弱な「自称オタク」が多いのではないだろうか。そんな奴はどうせ、突き詰めれば「テレビでやっていたから」「有名なあの人が好きだと言っていたから」という程度でしかないのだろう。自分で決めたと思い込んでいるのは本人だけで、要は他人に決められているのだ。フランスの心理学者ラカンは「人は他者の欲望を欲望する」と言った。よほど自分というものを見つめていないと、そこからは逃れられない。

僕もアイドルオタクをしてきた中で「今これを好きだというとオシャレなのらしい」というモチベーションで急にオタクを自称するという似非オタクの姿を嫌というほど見てきた。みなまで言うまい。僕が2006年に「AKBが好きだ」と言ったことに対して「キモチわりぃ」と言い放った人間が(これはまったく問題ない。キモチ悪いのは圧倒的な真実だから)、2011年に「ももクロちゃんサイコー」とSNSで公言していたことを、僕は絶対に許さない。巨大なブーメランが自身にぶっ刺さっていることを自覚する程度の知性は、誰しも持っていてほしいものである(僕はその辺、執念深い)。

要するに弱い人間はお墨付きが欲しいのだ。「推しても良いよ」と背中を押してほしいのだ。僕はそのような人間を、オタクとは認めない。全てを与えられて生きており、永久に自分で好きなものを見つけるということができないのだろう。

この話について、僕には忘れられない出来事がある。秋葉原に「最強の地下アイドル」を自称するアイドルグループがある(事務所自体は2010年から。前身グループがあり、現体制は2013年から)。これが仮面をかぶってパフォーマンスをするという一風変わったコンセプトで、完全にイロモノ扱いされていた。メンバーのスキャンダルをネタにするところもあった(初期AKBに通じるものがあった)。一言で言うと邪道であり、アイドルオタクの中ではいじって(バカにして)いいものとされていた。かつてはAKB、その後も比較的正統派のグループが好きだった僕としても、その周りの空気をそのまま受け入れ、軽い気持ちで「僕には縁がないものなのだろう」と考えていた。

僕が疑問に思うのは、そこで周りの空気に迎合し「アレは無い」とかいう人たちだ。「キライなんだよ」「バカじゃん」という人がそれなりにいる。よくよく聞けば、ろくに見たこともないのだと言う。要は周りのオタのマネをして、空気を読んでいるだけ。オタクになり切れてすらいない、思考停止人間なのだ。そしてたまたま見る機会があれば、「ろくなものじゃない」という先入観を補強するものだけを探し、より自分の思い込みを深めるのだ。こうして一般人の思想というものは形成されていく。

しかし僕は2014年、実際に生で見たそのグループに圧倒され、翌2015年には同人誌『仮面女子の研究☆』を発行するに至る。もっといい評判を聞いていたら、そのグループ(推しメン)の一番いい時代を見られていたかもしれないと思うと、今でも悔やまれる。僕ですらも、そのように影響を受けてしまっているのだ。だから人の言説というのは思わぬところで誰かに影響を与えている。
ちなみにAKB現場で知り合いだったオタと、地下の対バンで数年ぶりに再会したことがある。お互いに違うグループを目当てに来ていたのだ。そこで僕はその最強の地下アイドルグループを推しているんですよ、そうなんですね~、なんてやり取りをした後、ライブを堪能。ライブ後にそのオタがこう言ってきました。
「いや~、あいつらバカですね」(ニヤニヤしながら)
あのー、意味わかりますか?数分前に僕が「推しているんですよ」と言った対象にですよ、「バカですね~」ですよ。しかも笑顔で。僕その時背筋が凍りました。笑顔で「いやいや、結構かわいい子が揃っているんですよ」なんて取り繕ってしまった。人間というものは咄嗟の時に反応のしかたを忘れてしまう。

では「今さら」とか「アレはない」とか批評している人たちは、一体何を見て、何を推していたのだろうか。有象無象の短命のニセモノの地底の雲散霧消した泡沫アイドルだ。もはやこの世界に存在していない。マニアたちがせっせと記述する「かつて存在したアイドルグループ一覧」にかろうじてその名前を刻んでいるだけだ。もちろん前述のナチュラル失礼オタ未満オタも、有象無象の短命のニセモノの地底の雲散霧消した泡沫アイドルを推していたのは言うまでもありません。

その一方でくだんの最強の地下アイドルは、2022年現在も秋葉原に常設劇場を構え、元気に活動を続けている。その魅力と批評については、かつて『アイドルと文学Vol.1』という冊子に寄稿した「あなたは仮面女子を推してもいい」という小文に書いている。もしご興味がある方は、読んでみてほしい。

話が脱線してしまったので戻しますが、僕がこれほどこの本に惹かれるのは、やはり僕自身が強いオタクでありたいし、多くの人にもそうあってほしいと思っているからだろう。なぜならそれが自分の人生を生きるということだから。

岡田斗司夫がこの本を書くきっかけになった出来事として、『TVチャンピオン』という番組の「アキバ王選手権」の審査員として出演した時の違和感を語っている。そこで準決勝まで勝ち上がった三人が、期待に反して普通の兄ちゃんだったというのです。彼らは「すごいファンでありたい」「一番のファンになりたい」ということしか言わない。良い奴だなあと思うけれど、「それがオタクとしてすごい」ことなのかなぁという違和感。そしてその後の記述を引用します。

・出来合いのお宝
この番組で覚えた違和感はもう一つ。「持っているお宝を出してください」という審査がありました。ところが、それぞれの候補者が持参したお宝が、なんだかんだと本人たちは解説をするのですが、「買ったもの」ばかりだった。
もちろん限定品であったり、入手難易度が極端に高かったりするわけで、お宝には違いありません。
でも所詮はお金で買えるものです。それを自分が声優が好きであることや、オタクであることのシンボルとして、「お宝です」と出す姿、それも私にはかなりショックでした。
ちなみに候補者の中で、私が「あ、この人がいちばんいいな」と思ったのは、少なくとも同人誌を作っている人でした。
何が「いいな」だったかといえば、自分が本当に好きなものがあって、そのファンであるということを周りに知らせようとしているところ、その姿勢に共感できたからです。」
                  「オタクはすでに死んでいる」p19

ここで僕が「あっ、俺やん。俺のことやん」と思ったのは言うまでもありません。

自分の好きなものについて、抑えきれなくて外に発信してしまう。たとえそのことで白い目で見られても気にしない。逆に「これの魅力が分からないなんて、節穴か?」と心配になってしまう。これこそが真にあるべきオタクの姿ではないでしょうか。これが僕がオタキングから受け取ったメッセージだ。

もし中学生に「将来何がやりたい?」と聞いたとき「ユーチューバー」と返ってきたら、僕は次にこう繰り出そうと思う。
「ユーチューバーは良いけど、君は何を発信する?」


■How to Watch


とにかくしゃべりが真骨頂の人なので、ブロマガの有料チャンネル(月額550円)に加入し週一回放送の「岡田斗司夫ゼミ」を見ること。これは動画がアーカイブされるのでいつでも見られるのでリアルタイムで見る必要はない。ただし現在、見られる過去の動画は二か月分まで。プレミアム会員(月額2200円)に加入すると過去の動画が全て見放題になるが、過去の内容に関しても再放送という形でかなり頻繁に公開されるので、まずは通常会員で試してみるのがおススメだ。

だいたい90分の放送のうち前半45分が無料放送で、YouTubeにもアップされる。YouTubeはあくまでも集客のためだったり、特定の映画などの作品についてしゃべったものが切り出されている。もちろん無料部分だけでも相当な分量はありますが、そこでお金をケチって前半だけしか見ないのはあまりにももったいない。全体的に言えるのは、無料部分だけを享受しているのは、賢い消費者ではなく端的に「詰めの甘い人」である。逆に言えば、お金を払って購入する動画はいずれも情報量が多く、たいていハズレがない。

ブロマガの文章も、書籍も、基本的にはニコ生ゼミでしゃべった内容を書き起こしたものである。だから動画を見ていればカバーできる。Twitterは告知でしかない。とはいえフォローしておいても損はないだろう。気になるトピックにアクセスできるかもしれない。

書籍ではまず、情報社会が完全に世界を覆いつくした現代に生きる人間として『ぼくたちの洗脳社会』を読むこと。 オタクとして強くありたい人は『オタクはすでに死んでいる』を読もう。あとは適宜、タイトルから選べばいいだろう。 ダイエットに興味があれば『いつまでもデブと思うなよ』、結婚生活というものの認識をアップデートしたいなら『フロン』という本がある。何か人生における悩みがあるなら『悩みのるつぼ』にヒントを与えられるかもしれない。

 一旦農業文明を経験すると不安定な狩猟生活には戻れない。このような社会変化を、トフラーは「引き返せない楔」と呼んだ。これは『ぼくたちの洗脳社会』でも何度も引用されているキーフレーズだ。そして今あげたタイトルのいずれも、一度読んだら後には戻れない「引き返せない楔」を打ち込まれる可能性を秘めている。読む前の状態には戻れない。そう、読書をするとは、変身することなのだ。後戻りはできないと心得よう。

■おすすめの現場


1、ブロマガ有料チャンネル「岡田斗司夫ゼミ」に加入し、ニコ生放送「岡田斗司夫ゼミ」を見る。


2、著作を読む。
『ぼくたちの洗脳社会』デビュー作にして、1995年に書かれているにも関わらず現在の社会状況を見事に描写した決定的書物。必読。僕が一番影響を受けた本。
『オタクはすでに死んでいる』オタクとはどうあるべきかというバイブル。一番好きな本。強いヲタクのあり方を教えてくれる。すでにオタクは死んでしまったのだ。そんな世界でどう生きるのか。
この書籍の元となった阿佐ヶ谷ロフトでのトークイベントがYouTuteのアップされており、これもよい。必見。
●Youtube「オタク・イズ・デッド 岡田斗司夫クロニクル2006/5/24」

『評価経済社会』『いいひと戦略』『いつまでもデブと思うなよ』(レコーディングダイエット)
『フロン』夫をリストラせよ。オンリーユー・フォーエバー幻想からの解放。
『ユーチューバーが消滅する未来』サクッと読める未来予測。現代版・簡易版「ぼくたちの洗脳社会」
なお、kindle unlimitedで読めるものが多い。
3、Youtubeで検索すると、講演がまるまるアップロードされていたり、映画やアニメ作品に関する数十分の評論、特定の話題に関してのトーク部分が切り出されている。細切れの時間に享受するには便利だろう。
4、Twitterは基本的に動画の告知でしかない。新しい情報はない。

■2022年の追記

2022年も変わらず岡田斗司夫の勢いは止まらない。インターネット内での存在感もYouTubeチャンネル登録者数とともに赤丸上昇中だ。やはり切り抜き動画の影響か。今やネットの駆け込み寺と言えばひろゆきかオリラジあっちゃんかメンタリストダイゴか岡田斗司夫である。

僕は相変わらずニコ生のブロマガ通常会員(月額550円)で、アップグレード動画の勢いがすさまじいから、たまにそれも見たりするととてもじゃないけど通常ゼミ放送すら追いつけない。2か月分くらい普通に見視聴が溜まっている。ただ一か月と空けて見ていない通常回は無いと思う。ガンダム講座は分からないので見れていない。やはり映画関係は良い。どんなタイトルでもハズレがない。斗司夫ちゃんがオススメする映画はとりあえず見なければ!という使命感に駆られている。

サイコパスの人生相談とか、本当にすごいよ。皆に見てほしい。ということでこれからも変わらずウォッチしていく予定です。

ながらくチロウショウジとして同人誌を発行してきました。これからはnoteでも積極的に発信していきます!よろしくお願いします。良かったらサポートしてください。