王座戦振り返り⑥

第6局 山形大学 T氏

またまた四間飛車。
先ほど序盤で嫌な思いをしただけに、天守閣を連投するかは悩んだのだが、今回はこの戦法にしようと決めたので躊躇せず行くことにした。

少し進んで、穴熊の気配を感じて▲5六歩としたところまさかの立石流。
上手に裏をかかれてしまった。立石対策は考えてあったのだが、▲5六歩を突いたので使えないという残念な事態に。
早急に対策を練り直す必要に迫られた。

結局よく準備したところで、なかなか本番は思い通りにいかないものである。最後は総合力の勝負、強い者が勝つ。それが王座戦という気がする。

また少し進んで組み合った図。
有名なのは雁木形で▲6五歩と▲7五歩の位を取る高田流だが、相手は△6二銀+△5一金という珍しい形。飛車交換に強く、両辺が広いという掴みどころのなさを感じる。
自分で構想を練った結果、▲6六歩は突かないほうが良いという判断に至った。▲7七桂を優先し、ひとまず入城する。


△3三銀型で△2四歩から飛車交換も考えられたが、離れ駒ができるのを嫌ったようで、△3三桂型に組み替えてから交換を迫る方針にしてきた。▲2一飛の隙ができるので善悪は難しいところ。
その間に8筋の位を確保。△5四歩に▲6六銀と上がる、これが狙いの構想

狙いは単純、▲7五銀から▲6五角である。しかし案外受けにくいと思う。
知識だけで将棋を指すのではなく、自分で序盤を作っていけるようになったのは少し成長かなと思った。

ここでようやく△4四角と放ち、戦いが始まる。

私は、大会の前にひとつ「テーマソング」を決めることにしている。大層なものではなくて、たまたまその時に好きだった曲を決めるだけだが。
例えば、今年の学生名人戦は「星街すいせい『Bluerose』」だった。将棋との距離感に悩んでいた当時の心境と、よく重なっていたのを覚えている。

そして王座戦は「缶缶『TRIPPER』」をテーマソングにして挑むことにした。サビの盛り上がりがフィナーレを予感させるようで、最後の舞台にぴったりだと思ったからだ。まだメジャーな方ではないが、最近のイチ推しなのでぜひ。(なぜ宣伝をしているのか)

3筋交換から横歩をかすめ取る大胆な構想。
▲6五角があるだけに勇気のいる手だが、ここで打って8筋を突破しても逆方面が広い。かといって▲7五銀もできないので動きにくいところ。
ひとまず▲2四歩から一歩持って、十分だと考えた。

飛車交換。
ここで▲9四歩を決行した。△同歩▲8四歩△同歩▲9二歩でひとまず香は取れそう。しかし玉頭はスカスカで怖い。

△同香なら▲5六角△9三香▲9二角成△2八飛▲9一飛でどうかと思っていた。△5二玉まで逃走されたときに、どれくらい迫れるかが不明なので勝負かと思っていた。

と思っていたら△7四歩と突かれて「あれ?」となった。

と金ができたので、とりあえず動かして▲6五桂も気持ちよい跳躍。
△6四歩と突いてきたので▲5三香で必死になってしまった。

投了図

疑問符をずっと抱えたまま気付いたら勝ってしまった。
少し拍子抜け。

感想戦をしたところ、どうやらかなり棋力差のある方だったらしい。
序盤は十分に練ってきたようで、特殊な立石流にかなり頭を悩まされたが、中盤は一気に形勢が動いてしまった。

大学将棋は序盤に注力している人が多いと思うので、そこで仮にリードを奪ってしまえばどんな人にもチャンスがあるともいえる。
本番にどれだけ棋力差が埋まるか、恐ろしさを身をもって感じた一局であった。

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