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【怪談・不思議な話】合間の道

建物と建物の間に伸びる道。
そういった道は普通に生活していれば、かならず見ることができるが、意識することはないだろう。
だけど、私は、ついついそういった道を観察してしまう。
それは単純に面白さがあるから、というのもある。
猫がいたり、不思議な配管がしてあったり、人が座っていることもある。
もしくは……違う世界につながっているかもしれない。
これは、そんな風に考えるようになったきっかけの話。

10年ほど前だろうか。
私はとある市街を歩いていた。
強い日差しにイラついていると、ふと、視界に白いものが映った。
ケセランパサラン。
私が生まれるよりも前に流行った幸運を呼び込む綿毛がふわふわと飛んでいた。
めずらしいな。
そう思いながら、ふっと、私はその綿毛を追いかけ始めていた。
思えば、この行動自体もおかしい。
私はよく、ぼーっとしているや、夢見がちな世界に生きている、などとは言われるが、さすがに大人になってまで綿毛を追いかけるほど、童心に帰る性格はしていない……はずだ。
それがこの時は綿毛に誘われるようについていってしまった。

綿毛はふわふわと飛び、建物と建物の合間に入って行ってしまった。
塀や柵はないが、とても狭い隙間で普通なら人間が入っていくのは困難だろう。
だが、その時の私はついていけると思っていた。
あと一歩。
その合間に入ろうとしたときに気づいた。
誰かが向こう側にいる。
暗い狭間のはずなのに、向こう側は不思議と見通せた。
こちらをじっとみる人影。
年も背格好もわからないが、人であることはわかる。
それが、こちらをじっとみていた。
あと一歩、いや、足を少しずらせばその合間に入るところで、私は止まっていた。
途端に、ぶわっと冷汗が噴き出る。
ケセランパサランはこちらを誘うようにふわふわと、あと半歩先を漂っている。
そう、漂っている。
明らかにおかしい挙動。
私は、半歩……下がった。
人影がそれに気づき、こちらを手招く。
また半歩下がる。
絶対に入ってはいけないとわかる。
ずりずりと下がる私を見て、無駄だとわかったのか、人影は手を下ろし、踵を返して狭間の奥に引っ込んでいった。
ふっと、気が抜けて、視線を一瞬下に向ける。
そして、もう一度顔を上げる。
そこには、狭間からでるぎりぎりから、こちらを見る人影、いや、黒い何かがいた。
あ、っと思った瞬間に、私の意識は暗転しそうになった。
ただ、それでも、最後の気力を振り絞り、体は横に倒した。

それから1時間後、私は病院で目を覚ました。
どうやら熱中症で倒れたとのことだった。
あれは熱中症の見せた幻覚だった……そう思えたら、楽だった。

それ以来、私はふとした瞬間に、ケセランパサランが路地に入っていくのを見るようになった。
そして、狭間の路地がどこか別の場所に続いているのに気づくようになってしまった。
多分、私は目をつけられてしまったのだろう。

今も続く、私の不思議体験だ。

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