New Generation Contest 振り返り

New Generation Contest にご参加いただいた皆様、ありがとうございました。大会の全般的なことから個別の問題まで、いろいろお話したいと思います。

大会について

先日開催されたWSPC2022に参加して、素晴らしいパズルをたくさん解く機会をもらいました(いつかまたそちらの振り返りももうちょっとしたいです)。とてもよい経験だったので是非多くの人にも体験してもらいたいと思うのですが、残念ながら問題自体は非公開(というか販売品)なのでなかなか難しいところです(ついでに日本からWPCに参加することの難しさは私も身をもって味わっています)。そこで、個人的事情でリソースができたことも手伝って、自分でそれっぽいコンテストを開催しようとなったのが今回の発端です。こういう発想はPre-PGPの運営に参加してきたからこそというのは感じるので、経験に感謝ですね。
さすがにたくさんラウンドを用意してというわけにはいかないので、今回はRound3のNew Generationを取り上げました。大会の作家陣がここ数年で発表した新しめのパズルが揃ったラウンドでしたが、他のラウンドにちょくちょく顔を出すパズル種も多く、本大会を象徴するラウンドと言ってよいでしょう。また、まだ日本ではあまり見かけないパズルも多かったので、それらを紹介する役割も果たせたらなと思っていました。
今回のコンテストではサイズを8×8と10×10に統一して2題ずつ出す形とし、おおよそ元ラウンドの半分のボリュームを狙いました。得点設定はだいたい元ラウンドと同じ感覚(トップ層で10pts/min)を目指しており、エクトぷらずまさんの解きチェックタイムが約50分だったのを大いに参考にしました(エクトぷらずまさんにはトップソルバーとして問題の感触を教えてくれたりチェックを行ってくれたりとコンテスト作成に欠かせない部分を引き受けていただきました。この場を借りて感謝いたします)。元ラウンドと同じくらい面白く…とはなかなか烏滸がましくて言えず、実際一人でこれだけの量と種類を作るとあんまりうまくできなかったなという問題も混じってしまってはいるのですが、新鮮なパズルの味を感じてもらえる部分もあったのではないでしょうか。ここからは、それぞれの問題について何を考えて作問していたかなども交えてお話ししたいと思います。
なお、インストのルール文や例題は自由に使っていただいて構いません(教えてもらえると喜びます)。ルール文は十分推敲したものだとは言いませんが、例題のいくつかはちょっと凝って作りました。Limited Alikeなんかはお気に入りです。

各問題について

Aqre

今回のパズルの中では唯一、日本でもそれなりに馴染みのあるパズルと言えるのではないでしょうか。一方で私自身はそこまで経験を積んでいるわけではないので、WPCでも敬遠気味だったパズルです。
1問目は、自分があまりAqreの定石を把握できておらず、コンテスト全体としても最初になることも一応考えて、基本手筋で進むように上側を作っていきました。しかしながら、下半分は点対称配置を維持しようとした結果謎の力で決まるタイプに…。結局、問題内での難易度落差が大きくなってしまいました。とはいえ3~4行程度なら何とかゴリ押してもらえるかなという作者的評価でしたが、めでたく経験豊富なエクトさんからも全然わからんとのコメントをいただき、注意喚起の意も込めて配点を上げています。
2問目は中空の穴と外周の分断からまわりを繋いでいくタイプ。WPCで私が苦杯をなめた某問題をちょびっと意識しています。あまり伝わらない話にはなってしまうのですが、実は作問途中で右下の3×3に8が入っていたタイミングがありその時は黒マスがリング状だったので、この辺の議論は面白いなと思います。右上の6は点対称配置によって発生しただけの余剰ヒントで、さして解く助けにもならないというのが少し寂しいポイントです。

Square Jam

新出と言われると意外というか、非常にシンプルな分割パズルです。WPCに向けた練習も含めていくつか解いてみましたが、なんというかふわっとした感じを受けました。その独特の解き味は個人的にはなかなか面白いと感じたので、今回出題した2問ではその感覚が出せるように何とか頑張ってみましたがいかがだったでしょうか。
1問目は右下に表出のない4を作ることをゴールに組んでいった問題です。思いがけず出てきた後半の3の二択はなかなかトリッキーだった印象があります。
2問目は、前問が中空ヒントのみだったことを受けて壁際ヒントのみで作りました。作者自身でも案外決まるもんだなと感心しています。右上の初手などで出てくる1マスの隘路を塞ぐ形はけっこう好きです。

Disorderly Loop

これもいくつか問題を解いてどう作るか考えた結果、ちょっと抽象的な表現ですがヒントの濃淡のコントロールが肝になるパズルだなと感じました。例えばヒントマスがあった場合、その先の数セグメントはローカルにすぐ決まるというパターンが比較的多いです。一方でループのその先については何も教えてくれないので、そこでいかに小ループ禁や偶端などを駆使して決めていくかが問われることになります。解いてみて面白いと感じた問題はそのあたりがキッチリしているなという印象を受けました。もちろんヒントマスを増やすのも一手ですが、今回作成した問題のようにあらかじめ点対称配置を決めてしまっている場合は、ヒントの空白地帯が広がり過ぎないようになども考えながら作問する必要がありました。
さて、1問目はその辺を投げ捨てた飛び道具問です。「めちゃくちゃ数字置けば広い範囲に波及させられるじゃん!」という安直な考えで作りました。数字を1~7にしたのは思い付きでしたが、ここで重複があるとPenpa-editorでの作図に困るところだったので助かりました。作るときは半分正解ループを決め置きしてから微調整みたいなことをやっていますが、右上が示す7の置き場が1通りしかないところからちゃんと解けるようにはなっています。
2問目は一転、正統派に真っ向から向き合って作りました。何度か言っているのですが私はこういう「まっとうに考えさせるループパズル」を作るのが苦手で、かなり挑戦になったという感想です。右上の小ループ禁など、作者的にはなかなかそれっぽくできたんじゃないかと思っています。Disorderly Loop のルールだとヒント数字の個数を増やすことが必ずしも制約を強めることにならないので、絶妙にヒントの小回りが利かず作っていて不思議な感覚でした。

La Paz

初めてルールを見たときは何だこれはと思ったものですが、解いてみるとなかなかどうしてルールがマッチしている不思議なパズルです。多くの人は初見だととっつき辛く感じるのではないでしょうか。実際、WPCのQ&Aでも運営側ですらルール把握にちょっとごたつきがあったのを観測してフフッとなりました。
1問目は2問目ができた後に作りましたが、全体的に点対称ヒントに翻弄された感じがあります。壁際にヒントを押さえ付ければとっつきやすくなるかなと思っての配置でしたが、作問後半になるとなかなか制御が効かず変な展開が混じるようになってしまっています。2×2のドミノ予約は2問目とも被っており、もうちょっと練れたかもしれないと若干心残りがあります。
2問目に関しては、初手の流れは即決でした。この展開はWPCの練習をしていたときに何度か見かけた動きでしたが、謎展開が多いこのパズルの中でスパッと決まる形は2問の差別化にもつながるだろうということで拝借させていただきました。全体的にヒント数字も最小限で決めていけたかなと思うので、こちらは結構お気に入りです。

Rail Pool

Disorderly Loopと並ぶセグメント長系ループパズルです(お仲間はBalance LoopとかGeradewegとかでしょうか)。ただこちらは全通ルールがあるので、ヒントがない部分でもある程度決めていくことができます。WPCでは、それを活かした引きで何とかなっちゃう問題や?なども交えた斬新なロジックの問題、ゴリゴリの重たい理詰め問など様々なバリエーションを味わえました。私にもそんな力があれば…と歯噛みしながらも、軽い仮定もはさみつつ解いていくようなオーソドックスな問題を作ったつもりです。そういえばこの人作問時に?の存在を忘れていたようですね…。一応2問目の2を?にしちゃっても唯一解になりそうですが、それだと理詰め感が薄れてよくないですね。
1問目は比較的展開重視で、壁際の3の伸ばし方や4種類の数字を消化する方法を考えてもらう感じです。Rail Poolというパズルの可能性を一端でも見せられればと思って作りましたが、派手さはそこまで。
2問目はネタ寄りで端から点対称配置も捨てていますね。期待していた偶端や10マスの埋め方はそこまで活躍しませんでしたが、頑張ればもっと活かし方も見つかるかもしれないとは感じます。この問題は地味にそれ以外の部分も一筋縄ではいかず、全通要素の力強さを味わえるかも。

Context

紙で解くとしばらく混乱するルール。基本的には要所要所のパターンを調べ上げて解き進めていくタイプで、ウソワン・やじかず・黒どこなどの「黒隣接禁+白連結」ルールと合わさって私と相性の悪いパズルだと思っています。まあ言うてもヒントによって解が単調減少するタイプやし作問はいけるかな…と思っていたのですが、WPCの問題が当然のように点対称ヒントだったのを真似した結果、唯一解にならない・ユニークネスが発生する・ヒント追加で想定展開か崩れるなどのオンパレードでかなり苦しい戦いになりました。これを自然に作るにはかなりの力量が必要だと思います。
1問目は全体の分断が目立つ形です。いずれにせよで進めて後から決める形が理想でしたが、このパズルだとなかなかそれを維持できず歯がゆい思いをしました。
2問目はドミノヒントが崩れている箇所に悲哀を感じます。角付近にヒントを配置して配慮したつもりだったのに、それが他とあまり相互作用せずどうにもならなくなった結果です。もう少し双方向的なヒントの絡み合いを作りたかったのですが、なかなか難しいものですね。

Celltinels

スネーク系のパズルですが、比較的小回りの利くヒント数字によって様々な展開が楽しめるのが魅力です。しかしながら、今回の8×8や10×10というサイズだとそもそもスネークループの動きに幅が出にくいというのはあり、もう少し大きい盤面が映えるパズルかなと思います。まあそこは割り切って作っていますが、Celltinelsらしい味わいを出すにはどうすればいいかというのは今でも考えます。そここそが原作のArvi氏のなせる業という側面もあるかもしれません。
1問目はヒント同士が向かい合う形を多く使いたいなというのを念頭に灰マスを配置をしていきました。さすがに8×8では正解盤面もちょっと味気なく見えてしまいますが、ある程度仕方ありません。
2問目は壁際の挙動を入れたいということ以外は行き当たりばったりに作りました。気を抜くとすぐループが盤面全体ぐるっと一周の大きな輪になってしまいますね。

Limited Alike

ルールが渋滞気味ですが、LITS+島国+αみたいな感じです。島国ルールでかなりいろいろなことができるので、個人的には作っていて楽しかった側です。ただしN個ルールが全体制約としてあるためこちらは小さめの盤面が似合うパズルで、10×10でもやや大きいかなとは感じました。小さいピースを使い切って先に進む形がちょくちょくあるので、展開を注意しないと大きいピースばかり入れなければならない部分が出てしまいます。
1問目はコンセプトをうまく形にできたかなと思っています。ただし闇問に片足を突っ込んでる気配はあるかも…。当初外周は27でいこうと思っていましたが、その場合唯一解にするパターンを思いつけなかったので26になりました。構想段階では内側面で123と置かせるように誘導すればパターンもそんなにないかなと思っていたのですが、実際やってみると(唯一解にならないパターンも含めて)想像していたよりもいろいろな形が考えられてチェックが怖かったです。
2問目は見ての通り1×nボックスをテーマにしています。前述のサイズ問題に対して、右側のような展開でスペースを使えるかなということも考えて作っていきました。最初はもう少しよくわからん形を入れ込もうと画策したものの、作者自身がわからんとなって別解を潰せなくなったのでまともな展開に作り直しました。島国もヤバい問題はヤバいですが、Limited Alikeも似たような感じで闇問方向への発展があるかもしれません。

大会を終えて

改めて様々な方に参加していただきありがとうございました。日和って自分からは特に動いていないのですが、海外ソルバーの方にもそれなりに参加してもらえたのは嬉しかったです。ただ一点反省としては、あらかじめ配点感覚(トップソルバーで10pts/min)は全員が分かるように書いておくべきだったかなと思います。これによって、初心者は未知の難易度を相手にする一方代表者などだけが得点感覚を掴んでいるという不公平ができてしまったかもしれません。全体の得点調整自体は代表クラスでフィニッシュできるかどうかという塩梅でおおむね想定通りでした。その中でも最上位層の速度には圧倒されますね。

個別の問題だと、Disorderly Loopの両問やRail Poolの2番は思ったより解かれなかった印象です。逆にLa Pazは50点を付けた2番も含めて結構解けていて、思ったより馴染みやすいパズルなのかもしれません。また、問題順も大きいとは思いますがLimited Alikeはかなり厳しかったようです。2番の方は手を進められる作りにはしたつもりでしたが、ルール把握のハードルはあったかもしれません。

今回の大会は自分で用意する範囲が広く大変であったとともに、各種オンライン大会やWPCにおける作問者の皆さんのレベルの高さに気付かされる機会でもありました。私もまだまだの身で、労力的な意味でもこの規模の個人大会はなかなか開けないとは思いますが、これからもPrePGPなどを通じて競技パズルを盛り上げる一助となれればと思っています。


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