王座戦振り返り⑦

第7局 京都大学 M氏

6連勝で迎えた3日目。
気持ちは9戦全勝で臨んだ本大会だったが、最終日までその目を残せて正直とてもホッとしていた。何と言っても士気に大きく差が出るので、負けると楽しさも半減だからだ。

本局も四間飛車を迎え撃つ展開となった。
ネット対局ではほとんど見なくなったが、大学将棋ではいまだ主流な傾向にあるので、心配していたところだったが、しっかり的中した。
少々の不安はあったが、ここまで勝っていることを踏まえて堂々指すことを心掛けた。

▲5六銀型に決めてきたのに対し、こちらは天守閣で対抗する。
初めて覚えた振り飛車対策が天守閣美濃だったのだが、当時は格が高い戦法として権威があり「こんな小さな子供が天守閣を指すなんて、生意気だ!」とお𠮟りを受けたことがある。
△2四歩と玉頭を突くたびに、今でもそのことを思い出す。10数年経った今でも、わりと気に入っている囲いである。

少しの違和感。▲3六歩を突かずに玉頭を狙ってきた。
普通に米長玉まで移行する予定だったが、どうも様子がおかしい。
よって△7四歩と様子をうかがってみたところ、▲2七銀としてきた。

自信満々の手つきで銀を上がってきたからヒヤリとした。
なるほど、これはいきなり窮地である。▲2八飛からの棒銀が素早い。

自分の経験の少なさを嘆いたが、なってしまったものは仕方ない。持ち得る知識で対抗するよりなかった。

ひとまず△7五歩から読んでみたが、▲同歩△7二飛▲2八飛で明らかに負けると思ったので断念。
△6五歩なら角が捌けるので、少し受けやすくなるかもしれないと思い、△6五歩を選択した。

角を捌けば△3三桂と跳ねやすいので、勝負になるとの読み。
▲3六銀△8六歩▲同歩△6六角▲2五歩△7七角成▲同桂△8六飛▲2四歩△3三玉と一直線の進行。

ものすごい形をしているが、実は天守閣美濃の裏技でもある。
△3三玉が思ったよりも手ごわいのだ。△2二歩でいつでも2筋は受けられるし、コビン攻めも今のところ心配ない。そして△4二玉の退路もある。

一方の先手は△8九飛成が入るだけで釘付けになる、危ない陣形である。
この薄さに着目して攻め合いを選んだというわけだ。

▲8八歩を中心に読んでいて、△2七歩▲6五桂△7七角▲7八飛△8八飛成などの大決戦も視野に入れていたが、相手の応手は▲4五銀左だった。これまた好手。

△8九飛成に▲3四銀を用意しつつ、▲5四銀から▲6四角を狙うことで一気に玉が狭くなった。

これには負けじと、△2七歩▲同銀△6六角と応戦。
質駒になるが、飛車は切れまいとの読み。勝負は佳境へ差し掛かっている。


6連勝で最終日を迎えたことは初めてではないが、今回は最後の年ということもあり、多くの人が期待してくれていた。
しかし、最終日に京都大学と対戦するのは覚えている限りでは初で、少し嫌な予感もしていた。ずばり、私は京大との相性が非常に悪い。

関西予選でも相まみえるのだが、通算でほぼ五分の成績だったと思う。特に、そこそこ調子が整っていると思ったときに鼻を折られるのが京大戦なのだ。どうにも、自分の力が吸われるような不思議な引力を感じる。
もちろん全員が強豪であるのは言わずもがな、それ以上に勝ちにくさを感じさせるのが彼らである。戦型選択も、嫌なところを突いてくるのだ。

最終日の初戦であることに、何か因縁めいたものを感じた。ここで1つ落とすと生気まで吸い取られそうなので、3タテを食らってもおかしくないと覚悟していた。

ひとまず2筋の脅威は和らいだが、今度は6筋突破が見えてきた。
どれくらい痛いのかは未知数であるが、後には引けないので殴り合う。

▲5四銀△7七角成▲6五飛△5四歩▲2三銀

ここで△8八飛成が第一感だったが、▲3二銀成△同玉▲2三角が少し嫌かと思った。△3二同金と取れば安全だが、割りうちが残って嫌。
ならば先に△6三歩と受けておけば安全なのか……?うーん。

と悩んでいるうちに秒に追われて△8八飛成。

ここで衝撃の事実に気づいたのだが、▲2二角から馬を抜く筋があった。一瞬ものすごい冷や汗をかいた。
本当に全く気付いていなかったのだが、幸運なことに現在は詰めろで、馬にもヒモがついている。まさに指運という場面だった。
この危機を奇跡的に脱したことで、今日は勝ち運がこちらにあると確信した。

▲3八金と防いできたが、ちょうど2二の地点に注目したので△2二歩という受けを発見。はっきり優勢になった。

▲3二銀成△同玉▲3六歩△4九銀

以下は▲4八金寄△5五桂と気持ちの良い手順が続き、そのまま寄り。
水面下の激闘を制した一局になった。

チームとしての京大戦も激闘になることが多いのだが、今回は6-1のスコアで大きくリードしたようだ。
良い弾みにして次へ向かう。

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