"なない"が今でも諦められない

自分はどうしようもないことをいつまでも諦められないタチだと思う。
いまだに他人と内容の話ができたことのない漫画『蝶のみちゆき』を読んだよという人といつか出会えると信じているし、F-ZERO99以外うんともすんとも言っていないF-ZEROの新作を今でも待ち続けているし、"日本を代表するeスポーツキャスターなない"の名前が誰の前で出しても通じた未来を諦められずにいる。

日本eスポーツアワードで石井プロさん製作のなないさん追悼VTRが流された。どの程度の人が注目していた催しかはわからないけれど、少なくともぼくたち「なないさんが好きだった人」には確かにリーチした。
"1990 - 2023"が表示された時点で感情ぶっ壊されてしまったので内容については省略するけれど、こうしてわざわざプログラムに組み込んで流すくらい本当に大事に扱ってもらえて、なんだかひとつの念願が叶ったような気持ちになった。
石井プロ、eスポーツアワードの方々、その他じゃんごさんをはじめ関わった皆様、本当にありがとうございました。たかだか一リスナーのぼくが言うようなことではないかもだけど。

なないさんのことを知ったのはそこまで早くはない。なないさんがまだTwitchで配信していたギリギリくらいの頃、ストVオンラインFAVカップの実況をやったりしていた繋がりでsakoさんからレイドで飛ばされたのがきっかけだった。
視聴者10人いるようないないようなな中、やり込みプレイとかではなしにキマリを魔法型エースとして育て上げる縛りでFFXをやっていた。FFXをプレイしたことがある方はご存知かもしれないが、ストーリー範囲程度では魔法型のキマリはめちゃくちゃ弱い。実際なないさんのプレイ中も「これキマリじゃなきゃ普通に突破できたよな……」と思うような苦しい戦闘が何度も続く。
それでも、むしろその苦しい戦闘の様子でゲラゲラ笑いながら楽しそうにプレイする様子を見ていて「アホなことするの好きそうな人だな」と思うと同時に、sakoさんの低血圧な配信を好んで見ていた自分にとって配信の騒がしくない温度感が心地よくて、それからなんとなくちょこちょこ見るようになった。

GBVSで優勝者に3000モバコインを放り投げてその場でグラブルのガチャを回してもらう大会(名前は『虹石杯』)を開こう、みたいな話になった時は声出して笑った。アホなこと好きすぎる。
しかもちゃんと実現した。どうなっとる。格ゲー大会のネーミングで最も好きなのは今でもずっと『虹石杯』と『Red Bull Tower of Pride』。

「格ゲー勢でマイクラをやろう」の機運が高まった時、我らがウメちゃんに導入させようと奮闘したり、格ゲー勢たちに導入させるにあたって明らかにコストが高い部分を躊躇いなく受け持ったりしていた時の流れも印象的だった。
そういうことを雑に「やるよ」と言うと相手に遠慮が生まれたりとかして結局実現しなかったりするんだけど、みんながちゃんと参加してくれるような空気にきちんと乗せていたし、ウメちゃんも最終的に参加できるようにサポートしきっていた。神。

まぐろなちゃんがやってたのを見たりまぐろな電流システムを参考にしたりしてなぜか生えてしまった電流システムで遊んでる姿には、もしかして芸人でも目指してるのかなあと思ったりはした。さっすがにリア狂。


なない配信を見るようになってから、しばしばなないさんの出演するイベントをそれまでよりも広く見るようになった。
FAVカップでも「あ、なないさんだ」と思うようになったし、それまで大会自体を一度も見たことがなかったRAGEのGBVS部門は見た。聞きやすい実況。本当に聞きやすい。試合の、選手の、素材の味をそのままに、見ている側のテンションを外さない。「見ていて呼吸しやすいな」と思った。

その中でも「実況:なない」は本当に貴重なんだな、と初めて思った大会が『Craze For CAMELOT』。猪狩ともかさん、美音咲月さんという、アイドルグループ「仮面女子」のお二方がMC席に座っていた招待制の大会。

長時間に渡ってお二方のリアクションが乗り続ける大会配信。ひっろい世界に比べればせっまい間でしか遊ばれていない格ゲーの突っ込んだ知識も、ましてやせっまい村である格ゲー界隈のノリも当然知らないであろう方々から、最低限楽しそうな反応を引き出す必要があった。
同時に、この大会には仮面女子のライブパートもあった。アイドルなんてアイマスとかジャニーズしかわからんよという層も多い格ゲー村のオタクたちに、仮面女子のお二方とのやり取りを通じて仮面女子へのポジティブな印象を、あるいは興味関心を持ってもらう必要があった。
eスポーツがどうこうと叫ばれるようになって激増した、これまで行われてきた内向きの大会と大幅に異なる、あまりにも”外向き”の特殊さを持った大会。この席に座れる人間、この状況を回せる人材、少なくとも現時点の格ゲー村では本当になないさんしかいないんだろうなあ、と思った。別の場面、別の大会ではこの方が適切だろうというシーンはもちろんあり、こういった場面では”なない”なんだろうな、と。
これ以降、なないさんが実況を担当する大会は見られる限り見るようになった。

他に印象的だったのは、ポケモンユナイト公式大会で実現した「実況:なない 解説:ちょもす」のペア。

二人の声の温度感が、言葉選びの丁寧さが近いのはあるんだけれど、それ以上に”間”の作り方と使い方があまりにも噛み合っていた。どちらも引くところでスッと引くタイプの”渡し方”をするタイプで、音声としてぶち抜けて聞きやすい実況解説のペアだった。
「言いたいことがどんどん出てくる」というタイプの実況解説も熱があり、今まさに目が離せないことが起きたという実感を伴うものなので、それはそれでとても大事なものだと思う。
それはそれとして「聞きやすい大会実況解説」というものは(少なくともぼくの観測範囲では)本当に貴重で、組み合わせパターンがいくつかあるユナイトの実況解説ペアの中で一番好きな組み合わせだった。こういう記事だから正直に言ってしまうけれど、なない×ちょもすのところだけめちゃくちゃ贔屓して積極的に見ていた。ごめん。
盛り上がりや熱量、驚きを視聴者にきちんと伝えつつ、お互いの声を必要以上に被せない。どの程度の熱量を求めて見ているかが人それぞれなのもあり、実際にやるのは様々な意味で難易度が高いのだと思う。なので求めることはしないけれど、実現していたあの時間は、その大会を視聴していた体験は、ぼくの中で大切な宝物だ。

なないさんの活動という意味で印象的だったのは『NARAKA: BLADEPOINT』の大会。「オモロイから遊んでたら実況/解説で案件が来てしまった」のパターンのやつ。

なないさんの「オモロイから遊んでいる姿」、「オモロイからやり込んだ」というところが評価されていった流れ。かくいうぼくもなないさんの配信となないさんが実況を担当した配信だけは見てた。
これ以前にも『オルガン坂生徒会』(のFallGuys)などでもあったのだけど、NARAKAに関しては誰か経由とかでもなく本当にピンポイントで抜擢されたものだとはっきり感じた一件だったので、本当に驚いたし「すごいな」と思った。格ゲー村からこういう人が出てくるとは正直思っていなかった。
後日NARAKA勢の(確かこうした競技的な大会にも出場されていらした)方から「ちゃんとわかってる人がMC席に座っていてくれてよかった」との言葉があったという話が本当に好きで、そういう感想を発してくれる方の界隈で本当によかった、と勝手に思っていたこともある。
NARAKA勢の皆さん、本当にありがとうございました。


ここまでワッと書いたところでちょっと泣いています。


特に好きだった配信シリーズは、ノベルゲーム(≒デスゲーム)やるやつと、


格ゲーおじさんたちに導入がんばってもらいながら遊ぶやつと、


始まったばかりのゲームとか誰もよう知らんゲームをワーッと遊んで初期攻略詰めたり初見の味わい堪能したりしていくやつと、


大会直後の興奮そのままに「あれヤ~~~~~~バかった」「あの試合めちゃくちゃいい試合だったね~~~~~~~~~!!!!!」「あの選手のアレちょっとマネしてみようぜ」みたいな配信と、


あと虚無。

マダミスとTRPGは全部ネタバレになるのでぜひ自分で通過してから見てくれよな!
面子選びから”なない”の妙が出てるんだ本当に。どんな人のどんなノリでもちゃんと受け止めて返せるマスター(KP)、ほんとうにすごいと思う。

ぜーんぶ楽しかった。
大会の感想はだいたいなない配信でやんややんやするようになっていた。
未知の山を開拓していくようなノベルゲーや初期攻略の配信はみんなでワクワクを共有している気持ちになれた。
おじを、あるいは格ゲーマーたちを転がして新しいゲームを遊んでもらうまでのぐだぐだした準備時間が愛おしかった。
虚無を楽しそうに配信する姿、それに乗っかって虚無みたいなコメントをしている瞬間は、なない配信と平和島(MOV)配信くらいでしか満たせなかった。

人を弄んだ末に、あるいは大苦戦の果てに飛び出す「ばぁ~~~~~かがよぉ!!」を楽しみに配信見てるところがあった。
もうなんもかんも楽しそうで、オモロイと思ったものを躊躇わずに摂取しに行っている姿が好きだった。
知育で毎回けつまづいて「??????」ってなりながら運ゲーミング所属ブルートフォースなないになるお約束の流れは毎回気持ち悪い笑顔にさせてもらった。
突然インターネット老人会スイッチが入りサンホラの話をしはじめてジジイしかおらんチャット欄に笑うノリはよくないとわかってるけど楽しかった。
初めて触るゲームを攻略する時のああでもないこうでもないの温度感は本当に心地よかった。
時にコメント欄をおもちゃにしながらコメント欄と遊び倒すあの距離感の絶妙さは何食ったらそんなことできるのか教えてほしかった。


Youtubeで通知をオンにしてたの、QuizKnockとなないチャンネルだけだったんだ。
日中のダラッとした配信も、深夜の趣味ゲー配信も、ゴールデンタイムのちょっと襟を正したマダミスやTRPGも。
日常の大部分を、趣味の大部分を、楽しみの大部分を。格ゲーマーなないに、配信者なないに、TRPG/マダミスGMなないに、Vtuberナナミに、大会実況者なないに、強く大きく依存してた。

尾を引いた。今でも尾を引いてる。「そこになないさんが座っていれば、なないさんはきっと、とても楽しそうに、嬉しそうに笑ってくれたんだろうなあ」と思う瞬間はいっぱいあるし、今でもなないさんの声は頭の中で聞こえてくる。
なないさんがいなくても、ぼくらはすべてを楽しむことができるし、すべては最高に楽しくすることができるし、最高の瞬間を共有することができる。
ただ、そこになないさんがいてほしかったなあ、と思ってしまうことが、今でもどうしてもある。


どうしようもないことだ。わかってる。誰に伝わるでもない。誰に伝わったって何にもならない。こんなことを考えたって、誰かの慰めになることも、誰かが満たされることも、誰かを救うこともない。
ただ、なないさんに声をかけることを許してほしくて、とめどないことをいつまでもぐるぐる考えている。


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