プロ野球にCSが必要なワケ

初投稿でいきなりぶっこむわけだが、今まさに開かれているプロ野球のクライマックスシリーズについて、必要か不要かという終わりのない論争を目にしたことのある人もいると思う。

結論から言うと、CSは必要だと思う。このあとはわたしのひとりごとになので、CS不要論者の方もよろしければ暇つぶしにでも読んでいただければ嬉しい。

なぜこんなことを記事にしたかというと、それは私が応援する広島カープがファーストステージを勝ち上がったからなのだが、毎年この時期になると十中八九CSは不要だ、優勝チームが日本シリーズに行くべきだ、という声が声高に聞こえてくるので自分なりに決着をつけてみたい。

CSは不要?

CS不要論についてはSNSやまとめサイトを見ればいくらでも出てくる。

世間がどのように思っているのか、手っ取り早い記事があったので引用する。

8月29日の阪神戦のテレビ中継で解説をつとめた広澤克実氏が、「優勝時、1位と2位に5ゲーム以上の差がついていればCSはやめるべき」と発言

というように、リーグ優勝したのに日本シリーズが確約されないという不条理感が、CS不要論につながる主な理由だと思う。しかし、その不条理感を超えるメリットがあると理解している人がいるのもまた事実だ。

CS実施により、たとえレギュラーシーズンの優勝チームが早々に決まってしまっても、2位、3位争いへの興味・関心が維持され、いわゆる“消化試合”が激減した。チケット、グッズ等の売り上げにもつながり、興行的にも上々のコンテンツとなったわけだ。

前田恵氏『クライマックスシリーズは必要?不要? プロ野球ファンの意識調査結果を発表!』より

昔のようにリーグ優勝者が日本一をかけて戦う、という性格が薄れたので違和感を感じるが、消化試合が減ってファンは楽しみ、球団にとっても収益が増えるから悪くはない、これが一般的なCSに対する世間の認識だと思う。

野球界のトラウマ

ここで、CSが導入された当時の状況を振り返っておきたい。
CS導入は2004年のパリーグから始まった。2004年といえば、球界再編問題とそれに伴う選手会のストライキ。当時、サッカー人気に押されていた野球はこの事件で興行的にどん底だった。

結果的にパリーグのCSの導入は成功し、セリーグも追随した。

また、日本ハムファイターズや横浜DeNAベイスターズなど地域密着への取り組みやブランドとしての魅力向上への取り組み、マツダzoom- zoomスタジアムが提案したボールパーク構想が新たなファン、特に若い女性の支持を呼び込み、今やサッカーを追い抜く勢いで野球人気も回復している。

この時勢でCSを廃止することはビデオテープを巻き戻すことと同義だ。

CS開催で損をするのは誰か

ほぼ唯一と言ってもよい、CSで損をするかもしれない存在がいる。それは優勝チームのファンだ。選手や監督もリーグ優勝さえすれば一定の評価、達成感が得られるし、球団はCS開催権による収益が見込める。そもそも、CS不要論はファンや解説者などの外部の人間からの声がほとんどだ。

リーグ優勝の喜びは別にしても、ファンはリーグ優勝だけでは満足できなくなり、日本一になる贔屓チームの姿をみたいと願うものだ。だが、CSで負ければ日本一への切符を手にする前にシーズンが終わってしまう。とてつもない虚しさである。カープファンは2017年にCSでベイスターズに敗れこの虚しさを味わったのだ。

ちなみに、元中日監督の落合博満氏は監督としてCSを経験しながら現行のCSに異議を唱える一人だが、完全廃止を主張するような論調ではない。本音は別にあったとしても、CS廃止が現実的ではないと理解している証左なのだと思う。

アメリカMLBとの比較

CSは興行的に必要だが優勝チーム、特にそのファンは納得し得ない事態も起こりうる、というのがここまでで言いたいことだったのだが、ではアメリカでのCSはどうなのか、とりあえず比較に出しておく。

正確にはCSではないが、アメリカMLBのプレーオフでは、ア・リーグ、ナ・リーグともに地区優勝した3球団とワイルドカード2球団を加えてリーグ優勝決定シリーズが行われる。
ペナントレースでの優勝=リーグ優勝ではない点がまず日本と異なるが、ワイルドカードという存在が何より大きい。ワイルドカードの設置目的は以下のとおり。

①人気のあるポストシーズン・プレーオフの試合を増やして観客動員数や収益などの向上を図る
②次ステージの参加チーム数を切りのいい数字(トーナメント形式なら <2のn乗> チームなど)にする
③優勝争いで大差がついたような場合の消化試合を減らす
④地区ごとのレベル差による順位の逆転(ある地区の2位が他地区の1位より勝率が高い時など)を補正する


等を目的としている。

https://ja.m.wikipedia.org/wiki/ワイルドカード_(スポーツ)

①③は日本のCSと同じ発想なのが見て取れる。また、ア・リーグ、ナ・リーグともに3地区制なので②もすぐ納得できる。面白いのは④だ。
例えば、2023年のア・リーグ東地区は5チーム中4チームが勝率5割超だが、中地区で勝率5割超なのはわずか1チームだけ。私のMLBの贔屓はア東のトロント・ブルージェイズだが、勝率は.549だった。ちなみにア中の地区優勝はマエケンのいるミネソタ・ツインズで勝率は.537。もしブルージェイズが中地区なら地区優勝出来たかもしれないのだ。こういうブルージェイズのような地区に恵まれないチームでもプレーオフへ挑戦できるチャンスがあるのがワイルドカードの良いところである。

アメリカは地区間レベル差の救済、日本では?

アメリカのワイルドカードは興行面だけでなく地区間におけるレベル差で苦しむチームへの救済も目的であった。これに近い目的がCSにもあるはず、というのが私の思いだ。あるはず、というよりも興行面以外でCSの存在意義を与える必要がある、と言った方がよいかもしれない。

ここでは、アメリカが地区間でのレベル差による戦力不均衡への救済ならば、日本の場合はドラフトの不完全さによる戦力不均衡への救済、と考えたい。

ドラフトの不完全さとは

また日米の比較になるが、アメリカのドラフトは完全ウェーバー式(すべてのプールで下位チームから順に指名する権利がある)であるのに対し、日本はプールごとに逆ウェーバー(2巡目は下位から、3巡目は逆に上位チームから指名できる)な上、1巡目はなんと全球団同時指名の重複時抽選制である。これではその年ナンバーワンの選手が上位チームに指名される可能性があり、ドラフトが戦力均衡を制度として保証しているとは言い難い不完全さであると言える。

さらに、日本はアメリカと違いスモールマーケットなので、他球団の主力選手が玉突きで移籍したり国外からスター有望株が来る機会も少なく、基本的に国内選手のドラフトが戦力補充のほぼ全てである。

それなのに、ドラフトが戦略均衡において欠陥を抱えていると、その狭間にあっていつまでも戦力が最大化されない球団が出てくるのである。

CSはドラフトの欠陥を補完する選択肢

そこで、CSが必要になる。プレーオフを戦うという経験は選手にとって大事な短期決戦を戦う貴重な経験と自信をもたらす機会になり、戦力の最大化に寄与することになる。少なくとも、1席しかない席を争うより3席を巡って争う方がチャンスがあるし、モチベーションにもなるだろう。実際、横浜DeNAベイスターズはリーグ優勝こそしばらくできていないにも関わらずラミレス監督、三浦現監督と定期的にプレーオフに顔を出すそれなりに強さをもつチームとなり、かつてはスタジアムに閑古鳥が鳴いていたのも昔の話で今や人気球団の一つに成長している。

CSは、ドラフトの戦力均衡の欠陥を補完するシステムの一つである、というのが私の考えだ。だからこそ、CSを不要と論ずるわけにはいかないしこれからも継続されるべき制度だと思う。

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