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15.スラムダンク創作山王でわちゃわちゃする話(沢北栄治、深津一成)


〜社会人編〜
主人公アキちゃん、山王工高出身
幼なじみ 沢北

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完全自己満、結構大人な内容ですので苦手な方はご遠慮ください。あまりバスケに触れず誤字脱字あり。すみません。前回の続きです。

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花火の音が聞こえる。
またあの夢を見てる。
「好きだよ。」
そう言って笑いかける深津先輩。
私が何かを言いかけると
必ず目が覚めてしまう。

「夢か…。」
そう言っていつもの朝を迎える。
さっきまで17歳の気持ちでいたのに。
頭の中ではもう、今日の仕事のスケジュールを考えている。

私、戻りたいのかな。
そう思った。
何もできずにいたくせに。


「佐藤ちゃんって山王工高出身だったよね。」
「はい、そうです。」
お昼の時間に先輩の水原さんがお箸を割りながらそう切り出した。
「チーフが新しい企画に佐藤ちゃんいれるってよ!」
「ええー!!」
思わず小さくガッツポーズする。
新卒から入社した憧れの女性向け雑誌編集社。
コツコツ人気のコンテンツアシスタントをやってきたかいがあった。
まさか新しい企画のアシスタントに入れるなんて…
絶対この機会を逃したくない。

「って、なんの企画かとか聞いてないですよねぇ…勉強しておこうと思って。」
座り直して水原さんにこそっと聞く。
「えっとね、プロのバスケット選手の記事だって。佐藤さんの出身校すごくバスケ強いんでしょ?だから適任じゃないかって!」
「え…」
思わず顔が曇る。

「あれ、なんかダメだった?」
水原さんがびっくりした顔をする。
「同世代より少し若い、活躍している異性を取り上げた記事を作りたいみたい。」
とこっそり企画書を見せてくれる。

「アイドルの特集はべつのマガジンもやってるから〜って。確かに今までライフスタイルに特化してきたし、スポーツって分野は初だから新しい試みだけど…最近Bリーグが盛り上がってて、女性人気が高い選手もいていいんじゃないかって!」
私が不安を感じてると思った水原さんが、笑顔で背中を押す。
「佐藤さん頑張ってきたから私もおしちゃったんだよね!最初の担当って凄い大事だから!取材もやらせてもらえるよ。」
「すごく…ありがたいです。」
頑張って作り笑顔をする。

いけない。こんな気持ちじゃ、誰にでもチャンスがまわってくるわけじゃないのに。

昔好きだった人がバスケをやってたから、気が進まない。
なんて、水原さんに言えるわけない…。

あれからバスケに関することは遠ざけてきたのに、まさか今になって関わることになるなんて…。

「よかった!特別に最初のアポかける予定の人、教えてあげる。」
「えっ、いいんですか。」
水原さんが携帯で名前を検索する。
その名前を打つ途中で、私は あ。と声を出す。
「私、今日この人に会いますよ。」
「ええー!佐藤さんやっぱり適任じゃん!すごい偶然だね。」

水原さんはすごく色々深掘りしたそうだったけど、何も聞いてこなかった。
「今日アポとる予定だから承諾してもらえるように佐藤さんからもよろしく伝えといて!」
水原さんはイタズラっぽく笑った。


待ち合わせの時間だけど、彼の姿はない。
あれ、おかしいなぁ。とLINEを確認する。

1年ぶりだろうか。こんなタイミングで仕事で関わる事になるなんて本当不思議な事もあるな。

「アキー!」
聞き覚えのある声がふとして、周りを見渡すけど、彼の姿はない。
すると、向かい側の道路に停めてある黒の高級車に目が止まる。
車のウィンドウが空いて手を振る姿を見つける。
ちょうど信号が青になったので、急いで渡る。

「びっくりした!」
駆け寄ると相変わらず子犬みたいに笑う沢北がいた。
「アキ驚かせたくて、空港から運転してきた。」
恐る恐る助席に乗り込む。
皮のいい匂いがした。
「免許とったの?」
走り出した車の横で運転する沢北を見つめながら
言う。
「やっととったよ!アメリカでね!」
チラチラこちらを見ながら恥ずかしそうに言う。
「アキ、ドライブしたいって言ってただろ。」
思わず吹き出す。
「覚えてたの!高校生の時に言ってた事だよね。」
「覚えてるよ!乗せたの、アキが初めてだよ!」
そう言ってにっこり笑う。
沢北は大人っぽくなったけど、何も変わってないな。
「私東京で誰かの車乗ったの初めて。」
丸の内を車で通ると、皇居が見えてとても綺麗。
なんだか誇らしげな沢北を見ると私も嬉しくなった。
「沢北、この車どうしたの?」
「空港で借りた。どうせならいい車がいいじゃん。」

ふーん。とかっこつけてる沢北を見て少し笑う。
沢北はアメリカから大体1年ごとに帰ってきていて、時間を合わせてあったりしていた。
アメリカにいるときは2週間に一回位テレビ電話がきて、アメリカの様子を見せてくれたりする。
「飯くった?」
「もう遅いから軽くね。」
「俺22時まで空いてるから、カフェでもいくか。」
「うん。お酒そんなに強くないから、カフェがいい。」
「その後送っていくよ。」
そう言って自然に私の手を握る。
…沢北って本当何年経ってもこうだな。
少し急ブレーキを踏んだので、いいから両手でハンドル持ってと注意する。

高校を卒業してから4年経つ。もうすぐ5年。
私は何も変わってなくて、年齢だけ進んで行ってる気がする。

カフェに入って取り留めない話をする。
「沢北は来年もアメリカにいるの?」
「そうだな〜NBA目指してるから」
軽く凄いことをいってにやっとする沢北。
留学先では英語の勉強にだいぶ手こずったみたいだけど、今はなんとかなってるらしい。
「やれるだけやるよ。アキは仕事どう?」
「あ〜それなんだけど…沢北女性雑誌から特集の依頼きてたでしょ。」
「え、なんでそれしってんの。」
「…そこ私の会社なの。」
ええー!とびっくりする沢北。

「すごい偶然だな。まさかアキの会社だと思ってなかったわ。」
「そうだよね…。私バスケの事全然わかんないけど、やれるだけやってみるつもり!初めて取材までさせてもらえることになったの!」
そう言って笑う私を見て、優しく沢北は笑った。

「そうか、よかったな。」
「あー、でも無理しなくていいから、それとこれは別だし。」
私が遠慮がちに笑うので、沢北は頭をポンポン叩いた。
「前向きに検討しよう。」
「ありがとうございます。」
ふざけて大袈裟にお辞儀する。
「返事は私の上司に連絡すればいいから!私はまだぺーぺーだし。」
おう。と沢北が返事をした後、何かを言いにくそうにしている。
ん?とコーヒーを飲みながら沢北を見る。

「深津さんと連絡とってないの?」
途端に顔が曇る。
沢北が私に深津先輩の話をふるのは、卒業後初めてだったから。
「…とってないよ。なんで。」
明らかに動揺する。

私が最後に深津先輩と話したのは、深津先輩の卒業式の日。
沢北はインターハイ明けの10日後にアメリカへ行ったから先輩の卒業式はでていない。

理由は、沢北が予定よりはやくアメリカに留学したから。

山王がインターハイの初戦で敗退した事がきっかけなんじゃないかって聞いた事はないけど、そう思ってる。


「てっきり、付き合うと思ってたから。」
長年の疑問をぶつけるみたいに、手探りで聞く沢北。
「はは、何年前の話ししてんの?」
空気を変えるように私が明るく振る舞う。
「もう過去だよ。」
そう言って、沢北の顔を見る。

ふーん。そう言って沢北が背もたれにもたれる。
「俺はまだアキの事好きだけど。」
「え?」
急な告白に思わずコーヒーをこぼした。
その反応を見て沢北が笑いながらもう行こうか。と言った。

「ここでいい?」
「うん!ありがとう!」
そう言って沢北を見て笑う。

沢北がじっと私を見つめて、
「あ、ちょっと待って。」
と降りようとする私を呼び止めるから、どうしたの?と振り向くと、急にキスされた。
「ちょっと…」
不意打ちにフリーズして顔が赤くなる。
その顔を見て、沢北も少し顔を赤くする。
沢北…本当なんにも変わってないな。
もう一回音を立ててちゅっとキスされた。
沢北も恥ずかしいのか私の頭をくしゃくしゃに撫でる。
「ずっとキスしたかった。」
「…彼氏いるかとか聞かないの。」
「…いないだろ、アキは。」
沢北が呆れた顔で言うから、軽く上半身を叩く。
「またね。」

家に上がり込まないだけ、沢北も大人になったって事なのかな…と思いながら熱くなった顔を手であおいだ。


あの人は全く何考えてるんだろ。
アキを見送った後、車を置いて一旦待ち合わせ場所に向かう。
久しぶりに日本食が食べたいと言ったら
落ち着いたら小料理屋を予約しておいてくれた。
そういうところ、相変わらず気配りがありがたいんだけど…と考えながら
個室に通されて、深々とお辞儀をする。
アキのお辞儀につられてる。と後から気づいた。

「お久しぶりです。」
「…何にもかわってないぴょん。」

黒髪のセンターパートだったので、しばらく見慣れず、先にあてで飲んでいた深津さんをじっと見つめる。グループLINEで連絡は取ってたけど、直接会うのは5年ぶりだ。

「俺結構鍛えたんですけどっ」
「集合時間、遅刻するとこが変わってないぴょん」
再び深々とふざけてお辞儀する。
「すみません。アキと会ってて。」
少し反応したけど、深津さんは黙ってメニューを俺に渡す。
何も言わずに髪をかきあげる。
本当にこの2人も変わらないな…と軽くため息をついた。

取り留めのない話しをしながら、近情報告をする。
深津さんが今プロのチームにいる事。
自分がNBAを目指している事、山王メンバーの現在。話し出すとキリがなかった。
お酒もすすんで、夜も深くなった頃
グラスをガンっと置いて深津さんに詰め寄る。

「深津さん…なんで、アキと付き合ってないんですか。」
深津さんはメニュー表をみて、呼び出し音を押す。
「ちょっとシカトしないでくださいよ!」
ピーピー噛み付くと、深津さんは焼酎割りを頼んでから口を開く。
「なんでって、沢北に関係ないぴょん」
「関係ありますよ!」
あー、うるさいのが始まった。という顔で話を聞く深津さん。

「俺、NBA入ったらアキにプロポーズしますよ。」
深津さんが焼酎を吹き出す。
「…。」
おしぼりで拭きながらこっちを不思議そうに見つめる。
「いいんですね!それでも!」
「沢北…相変わらずで恐れ入ったぴょん」
「俺だって大人になったんですよ。これでダメなら諦めます」
テーブルに顔を近づけて追い酒をする。
「なんで…」
深津さんがそう口を開いたので、上目遣いで目線を向ける。

「なんで、そんな自分の気持ちに相手を巻き込めるのかわからないぴょん。」
「巻き込む?」
「NBAいったら、アキちゃんもアメリカに呼ぶって事だぴょん。」
「そうですよ?」
まっすぐそう言った自分を見て、深津さんが肘をついてため息をつく。

「自分がやりたい事のために、なんで好きな人を巻き込めるのかわからないぴょん。」

そう言った深津さんの目はけわしかった。
「うーん。」
なんだ、好きなんじゃないか。と思わず悪態をつきたくなるけど、
顔をテーブルの横につけて考える。

「…やりたい事は、挑戦してできるかできないかじゃないですか。」

寝たままグラスを持って深津さんを指差す。
「でも、好きになったら相手が同じ気持ちかどうかが全てじゃないですか。」
深津さんがお酒を飲むのをやめる。

「深津さんはアキと同じ気持ちだったのに、それを諦めるなんて、贅沢ですよ。」
「…。」
「俺からしたらその方がよっぽど身勝手だと思います。」
深津さんが黙ったので、少し間が空く。
「アキちゃんは、もう前に進んでるぴょん。」
「彼氏いないって言ってました。」
「…。」
そう言ってぐいっと残ったお酒を飲み干す。

深津さんを見て、あの日を思い出す。
インターハイの日。
試合が終わった後泣いていた俺は、深津さんの目を覚えてる。

あれは火がついた目だった。

あの日、みんな深津さんが傷ついたと思ったかもしれない。
でも、キャプテンになってから無敗を守ってた人はそんな柔じゃない。
誰よりも勝ちにこだわっていた人だ。
インターハイで結果を出せなければ、プロからのオファーが来る可能性は低い。
ウィンターカップかプロの合同トライアウトで結果を出すしかない。
深津さんはあの日、人生を決めたんだ。
全てを捨てて。

その気持ちは理解できなくはない。

「沢北。俺はお前ほど器用じゃないし、バスケもお前より上手くないぴょん。」
考え事をしていると、深津さんが急にそんなことを言った。
「だから、俺はこれでよかったと思ってるぴょん」
その言葉が意外すぎて、思わず何も言えなくなる。

「バスケは…確かに俺の方がうまいかもしれないですけど…」
「…沢北、殴ってもいいぴょん?」

顔を思いっきりこすって、深津さんに改めて向き合う。

「深津さん、一つだけ俺の頼み事聞いてもらえないですか。」



「アキちゃん、ちょっときて」
仕事中、水原さんが呼ぶ。
「はい、どうしました?」
会議室の横に呼ばれたので、足早に向かう。

「取材の質問、アキちゃんが考えてきてくれたやつ、すごいよかったよ!」
「ほ、ほんとですか、嬉しいです。」
「書記から入ってもらおうと思ってたけど、取材からまるっとお任せしたいと思って。」
思わず笑顔が止まらない。
「ありがとうございます…!」
「私が質問したいことも含めて、リストにしてきたからパソコンからメッセージおくっておいた。」
何度もお辞儀をしてお礼を言う。
頑張らないと…!そう思って腕時計をチラッと見る。
もうすぐ取材の時間だ。

水原さんと取材の為に抑えていたミーティングスペースに移動する。

「でも、残念だったわね。」
「え?何ですか?」
「え、沢北選手今日来れなくてなったって。」
「えっ。」
私には、行くねって連絡きてたのに…?
どういう事なんだろう。という表情の私に水原さんが不思議そうな顔をする。
「あれ?聞いてないの?代わりに違う選手を紹介してくれたんだけど、その人もぴったりだからお願いしちゃった!」
「え、じゃあ今日取材するのは別の方なんですか?」

水原さんが益々不思議そうに私を見る。
「アキちゃんも知り合いって言ってたわよ。すごい顔が広いのね。」
水原さんがドアを開けると、先にスチール撮影を終えたスタッフの人が出てくる。

水原さんが挨拶した。
「今日は取材を快く受けていただき、ありがとうございます。深津選手。」

そこには深津先輩が立っていた。
お互い目が合って、時が止まる。
どうしてだろう。
こんなに時間が経ったのに、こんな気持ちにさせるのは、この人しかいない。


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