奥さん


僕は、7年間塾講師のアルバイトとして働いていた。




他にもお酒が飲めないのにバーテンダーをやってみたりと、アルバイトの話なら事欠かないが、今回は話が逸れるのでこの辺で。



兎に角、基本的に人間として怠慢人間ベムな僕は、様々な理由で辞め、また新しい職場に入り、を繰り返してきているのだけれど、


講師という職は肌に合っているのか、何故か長く続いている。





ちなみに、バーテンダーは、お酒が飲めない、という理由でやめた。




そんなこと分かっていただろ!!!と罵詈がアルプススタンドから飛んできても、耳は貸さない。


何事ともチャレンジしてみないと分からないではないか。




だが、ひどい話なのは間違いない。





まあそもそも、子供を見るのが好きだし、



上手く教えると子供はビックリするくらい飲み込みが早くてなお楽しい。




若い子の頭はスポンジのようだと表現する人もいるが、


彼らは吸うというより、素敵な知識を宝箱に入れるがごとく楽しい情報は自分から積極的に取り入れようとする。



そんな成長を手助けすることが楽しくないわけがない。






子供は勝手に成長していくものだと僕は考えるが、



でも、少しでも大きな木に育つように助力するのが大人の役割だろう。



その手助けが楽しいのだから、もしかすると天職なのかもしれない。






そんな長年講師の経験をしてきたからか、




僕は現在、サンドウィッチマン富澤さんの息子の家庭教師をしている。





やはり子供はかわいい。




だが、自分の所属している事務所の直属の大先輩の息子となると当然ながら普段とは異なる。




変な言葉を教えて、それを富澤さんに言ったらどうしようか、



いや、むしろ変な言葉ばかり教えて、困らせてやろうか、



卑猥な言葉をまくし立てる、男子校専用機にしてやろうか、




と、普段は考えもしないことを考えている時点で、それはもう教育とはかけ離れている思考なのだが、




逆に何も考えないほうがおかしいとだけは主張しておきたい。




結局始まってしまえば、今までの経験でしか人間は行動なんてできないため、



他の子となんら変わらない教え方で勉強に興味をもってもらえるよう尽力するのだが、




家庭教師という性質上、富澤さんの家に頻繁に足を運ぶようになった僕は、




必然的に、富澤さんの奥さんとも頻繁に顔を合わせるようになった。





そして、この奥さんが、面倒見のいい人なのだ。





いつも晩御飯をご馳走してくれる。





晩御飯をご馳走してくれる人はいい人だ。





だから、奥さんはいい人だ。








僕は単純なのだ。






えさを与えられればいい人だと認定し、


めちゃくちゃつくされれば、好きになる。




まあ人間なんてそんなもんだろ?と分かったような口を利いてみる。






そんな富澤さんの奥さんが言っていた言葉で、印象的なものがある。




「まだトミー(富澤さんのことを僕の前では奥さんはトミーと呼ぶ)が売れてない時は、


本当にお金なくて、デートしてもハンバーガー1つを2人で分けて食べたりしてたんだ」



「だから、今は売れてるけど、別に今後仕事が無くなったとしても、


まああの時幸せだったから、そうなったらなったで楽しく過ごせるんじゃないかなって思ってる」




その話を聞いたとき、おおこの方はなんと肝の据わった女性なのだろうと感心した。




この先、なにがあるかわからないが、僕自身も、いつか嫁いできてもらう未来の奥さんも、それくらいどっしり腰を据えてもらいたいものだ。



今のままではまだまだだぞ、がんばれ自分。




奥さんに比べれば、腰が据わっていないどころか、まだ首も据わっていない。

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