王座戦振り返り③

2021/12/22 3R 金沢大(O氏)
もう少し詳しく手順を解説していきたいと思います。

第1・2局を良い内容で終えることができ、迎えた第3局である。
時間は午後、夕方に差し掛かっており、開幕直後の忙しない雰囲気はすっかり落ち着き、程よい疲れもあって集中力を高めてくれた。
心模様は凪である。

第3局は対三間飛車の出だしとなった。
ここまでの3局、どの相手も情報になかった。そのため、棋力も戦型も未知数である。知名度が低いとみるか、ダークホースとみるか。ともあれ全国の舞台で簡単な勝負になるということは無いだろう。

そういった状況では、対抗形の将棋になってくれると少し安心する。一部を除いて落ち着いた展開になるので、いつものパターンならば堅く囲えて、さらに作戦勝ちを狙えるからだ。

対三間の左美濃には自信があった。一方で、少し振り飛車ミレニアムには懸念があるな────とそんな気分でいた。

△7四歩によって、ほとんど後手のミレニアムが確定した。
正直言って、嫌な予感はしていた。やっぱり、来てほしくないなと思ったら来てしまう。こういう舞台では、なおさら出現しやすい。

ミレニアムに対してはかなりの苦手意識を持っていた。きっかけはある日の研究会である。
それまでミレニアムは脅威にすら感じていなかったのだが、ある研修会員の小学生との対局で現れた。いつも通り穴熊に組んで、適当につっかけておけば…と思ったら、端から殺到されて瞬殺されてしまった。
それ以来、24でもやたらと端攻めを食らって負ける。評価値では良くなっていても、最後に△9七歩~△8五桂を繰り出されるだけで恐怖に感じるほどだ。

かなり練習を積んで克服したつもりだったが、やはり端の応対には神経を使う。序盤は飛ばして、時間を後に残そうと心に決めた。

以下▲9八香△7三桂▲6六歩と進んで、予定通り穴熊へ進む。

この△8四歩にて研究が外れた。後手の狙いとしては△8三銀と安定させて△6二銀型へ固めようという意図だと考えられた。
ニッチな話になるが、そこから△9二香~△9一玉~△8一金~△7一銀~△8二銀と、4枚穴熊(?)に固める筋はfloodgateでよく見られる。その場合はこちらも堅く組み替えて良い勝負だが、出現しないかなと少しワクワクしていたというのは内緒である。

ここから▲3六歩△4五歩▲3七桂△4二飛▲4六歩と進行した。

こうなると△8四歩に代えて△6四銀の方がよかったように見える。宙ぶらりんの銀を負担にさせることができた。

少し進んで次図。銀桂交換の駒得となり、ここで▲8六角の飛び出しが気持ち良い一手である。しかし、△5一飛と回られるとどうだったか。
▲2四歩△同角▲同飛△同歩▲4二角成△6一飛▲5二馬が予想されるが、△3九飛~△9五歩がどの程度厳しいのか、難しい局面だと思っていた。

本譜は△6四桂と打たれた。
さすがに桂を打たせれば良しだと思ったのだが、思った以上に手が出ずに困った。このあたりは難解で10分ほど時間を消費した。

▲1六歩△3三角▲3二銀のような筋は考えたが、先手の大駒が働くイメージが湧きにくかったのでためらった。△6四桂が案外効いていて、自玉に刺さってきているのに、こちらが▲3二銀とそっぽに打つようではいけない気がした。

悩んだ挙句、▲2四歩△同歩▲3五歩と曲線的に指すことにした。
△5五歩を緩和し、とりあえず後手の角を封じる方針だ。

それでも後手は△5五歩。
ここで残りの時間を投資し、▲6五歩を決行した。

△8五歩をかなり気にしており、▲6八角△6五桂▲6六銀△5六桂▲5九角で耐えようという読みだった。実際のところはどうなのか難しいが、後手の角を封じている分、攻めが細いとの判断をした。

本譜はあっさり△6五同桂とし、▲6六銀△4六飛と大捌きになった。

銀得を果たしたが、まだ実戦的には難しいと思っていた。
▲7四銀は△7八歩が生じるし、▲5五歩は△3五角▲6八歩△2四歩で、先手の飛車がうまく働かない。
結局△3五角が嫌だったので▲2四飛を決行、そこで「さて…」と頭を悩ませることになった。

ここでの攻めが非常に難しい。▲7四銀には△7三歩で弾かれるのがずっとネックである。▲6三銀成~▲2七角もあるが、△4三竜と引かれてどうか。かといって、先手も歩切れなので△2九飛や、香を取られて△8五香など、ゆっくりしていられない。

結局▲7四銀にした。銀得を活かして、銀を捨てても竜を引かせられるなら満足の展開だという判断になった。
本譜はそれを避けて△1九竜と進行。

一気に攻め合いの展開になった。
▲7五桂を考えたが、△7八歩▲同金△4九飛▲7九銀打△4三竜とかでどうかと思った。改めて見ると▲6五角があった。

本譜は▲5四角と打った。こちらの方が攻めに手厚さがあるように思った。

少し進んだ図。ここではしっかり▲7七角とすべきだったかもしれない。次の▲5五角の味が良いので、△4四飛成なども効かなさそうだ。
本譜はやや焦って▲8五同銀△同歩▲6四角としてしまった。

この瞬間、かなり後手玉が安全になっているので△6九銀がかなり怖かった。▲6八金寄△7八歩▲8四桂△7九歩成▲同銀(仮想図)でどうか。

仮想図

なんとか耐えていそうだが、こういう将棋ではなかったはずである。

本譜は△6四同歩▲8四桂と進んだ。

△6三銀なら▲7二桂成△同玉▲2一角成で、長くなるが穴熊を活かして勝てると踏んでいた。
これもまた、「負けない将棋」の形にできているように感じる。

本譜は△7九飛成▲同金△7八歩としたため▲7五香で必死。急転直下の終局となった。

投了図

相手の方が良く急所を外している印象だったので、そこまで手強い相手ではなかったのかなと、節々で感じていたが、やっぱり本番というのはそれらを搔き消すほど怖いものだ。
これもまた、相手がどんな将棋であろうと、自分の将棋で最後まで通せた一局だと思う。

第3局にて1日目が終了。翌日はより手強い相手となるが、明日へ繋がる良い将棋を指せたという気持ちだった。

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