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現在値の確認

自分でも忘れていたが、去年の12月に以下の書評を書いていた。

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【15歳からではなく、今から始める社会学】
以下、書評を少々。

『ニホンという滅び行く国に生まれた若い君たちへ』(響堂雪乃著)を読了。本書では15歳、またおそらくはその周辺の年齢も含めた方や本書に興味のある方も含意した読者を想定して筆者がペンを走らせたと思われる。そのためか、比較的読みやすくてどんどんページが進んだ。目次や大きい文字が小さい文字を論理的に反映しているか(その逆も然り)は少々疑問に残ったが、それはまだ自分に読解力がないためであろう。おそらく編集者側で内容の構成についていろいろと議論があったと思われる。2回目、3回目に本書を読み直したときにまたこの件については考えてみたい。内容的には、本書ほど文字密度が薄く(字数が少なく)、しかしこの地球上で足が地についた絶望の国の現状を的確に表しているのだろうと感じる本は初めてだった気がする。「だろう」という濁しワードは、自分にはまだ知識が足りないと感じることから生じた3文字だと思う。

さて、本書では「選挙権が18歳まで引き下げられた」ことについて述べられた箇所がある。その部分を読んで感じたのは、1つの物事や事象(選挙権が18歳まで引き下げられたこと)を見たり知ったときには

・なぜその事象が生じたのか(なぜ18歳まで引き下げられたのか)
・その事象が他の物事にどのような影響を及ぼすのか(18歳まで引き下げられて、その年齢が成人年齢になることで自分たちの生活にどのような影響があるのか)

を連想ゲームのように考えることが思考力を上げるためには重要なのではないかということ。そして、分からない場合は自分なりの仮説でもいいので、それに対する考え(安保法や集団的自衛権の成立状況などから選挙年齢の引き下げは徴兵のためかもしれない、人口減少を口実に政治についてよく分かっていない若者の選挙年齢を下げてプロパガンダで洗脳して支持率を増やすためなのかもしれないなど)を持ったり、そのことについて考え続けることも重要だと感じた。
この投稿では内容の1%も盛り込めてはいないと思うが、本書を読んで得られた教訓の1つとして「自分の知っていることは世の中の1%にも満たない」という自覚を持つことも深い思考を行うためには重要だと感じた。本書をまだ読んでいない方は、ぜひご一読を!

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今回、改めて本書を読み直してみて、本書のような今まさに地に足がついた(絶望の)国の現実的な状況が書かれているような本を読むときには「新しいことを学ぶ」のではなく「自分の現在値を確認する」ことが肝要であると感じた。「自分の現在値を確認する」というのは、本を読む前に自分が持っていた(絶望の国の)知識や認識、把握していた文脈がどの程度正確で、どの程度深いものであったかを本を読み進めながらチェックしていくということである。「新しいことを学ぶ」ことも重要かもしれないが、情報化が進み、デジタル空間にまで情報の通過領域が拡張された社会において、「新しいこと」は(情報革命を出発点とした時間経過に伴って)指数関数的に少なくなる。一世紀前と比較しても今は鰻が上るように日々新しい発見がされているわけではないし、出版業界の状況を眺めてもダイエット本や自己啓発本、話し方の本といった「同じようなもの」ばかりが毎年ベストセラーになっており、昔と比べて市場規模が小さくなっていることからもそのことは明らかである。「本を読む」という行為はもちろん「それ自体を楽しむ」ということもあるかもしれないが、情報収集として読む場合は「正解を求める」のではなく、自分の現時点でのレベルを確認するために「判断材料を増やす」業務を遂行していると思ったほうがいい。さすれば、自分が考えていたことやその判断、そして持っていた知識のベクトルを著者のそれと比較でき、自分の向くべき方向を修正できるであろう。(修正といっても、実際にはベクトルの合成が起こるだけで著者のそれと完全に一致するということはないであろうが。)

また、本書では全体を通して日本がカタカナの「ニホン」という表記で統一されている。このことも著者独特のメタファーを含意したキーワードとして注目に値すると感じた。これはおそらく日本ではなく、にほんでもなく、にっぽんでもなく、ジャパンでもなく、ニホンであるということなのだろう。

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