王座戦振り返り②

2021/12/22 2R 徳島大(F氏)


本番というのは、何が来るのかさっぱりわからない。

第2局は、ノーマル四間飛車から角交換を見せる構想だった。
最後に対策をしたのは遥か昔、正直に言って一本取られた気持ちだった。

いくら不調だったとはいえ、序盤はほとんど万全に仕上げて来ていたが、やはりこういうB級戦法的なものが来ると嫌な気分である。大抵忘れているからだ。
ここから振り飛車の分岐は二つあるため、ひとまず時間を消費する前に△5三銀と着手することにした。

ますます嫌な気分になる。大した厳しい攻めもないし、ましてやすでに有利が確定している戦法だと「失敗したくない」という気持ちが大きくなってしまうからだ。個人的にこういった戦型の優劣で評価値が決まったものは、あんまり好きではないのだ。

しかし、縮こまっていてもいけないので大胆に△4五歩と伸ばすことにした。結果的に勝因となったこの判断は、前局の勝利による自信のおかげだろうか。

色々あって、馬を作ることに成功した。先手からの攻めもないのだが、ふわっとした展開になったので動かす駒が難しい。
ここで少考したあと、再び△4五歩を設置した。新鮮な気持ちで自戦記を書きたかったのでまだソフト検討はしていないが、どうだろう。すごく好手だったと思っている。
本局は玉頭戦をいかに制するかの勝負になった。

▲3六歩と突いた局面。
私は、セオリーを重視してしまう人間である。だから「見たことない」という手を指すことに、どうしても尻込みしてしまう。やがて、そもそもそういう手は見えなくなってくるものだ。
しかし、幸運なことに早朝の棋譜並べで似た筋を見た。

△3五歩と突き返した。
普段なら見えても指さない類の手なのだが、考えれば考えるほど好感触であり少し興奮ぎみだった。
「学びの足し算」か「失敗の引き算」なのか。棋譜並べの意義について、今一度考えるべきかもしれない。

角を手放させて、あと一歩迫れれば一気に優勢という局面。
△8六歩は少しだけ過ったが、相手の間違いに期待するのは良くないと思ったのでやめておいた。

△4三金が第一感だったが、形が良いだけで狙いに乏しいように思えた。よって本譜は△3三銀と着手。
これもまた、めったに指さない手である。すでになんらかのリミッターが外れていたのかもしれない。

少し進んだ図。
苦心して厚みを築いたおかげで、現局面は大優勢のように見える。少しだけ気がかりだったのが、持ち時間が無くなっていたことだった。
最後の3分ほどを投じ、△2五桂から仕掛けた。

ここでは非常に焦ってしまった。△9九馬▲2五歩△5五歩▲2六飛△2四歩くらいで優勢だったものを、△1七桂成としてしまう大失態。
激しく後悔したのだが、相手もなぜか▲1七同玉と応じる。結果的に大もうけしたのだが、なんだかモヤモヤした。秒読みに追われて指した手は、たいていロクなことが起きない。


本局も優勢になった後は、手厚い指し回しを心がけた。
△4六歩▲同銀△4四香と、確実な優位を積み重ねる展開を目指した。もちろん△6六歩でも明快に勝ちではあると思うのだが。

最後も綺麗に着地を決める。
△4七竜と切ってしまい、▲同金△4六歩▲同金△4四香で盤石の構えになった。

切れ味が鋭いだとか、安全勝ちだとか、そういった言葉とはちょっとニュアンスが違うのだが、とにかく手厚い勝ち方を目指す方針が一貫できたように思う。

投了図(本譜は▲3四歩で二歩)

2局続けてしっかり勝利を挙げられたことで、どうにか9戦中の勝ち越しは達成できるかなと感じていた。謙虚に言っているのではなくて、本当にそれくらい不安だったのだ。
このあたりで、チームメイトからも「好調だね」と声をかけてもらうことがあった。本当に「たまたまだよ」と答えることしかできなかった。

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