2021年3月までに書いたSSまとめ

永遠を現実にしてしまう人

 とある書店でふと永遠について考えていた。
 永遠は確かに無いが、死ぬまで覚えているのならきっとその人にとって永遠なのだろう、と思う。
 ならばこの感傷は忘れてしまうのだろうか。1年は覚えていた。だったら10年後は?この書店もいつかは無くなってしまうのだろう。だって永遠なんて無いのだから。
 寂しくなり何気無く本棚に視線を移すと安堵した。彼女を象徴する本を読めばきっと鮮明に思い出す事が出来るだろう。この本を手放す事は永遠に無い。
 ならば自分にとって彼女は永遠が現実になった人であり、忘れる事は無いのだろう。
――犬は寂しさを振り払うかのように小さく呟くように2回吠えた。


愛される条件

 そういえば「こんなに愛されていたなんて気付かなかった」と彼女は言っていた。全く鈍感にも程がある。あんな事確かめる必要なんて無いのに。
 …人が愛される条件なんて千差万別だ。だからきっと今も愛されている証明が欲しいのだろう。
 ならば行動で示してやれば良い。言っても分からない彼女の為に。


善意の裏返し

 深夜の呼び出しも慣れたものだ。どうやらまたフラれたらしい。
 ヤケ酒に何度付き合ったのか、この腐れ縁がどれだけ経ったのかもう数えるのも億劫になる。
 僕は「良い人」と言われるけれど、この関係を壊したくないただの臆病者だ。
 願わくば「良い人」のままで終わらない勇気をいつか持てますように。


逃がしはしない

 これで何度目の失恋かもう分からない。気付いたら真夜中なのにあの人を呼んでいた。
 それでも当たり前のように愚痴を聞いてくれるあの人は「良い人」だけど、もし深い関係になって今までの人と同じように嫌われたらきっと私は立ち直れない。
 願わくばあの人がこのままずっと傍にいてくれますように。


ここから始まる

 酔い潰れた彼女を背負って歩く。今回の失恋はだいぶ堪えたらしい。
 軽口を叩き合って、いつもの様に冗談ばかりが積み重なっていった。真意を伝えようとしても曇ってしまう程に。
 背中から感じる寝息に向けて伝えきれない想いを呟く。
 なんとなく、後ろから抱きしめる腕の力が強くなった気がした。


たった一分でいい

 ある日突然、私の片想いは終わりを告げた。別れを告げる暇も無く遠くに行ってしまったあなたを今でも夢に見る。未練がましいのは分かっているけれど、それでも想いは消える事は無い。
 だけどあれから時間が経ちすぎて、あなたに言いたいのが愛の言葉なのか別れの言葉なのか、自分でももう分からない。


自惚れないで

 あなたのあの熱烈なアプローチに気のない振りをしていたのは、言葉通り受け取らずに冗談だと思っていたからだ。その想いが本物だったのだと、鈍感な私でも刺された胸の痛みでようやく気が付いた。
 臆病過ぎた事への後悔と両想いだった事への安堵の不思議な気持ちのまま、血溜まりの中で眠りについた。


「花なんか別に好きじゃなかった」で始まり「貴方があんまり楽しそうに笑うからついつられてしまった」で終わります。

「キミもお花が好きなの?」
 花を見ていると貴方の声が聞こえた気がした。そんなわけないと頭を振る。今も昔も花なんか別に好きじゃない。綺麗な花もどうせ枯れてしまうから。
 それなのに、いつも花に囲まれていた貴方があんまり楽しそうに笑っていたから、今でもまだ花を見るとつられて笑ってしまう。



各SSの後書きなど

永遠を現実にしてしまう人
 モデルは言わずもがな。永遠とは何かをこねくり回して考えて作ったSS。世間一般で言う永遠を自分には作れなかったので「自分が永遠に覚えていればそれは永遠→では忘れてしまうだろうか?」という話の展開にしました。140字SSのお題でしたが、とても収まらなかったので最後に「呟くように二回吠えた」として280字SSにしました。

愛される条件
 誤解を恐れず言いますが、実は推しマークっていう文化あんまり好きじゃなかったし、今もそんなに好きじゃないんですよね。理由は推しマークを付けるくらい好きなうちはいいんですけど、もし気持ちが冷めてしまった時、推しマークを外すのは「私はあなたを好きじゃなくなりました」という事を好きだった人に宣言するようなものだし、かと言って冷めてるのに付けっ放しにするのは嘘だし、どちらにしても嫌なんですよね。
 それでも付けたという事は、まあそういう事です。ずっと好きでいるというのはなかなか難しいのかもしれないけど、僕の中で「ずっと」と言ったら「ずっと」なんです。

善意の裏返し
 基本的に僕がお題SSを考える時は「お題を見て連想した話がよくある話だったらボツにする」というルールでやっています。ありきたりで見飽きたような話をわざわざ書かなくていいかなって思うんですよね。だから今回も善意の裏にあるのは最初に思いついた悪意や下心ではなく、純粋な恋心にしました。善意を発揮させるには相手にトラブルがなくてはいけないという事で酔っ払いの介護にしました。まあ惚れた弱みという事でガンバレ。

逃がしはしない
 最初に連想したのはテンプレなヤンデレだったんですけど、すぐにボツにして、次に「酔っ払いの介護してくれる人逃がさないよな・・・」と前回の続きを思い付きました。女性側の視点で実は両想いだったが両方とも引っ込み思案だったというオチはエモいのでは?と我ながら自画自賛してました。 
 ですが、そこまで思いついて前回「フラれた」と書いてたな・・・と頭を抱えます。恋多き女性になってしまって、これ下手すると男性をキープ君みたいにしていると読み手に取られかねないとめちゃくちゃ気を付けて描写しました。介護している男性が本命だけど臆病過ぎて気持ちを言えない的なやつになんとかこじつけました。

ここから始まる
 最初に連想したのは前回の二人の恋がここから始まる事で、これはボツにしませんでした。ありきたりな話じゃないからセーフ!
 これまでの関係が近過ぎて告白が冗談になってしまったり、それでも好きだから寝てる相手に告白したり、実はそれが聞こえていてギュッと抱きしめたりと、好きな描写全部詰め込んだやつですね。自画自賛ばっかりだな!
 告白や返事を最初は台詞として書こうとしていたんですが、陳腐な台詞ばかり浮かぶし、140字制限もきついしで、「想いを呟いた」「腕の力が強くなった」と台詞無しになりました。引っ込み思案の二人にお似合いな感じになってとてもお気に入り。

たった一分でいい
 「たった一分でいい」を「たった一分会うだけでいいのにもうそれすら出来ない」と置き換えて、あー、これはもう死別かそうでなくても決定的な別れをしてますわ、と話の流れが決まりました。そして一分間で何を言いたいのかを最初は考えてたんですけど、愛の台詞でも別れの台詞でも両方ともありえる気がして、別れてからの時間経過多めにして気持ちをわからなくさせました。死別と決めつけてないのはその方が読み手の自由度が高まると思ったからです。

自惚れないで
 これはかなり難産でした・・・。最初は自信過剰な男性と自惚れないでと喧嘩腰な女性というテンプレを思いついてよくありそうなのでボツにして言葉の意味などをこねくり回していました。結局、自惚れない主人公で自己評価低いせいでヤンデレ系女子の愛を受け止めなかったせいで刺殺エンドを迎える話になりました。意外性を求めて事故った感がすごい。もっとハッピーエンドになって!

「花なんか別に好きじゃなかった」
 140字制限無しのお題だったが、無理矢理140字で収めたのでほぼほぼお題の文章そのまま使うSSとなった。「そんなわけないと頭を振る」という文章に「花が好きなわけない」「花が好きだからここにいるわけない」「貴方の声が聞こえるわけない」というどの意味でも通るようにしたり、「花に囲まれていた貴方」の花が普通の花なのか病室のお見舞いの花なのか、どちらでも良いように描写したりと短い文章で様々な読み取り方が出来るように仕込めたのでお気に入りのSS。

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