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【現代日本人がウォッチするべき七賢人】~岡田斗司夫(前編)~

【リード画像 引用「アオイホノオ」島本和彦】

林修先生の記事に引き続き、岡田斗司夫さんの記事を公開します。同人誌頒布から2年経ってもまだウォッチし続けている知識人の一人です。同誌からの抜き出しは今のところこの2人だけの予定です。ところどころ加筆・修正を行っています。こちらも前後編でいきます。

■岡田斗司夫

●profile
作家、思想家、哲学者、オタク評論家
1958年生まれ(63歳)
大阪府大阪市出身
株式会社ガイナックス元代表取締役社長
愛称:オタキング

●主たる活動
ブロマガ、YouTubeチャンネル
『岡田斗司夫ゼミ』運営
FREEexの運営(代表は引退)
講演活動

●代表作
『ぼくたちの洗脳社会』
『オタクはすでに死んでいる』
『オタク学入門』
『評価経済社会』『いいひと戦略』
『いつまでもデブと思うなよ』(レコーディングダイエット)
『悩みのるつぼ』(人生相談)
『フロン』
『遺言』
『ユーチューバーが消滅する未来』

元々はオタキングを自称しているアニメ・漫画などのオタクで、評論なんかをしている人という認識。評論家は基本的に僕の中で頭が良い人であり、とはいえアニメなどに造詣が深くない僕としては別世界の存在だった。『マンガ夜話』『アニメ夜話』というテレビ番組をやっているのも知っていたが、見たことはなかった。要するに、自分の中でそこまで重要度の高い人物ではなかったのだ。しかし2010年ころ、知り合いから「チロウくんは岡田斗司夫の『ぼくたちの洗脳社会』を読むと良い」と言われて読んだのが全ての始まりだった。僕の中で決定的に見る目が変わった。

結論から言うと、とんでもない天才である。というか未来予測が尋常じゃないくらい正確な人。
(ちなみにWikipediaに面白い記述があったので引用)

「幼少時に学校で受けた知能検査で、自身の知能指数が148以上あることを知り、頭が良いのなら宿題などは単なる機会損失に過ぎない、と、以後の勉学を放棄。この頃の夢は科学者になる事であった。」
「1978年、コンピュータを学ぶために大阪電気通信大学に入学するものの、当時発足していた「SF&アニメーション研究会」へ入部。学業以外の場所を得て、没頭する。大阪芸術大学の講義で本人が語った所によれば、一年生の時に履修届を丸々忘れてしまい、以降四年間は大学へ行くフリをしながら両親には仕送りを続けてもらい、籍を置いたままファン活動にのめり込んでいる。(略)
1981年、大阪電気通信大学へ履修届を出し忘れたため放校処分となる。」

やはり普通じゃない。ちなみに自称サイコパス。サイコパスとは、相手が感情的にどう思うかということを全く気にすることなく、プラスかマイナスかだけで物事の判断ができる性質。社会的成功者にも多いが、凶悪犯罪者にも多い。


■あまりにも早い未来予測

たとえば「評価経済社会」という言葉を提唱した。これからはお金ではなくTwitterのフォロワー数や、今ならYoutubeのチャンネル登録者数などの評価が、経済力として生きてくるというような話。「お金」と「評価」の価値が逆転するということだ。これをかなり早い段階で提唱し『評価経済社会』という本を2011年に出している。

『評価経済社会』という本では、こんなことを説明している。
産業革命によって、それまで信じられてきた宗教がオワコンになり、科学に取って変わられた。
そして情報革命が起こっている今、同じように科学と、科学が生み出した一連の価値観(合理的思考、資本主義、民主主義、近代的自我)がオワコンになりつつある。もちろん、宗教がなくなったわけじゃないように、科学もなくならない。それでも、かつてのように「科学こそが正義」だった時代が終わり、代わりに新しいパラダイムがやってくる。
その新しいパラダイムとは「自分の気持ち至上主義」だ。これは客観的事実や科学的な根拠よりも、個人の感情が優先される、つまり「ポストトゥルース時代」のことを予言しているのは明白だ。
評価経済社会とは、「自分の気持ち」が時代を席巻する価値観になった社会のことなのだ。

これは2022年現在ではかなり現実を表しているといえるだろう。各種SNS、YouTubeが活況を極め、クラウドファンディングが市民権を得た現在においては、むしろ当たり前すぎて新鮮さすら失われてしまった感がある。ポピュリズムと親和性が高く、トランプ旋風やブレグジットはこの文脈で説明することができる。中国では人間そのものの信用度を数値化することがすでに始まっており、日本でも先ごろLINEスコアという格付けが始まった。近いうちに、まともにビジネスをするためには信用スコアが最も重要だという時代が来るかもしれない。

またある時「従業員が社長に給料を払うという形態があっても良いんじゃないか」と言い出した。曰く、メンバーは社長に月額1万円というような給料を払い、その代わり社長は出版や講演によるあらゆるギャラをもらわない。社長はお金を稼ぐことから解放されることによって、よりダイレクトに社会に貢献することだけに専念できるという発想だ。従業員はそれぞれ自分の仕事も持っており(月1万円を払う余裕があるような人)、社長のそばで仕事ができるということに価値を見出す。ここでいう社長というのは、むろん岡田斗司夫自身である。

僕はこの構想を初めてニコ生放送で聞いたとき、衝撃を受けた。「そんなシステムが実現するのか?しかしこの人ならやりそうだ・・」。そしてその構想は「FREEex(フリックス)」という形で実際に動き出した。3年で強制卒業、最大会員300人までなどといった縛りがあり、それでも活況を呈していた。当時は相当にバッシングされていたと記憶している。ただのカルト宗教であり、信者ビジネス、搾取であるとも。しかし2022年を生きる我々には、このシステムが後に何と呼ばれているか想起するのはたやすいだろう。すなわち「オンラインサロン」である。

■洗脳社会とは何か

「社員が社長に給料を払う」などという表現があまりにもセンセーショナルなものだから、叩かれてしまう。しかし、もともとファンクラブとはそのようなものだったし、いざ世間に普及してしまえば何のことはない。要するにこの世界の未来予測があまりにも早く、あまりにも正確なのだ。その萌芽は1995年発行の『ぼくたちの洗脳社会』にも見て取ることが出来る。たとえばこんな具合だ。

・洗脳社会での消費行動
これからの消費行動は、どんどんサポーター的要素が強くなっていくでしょう。つまり「モノを買う」「お金を払う」という行為が、自分の欲しいものを手に入れるためや、自分の望むサービスを受けるためではなく、自分が賛同する企業やグループ・個人を応援するためになされることが多くなる、ということです。
「ぼくたちの洗脳社会」p168

これがオンラインサロン全盛の時代をいちはやく予測しているのは明らかだろう。それだけでなく、実証実験まで自分でやってしまう。それが後進にどれだけ影響を与えているか。ホリエモンはかなり早い段階でこのシステムを聞き感銘を受け、FREEexに加入。のちに自身のオンラインサロン「HIU(堀江貴文イノベーション大学校)」を立ち上げている。またヨシモトとマネジメント契約をしていた関係もあり、岡田斗司夫ゼミでまだ「ひな壇辞めます宣言」をしたあたりのキングコング西野亮廣と対談。そこでも「西野くんがオンラインサロンをやるなら~」という議論を展開し、その彼が今や日本国内のオンラインサロン市場の最も成功者であると言われているのは周知の事実だろう。西野さんの論で有名な「認知と人気は違う」という話も、岡田斗司夫はいち早く「知名度とコア層」という言葉で説明している。

つまり全ては岡田斗司夫から始まっているのである。おそらく彼自身が、現在における洗脳社会の実装を三年は早めたといってよい。であるならば、オタキング岡田斗司夫の今の発言をウォッチしておくことは、未来をよりよく見通すための手掛かりになるのではないか。

なお「FREEex」の運営は現在、後任の人間に任せているようだ。あくまでも実装が証明されたことで満足し、今はオンラインサロンというものにそこまでコミットしていないように思われる。

■ニコ生&YouTubeで週一回放送の「岡田斗司夫ゼミ」

とにかく一人でしゃべり続けることが大好きな人だ。そしてこの週一回のニコ生ゼミをライフワークにし、70歳まで続けるということを公言している(現在63歳)。このような宣言は、ハックルさんの「ブロマガ記事を最低十年は書き続ける」という姿勢と似ている。自分の中のネタが枯渇しないという自信があり、より高みに到達するために継続することが必要だと考えているからだろう。こういう人はとにかく継続するのだ。有言実行。それでも毎週毎週、話したいネタがあり過ぎて消化しきれていないようだから、そのポテンシャルに恐れ入る。

現在であればたとえば「人工知能が普及するとはどういうことか」「LINEスコアがどのような未来をもたらすか」といったことを積極的にニコ生ゼミで考察している。それだけではなく、人生相談(「悩みのるつぼ」という朝日新聞のコーナー、書籍タイトル)や面白い本の紹介、映画の考察、アニメ・漫画の解説など、情報のクオリティが驚くほど高い。ジブリのアニメ映画を語らせれば、2時間の映画に対して6時間しゃべる。ガンダムのアニメでは1話30分について2時間しゃべる。

この種の知識人には共通だが、さまざまな分野の歴史について勉強することを日常的に行っている。たとえば「ゴシック建築」とか「海賊の歴史」とか「奇妙な人体実験」とか「ハンバーガーの歴史」とかジャンルに縛られることなく、またどれも歴史的経緯から調べて説明しているので抜群に面白い。それは本人自身が楽しんで勉強しているからだろう。関連書籍の紹介とともにその成果を毎週のアウトプットで発表している感じだ。それを聞いているだけでも、こちらは知的興奮を刺激される。ゼミ内で紹介された書籍の積ん読およびamazonの欲しいものリストが絶賛溜まり中である。

ひろゆきの「切り抜き動画手法」が普及してからは、岡田斗司夫もそこに参入している。この効果もあって、YouTube登録者は増加の一途をたどり、72万人に到達している(2022年1月現在)。本人の意識としては、チャンネル登録者を増やしたいわけではない。10万人から30万人、50万人と増えるにつれて、明らかに客層が変わっていったという。これまで「サイコパスの人生相談」のコーナーで相談を受け付けているが、ここ1年で目に見えて10代の相談が増えたらしい。ニコ生→YouTube→YouTube切り抜き、と変わるにつれて年齢層が低くなっていくのだろう。たとえ若者の切実な恋愛相談でも容赦しないところが、見ていて痛快である。ただ、視聴者が増えるにつれて「知能指数を下げる必要がある」という表現をしており、これもまた世界の真実だなと思う。


■動画資本論

評価資本から動画資本へ。日々のニコ生ゼミは、そのままYouTubeへとアップされている。そこで、過去に上げた動画はそのまま資産として蓄積していくこととなる。これはYouTuberという職業が生まれてからは世界中の人が持っている共通認識だ。時事問題にももちろん触れるが、5年後10年後に見返したとしても楽しめるような射程を意識している。金曜ロードショーなどで有名映画が放送される際には、事前に過去の放送を再配信する。

さらに時間が経ち、あらたな世の中の動きと絡めて改めて動画を見欲しいときに、動画の前後にちょっとした解説・補足説明を入れて公開し直す。これを「アップグレード動画」と呼称している。こうすることでより過去の動画資産の価値を高めることができるのだそうだ。

いまYouTube動画およびYouTuberの数は飽和状態だ。この先どれほど動画というものが娯楽のプレゼンスを維持できるか分からない。しかし切り抜き動画、アップグレード動画、(もしかしたらスパチャ放送も?)とさまざまな手法で実践を続けており、岡田斗司夫の存在感は盤石なものになっていくだろう。

(後編に続きます)

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