王座戦振り返り①

2021/12/22 1R 九州大(K氏)

しばらく大会に赴いていたため、更新が滞っておりました。
今回は将棋の反省というよりも、自戦記のような感じで全体を振り返っていきたいと考えています。

1年の総決算ともいうべき大会で、今回で3年目となるが今まで以上に緊張していたことを覚えている。
大会が近づくにつれ、この毎日更新のnoteの記事にも不穏な空気が漂い…はっきり自覚のないまま、精神だけがどんどん追い詰められている中で迎えた大舞台だった。最後の数日は、ほとんど将棋が手につかなかった。

当日を迎えると、のしかかっていた重圧がウソのように消えていき、程よい緊張感に満たされていた。少しの休養を挟んだのが奏功したのか、仲間と軽口を交わすくらいの余裕は十分にあった。
「思ったよりも元気で安心した」との声かけもいただいた。心配をかけてしまった方々には申し訳ないのと、気遣ってくれた感謝の気持ちでいっぱいである。

運命の第1局は、四間飛車の出だしとなった。

今シリーズのみ、便宜上盤面を自分視点にします。

早朝には恒例の棋譜並べと、あとはランニングで気持ちを整え、万全の体調で挑んだつもりの初戦であった。
しかし、どこか上の空な様子が本譜で浮き彫りになる。

△7四歩はタイミング違いである。▲2八玉の場合は先に△3二玉とすべきであった。
ここで▲1八香を穴熊を目指されてしまい、さっそく動揺してしまう。△7四歩と相穴熊の相性はあまり良くないからだ。

続いて△1二香もミス。本来であれば△3二金を優先するところ。
このあと▲5六銀に対して△4四歩を強要されてしまったのが痛い。

このあたりで、はっきり心の余裕がないことを悟った。十分な確認の上で着手しているのだが、普段はしない失敗を積み重ねていることにやや危機感を覚えていた。

その気持ちを引きずると良くないと思い、傍から見ればなんともない序盤戦だが、私はここで少し長考に沈んだ。

「柔軟な思考が肝心だ」

いつもは、失敗を取り繕うように無理やり自分の形に持ち込む指し回しが多い。相手の棋力を推測し、”この程度の無理は通るだろう”と判断する。これで幾度の失敗を重ねてきたか、数える気にもならない。
「大事なのは、失敗を許すことだ」と考えて改めて盤面を見直した。

やや進んで、▲4八金寄と固めたところ。しかしやや疑問の構想だった。
ここで△7二飛が機敏な一着でペースをつかむことができた。

言われてみれば当然の一着に思うが、「相穴熊は相手より堅くすべき」という固定観念に支配されていたら当然のように△3一金などと素通りしていたに違いない。少なくとも、自分はそういう奴だからだ。
この△7二飛を境に、優位を意識したことで気持ちに余裕が生まれてきた。いつもとは違う展開だが、それが成功したという事実に「今回、自分は1勝も挙げられないんじゃないか」と、心の底に秘めていた思いも少し和らいだように思った。

少し進んで、かなり優位に立ったように見える。他にも仕掛けはあったと思うが、ここで△4五歩と突いたのは個人的に好きな一手だ。
「厚み」と「堅さ」が両立した構えに、思わずうっとりする。

いよいよ仕掛けの局面に差し掛かった。
後手陣はほぼ完全形といっても良いほどで、あとは着地を決めるだけだった。しかし、そうなると小さいことが気になってくるのが実戦心理である。
ここから大量に歩を渡す展開になるが、すいと伸びてきた▲2五歩がやけに気になる。具体性はないが、「歩の攻めは受からない」という嫌な予感に支配され、10分ほど時間を投じた。

本譜は△8六歩▲同歩△6五歩▲同歩△7七角成▲同飛△6八角と進む。

十分に読んでの着手だったが、迷いが生じていた。
結局歩を渡したくないのに、不要な△8六歩を突いてしまうというチグハグさに、曖昧な感情が読み取れる。良さよりもリスクの少なさを選ぼうとした結果、色々と間違えてしまった。

ただ、対局中はそれが最善だったと思うしかない。持ち時間は切迫していたが、まだ気持ちに余裕はあった。

一時の圧勝の景色から見ると、いくぶん差が詰まった気もする。▲6三歩成△9二飛▲5六銀のような展開になると、かなり気を遣うことになりそうだった。
そもそも飛車を取ったのは△4六歩~△4七歩に期待したところが大きいのだが、打ってみると全然効かないように見える。相穴熊ならではの距離感の遠さが、不安によってさらに遠くへ感じた。

本譜は▲5六角と繋いだが、これが疑問だった。

△8二飛▲8五桂△5五歩で、きれいに技がかかった。しかし、安心も束の間、やっぱり小さいことが気になるので▲6五角~▲4三角成の筋にすら怯えていた。実戦でも形勢判断の客観視を心がけているつもりだったが、こればかりは仕方のないことなのかもしれない。

かなり進んだ図。大駒をすべて手に入れ、盤石と言いたいところだが、まだ▲2五歩が嫌な存在である。
「受け切り」というのは、大きな勝負ほど難しいことだと思う。自分からは勝ちに行けず、相手の狙いをすべて看破するまでは安心できない。ましてや、大優勢の局面であれば「ここから負けるはずがない、負けてはいけない」という心理が支配する。
この局面も、はっきり優勢を感じ取っていたが、受け切る以外の勝ちがないので「勝ちor負け」だけの判断基準にすべきだと思った。

そう思えてから、△6七竜を着手。基本に忠実に、堂々の受け切り勝ちを宣言しに行った。

ここで△2三銀打が盤上この一手。ついにはっきりとした受け切りの光明が見えた。

すでに勝負は決しているが、この局面は本大会に向かうにあたって気持ちが定まった瞬間でもあった。
△4七同角成で勝ちだと思ったが、手堅く△3二金と自陣に打ち付けた。

「最善手よりも、絶対に勝つ手を指す」という気持ちだった。
今年は、本気で勝ちに来たぞと。そう思うと気持ちが昂った。

投了図

「負けました」
その一言を聞いて、心の底から安心した。1勝もできないかもしれない、という不安も無事拭い去られ、次局以降を具体的に勝つストーリーも見え始めた。そういった意味では、本当に大きな1勝だったと思う。

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