59. スラムダンク創作山王でわちゃわちゃする話(深津一成•沢北栄治•一之倉聡•藤真健司)



主人公 佐藤アキちゃん、山王工高出身、大手雑誌編集部で働いている。


沢北:アキの幼なじみ 山王工高出身 アメリカ在住


深津:東京のプロチーム所属 沢北の先輩 山王工高出身
リョーコ:深津の幼馴染 東京プロチームのマネージャー

水原さん:アキの上司、大手雑誌編集部で働いている。

仙道: 東京のプロチーム所属



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※成人指定※

※直接的な表現ありなので、苦手な人はご遠慮ください


完全自己満、結構大人な内容ですので苦手な方はご遠慮ください。あまりバスケに触れず健全な男女として書いてます。誤字脱字あり。すみません。前回の続きです。


※本作はファンアートです。原作とは一切関係ありません。

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「あの時、好きって言ったよね?って聞いてみたら?」

また、寝付けずに来た夜のコンビニで最近やけに耳慣れた声が聞こえた。
振り向くと、缶酎ハイを差し出される。

コンビニ前で何度も顔を合わせている内に、
私がいつも飲んでたのを覚えてくれたみたいだ。

手にとりながら、頭を下げる。

「もし、また会えたらさ。」そう付け足して、藤真さんがいつものように被っていたフードをとって自分も缶を開けた。プシュッと空気が抜けるような音が響いて、手にとった缶をしばらく見つめて、遅れて私も缶を開ける。

「もうどこにも行くなよ。って、俺なら怒るかな。」
藤真さんが昨日ここで話していた、話しの続きをし始める。
面白くもない失恋した話しをずっとしてしまって恥ずかしい。と思ってたのに、凄く自然に切り出されて藤真さんの横顔を見つめた。
「怒る、かあ…。」
切り出した話にあまり違和感を感じないで、続けると私はここにいる時、過去しか見てない事に気づいた。

藤真さんはいつも過去の出来事を答え合わせしていく。
私が一人で向き合っていた痛みを、自分の事みたいに。
でも、踏み込んでくる事はなくて、ただ私の気持ちが軽くなるように寄り添う。

「…確かに、怒ってみたいな。」そう言って力なく笑う。
「でも、怒れるほどあの人の記憶に残ってる自信ないです。」そう言った自分に藤真さんがいつも答えてるみたいに言う。
「理由があるんだよ。」藤真さんが立ち上がって、空を見た。
「今、一緒にいない理由が。」そう続けて藤真さんがパーカーを脱いでロンティーになると
おもむろに、私にパーカーを羽織らせる。
「佐藤、薄着だな。」
そう言われて気づいた。今日は確かに肌寒い。
体温に鈍感なのは昔からで、今日は一段と鈍かった。

「…今日」
温かさを感じて、不思議と私は口を開く。
藤真さんは私に触らないように正面からパーカーを羽織らせてた手を止めた。
多分、私の声は小さくて子供みたいだったんだと思う。

恐る恐る、今日起きたショックだった事を打ち明けた。
今時よくある。あまり珍しい事じゃない、家庭の事情だった。

なんで、そんな事を藤真さんに言ったのか。わからない。
1人で抱え込むのが辛かったんだと思う。

私は、深津先輩が一緒にいない理由を考えていた。
酔い始めた頭が役に立たなくて、ただ目の前の迷うように見つめる藤真さんが今、私と一緒にいる意味を考え始める。

藤真さんはパーカーの襟をつかんで、私を包み込むように両手で首まわりまで覆った。支離滅裂になる頭が、なんで深津先輩は今一緒にいてくれないの?そう責め始める。深津先輩は悪くないのに。

逃げられる訳がない夜を持て余して、
辛い時に好きな人は目の前にいない。
たったそれだけの事。
この時は小さな悩みも抱えきれない位大きく感じた。

藤真さんはしばらく黙って、ポケットに手をいれたまま何も言わずに歩きだした。

子供みたいに立ち尽くす私を見て、缶を傾けながら振り返ってビー玉みたいな目で見つめる。

「おいでよ。」
寝付けない街でより添った声を頼りに歩き出す。どうしようもない夜の隙間、私はこの言葉に救われた。




夜の空気が背中を通る感覚がして目を開けると、背中を包む大きな手が私を温めていた。
何か夢を見ていた気がする。
多分、幸せな夢じゃなかった。そう思って目線を上に向けると低い温度が表示されている空調の画面を見ると、寒いはずだ。と気づいた。
大きな両手に抱かれたまま、空調に手を伸ばすと力が入ってぎゅっと抱きしめられる。

「...どこいくぴょん。」いつもの寝起きの怖い顔で見つめながら優しい声で話しかけられた。

深津先輩って寝起き怖い顔してるのに、言う事可愛いんだよね…。

「行かないよ。寒いの。」くすくす笑って空調を指さす。
ああ。という顔をして長い手で空調を調整してくれた後、背中をさする。
「本当だ…。背中冷たいぴょん。」
そう言って布団をかけなおして横向きで私を抱きしめなおしながら
「もう、寒くないぴょん。俺がいるから。」そう言ってこめかみにキスをする。
なんだか、その言葉が心に響いて深い安らぎを感じた。
不思議だった。
遠い昔に、聞きたかった言葉が今届いたみたいに。

「ごめんね。」
急に謝られて、どうしたのかと顔を見上げる。

「俺が、温度下げたぴょん。」
眉間にしわを寄せて眠そうに目を閉じたままそう言う深津先輩を見て
ふふっ。と笑った。

そうか。間違いなんて一つもなかった。
急に、全部うまくいく気がしてくる。
昔のことを思い出すと「ごめんね」っていう深津先輩はいつも私を大事に思ってた。

「かずくん。」
名前を呼ぶと、深津先輩が目をゆっくり開けて私を見下ろす。
私の顔を見て、眉間のしわが緩んでくる。
だいぶ私を見る事にも慣れた目線が愛しい。
「高校卒業してから、私のこと思い出したりしてた?」
黒目が動いて少し考えながら私を見つめる。

「帰りたくなるから、考えないようにしてた。」
そう言って顔を撫でる。
「…俺は、アキちゃんじゃないとダメだから。」
眉毛がたれて、眠そうな顔をする。瞬きが重くて子供みたいだ。
自然と口角が上がったけど、嬉しくて泣きそうになった。
眠い時の深津先輩はいつもより素直で可愛い。
すーっと気づいたら寝息が聞こえて深津先輩が眠りに落ちる。
「ふふっ…。」
「……。俺、寝てたぴょん?」
私が肩を震わせて笑ったから、深津先輩がまた目を覚まして、目を閉じたまま笑う。2人で笑い合って片方の腕を枕にして、恥ずかしそうに空いた手で私を抱きしめなおした。
「…アキちゃんにお洒落なデスク、あげたいぴょん。可愛い椅子とか…。」

口角が上がって、にこにこしてる深津先輩が珍しかった。ウトウトしながら喋る深津先輩が愛しい。
「だから、俺のこと…待ってて。」
「うん......。ずっと待ってたよ。」
完全に眠りに落ちた深津先輩の寝顔を見て、包まれた両手の重さを感じた。
あれから時間は過ぎ去っていって、私は過ぎていく時間に鈍感だった。
意味のない時間もあったのに、間違いなんてなくて
夜の隙間を縫い合わせて、今満たされて心の中がいっぱいになった。
腕の中で呼吸を深くすると、深津先輩が大きく息を吐いた。
この腕の中でしか呼吸できなくなったのかな。と思う位。
一気に20度に上がる部屋でこれでもかと体を寄せあった。



緊迫した空気感の中で練習試合が行われる。
靴の音が響いて、ファールを指摘する笛の音が鳴り響いた。音が消え、呼吸音が静かに重なる。
すんでのところで藤真の肘がはいりそうになったのを沢北がかわす。
ディフェンスを抜き去ろうとゴール方向へドリブルしている藤真に対して、飛び込んだプレイをしたのは沢北で、肘がぶつかりそうになって沢北のファウルになった。
沢北が藤真の肘を交わした拍子に、膝が藤真と接触した。
藤真が沢北の前に立ちはだかる。
「ちょっと。何熱くなってんすか。わざとじゃないですよ。」
「多いんだよ。お前ケガするぞ。」
藤真の言い分もわかる。だけど、藤真は沢北を意識しすぎている。

藤真の挑発的な空気が助長されて、沢北のプレイがアクティブになる。
胸が合わさって、空気が張り詰める。

2人が掴み合う前に、割って入る。
手を沢北の胸に沿えて、後ろへ押した。腕で沢北を抑える。
「どうしたぴょん。」
無表情で沢北の注意をこちらへ向ける。にらみ合っている時は両方を引き離してから、荒れた空気を鎮める。
藤真に顔を向けて顎で後ろをさす。無言で下がれ。と伝えた。
そのまま、沢北の背中に腕をまわして下げる。

「深津さん…。」
どうせまた、キャンキャン騒ぐのかな。と眉間にしわを寄せて沢北を見た。

「俺の事…守ってくれてます?」
「は?」

キラキラした沢北の表情を見て、目が点になる。

「深津さんて…俺のことなんだかんだ好きですよね…。俺嬉しいです。」

否定もできない位、喜んでいる沢北を前にして
「お前って本当に幸せなヤツぴょん。」無表情でそう言ってポジションに戻した。

「絶対、深津さんと代表選手になろっと。」
割と大きな声で言うので、また場の空気が冷たくなる。

ため息をつきながら、ディフェンスの姿勢にはいると沢北を見つめる藤真と目があった。
こんな時に考えたくないのに、藤真の顔を見るとアキちゃんを思い出す。
一之倉に言われた言葉が頭をループした。
『だってさ昔の男は、俺とどうやって付き合ったとか知らない訳でしょ。知りようもないしさ。一緒じゃん。』
一緒...。そう。俺と藤真は一緒だぴょん。

何も、お互い悪くない。

そう自分に言い聞かせている内に、複雑な気持ちになってきて自然と顔が険しくなった。





「藤真さん。」翔陽の後輩が声をかけてくる。

「山王って…仲いいんですね。」
「あ?…ああ、そうみたいだな。」
「深津さん……めちゃくちゃ睨んでるじゃないですか。」

そう言われてまた視線を戻すと、こちらを底知れない目で睨んでる深津とまた目があう。

「……後輩思いなんだろうな?」
思わず、深津の威圧感にたじろぐ。見つめられて冷静になる自分がいた。

視線を沢北に移すと、口に手をそえてドキドキした様子で深津を見ていた。

「俺、大人げないな…。」
そう呟きながら踏ん切りがつかない自分がいて、どうしたらいいのかわからなくなった。

沢北を想って、悲しそうな顔をした佐藤を思い出して納得がいっていない。

自分をどう納得させていいのかも、よくわからない。
どうしようもなく、自分と最初に出会っていたら運命は違っていたのかもしれない。そんなことばかり考えてしまう。





「聡、どこにいるのかな。」
サプライズさせたくて、同じく代表合宿の会場にいることは言わなかった。
挨拶と見学がひと段落して、トレーニングセンターの会場を歩きまわる。
長い廊下を歩いて、スタッフの名札をかけた人達が歩いてくる方に自然と足が動く。
角を曲がると自販機が置いてある開けたスぺースに出て、自販機の前に見慣れた姿を見つけた。
切れ長の目を伏し目がちにして腰を落としている。
血管が見えた太い腕に視線をとられて、触られた時のことを思い出した。私は、一之倉に会うたびドキドキしている。

声をかけようとして、あげた手が止まった。

「一之倉、久しぶり」
向こう側から、黒髪が綺麗な女性が私より先に一之倉に声をかける。
一之倉が顔を上げて、ゆっくりと腰をあげる。私に背を向けて、反対側に立つ女性の顔をしばらく見つめた。
「ミサキ、久しぶり。」
いつもの調子で返してるように聞こえたけど、なんだか声は少し緊張していた。

「こないだは会って、びっくりしたね。」
「そうだね。」
ミサキさんがゆっくり一之倉に近づいてくる。声色が少し緊張してるのに、一之倉に会えて嬉しそうなのが伝わってきた。
「元気そう。」
「ミサキも。」
なんてことないような自然なラリーが続く中、いつでもその空気が壊れそうな違和感があった。
下に目線を移して、言葉を探してるようにみえる。
「会ってちゃんと、話せてなかったから。」

一之倉がそう切り出したミサキさんの方を向く。
「そうだね。」
「私の気のせいかも、しれないんだけど。」

一之倉の声は真っすぐで、平然とした態度だった。
まるでこれから言われる言葉を知ってるみたいに。
どことなく嫌だったのは一之倉の態度が優しかった事で、2人の歴史を感じて今すぐ立ち去りたくなった。ミサキさんが一之倉の向こうにいる私に気がついた。
目があった後も、私を真っすぐ見ながら言葉を続けた。

「私達、付き合うと思ってた。」
足が動かない。足が棒になったみたいに固まっている。ミサキさんが言った言葉を理解しようと必死だったから。

「そうだね。俺も付き合うと思ってた。」

聞いちゃいけない事を聞いた気がして、今からでも遅くないから、後退りして立ち去ろうとする。

「ミレイちゃん。こんなとこにいた。」

空気を変えるような大きな声が後ろからして、私は驚いて振り向いた。

諸星さんが小走りで近づいてきて、私の顔を見て首を傾げる。

どうしたらいいかわからず、そのまま諸星さんのところまで下がると
走って逃げ出した。

一旦、気持ちを整えたかった。

「え、なに?」走り出した私に諸星さんが不思議そうに声をかける。

少し走って諸星さんの声が聞こえなくなった時、肩を掴まれて驚いて足を止める。
減速すると両手を掴まれて頭の上に押さえつけられた。
大好きなニオイがして、顔を直視させられる。

「なんで逃げんの?」
その声を聞いて、一之倉が走って追いかけてきたんだ。と理解した。
いつものように話しかけられたけど、目が笑ってない。
昔「もう会わない」って言った時を思い出した。
一之倉がその時と同じ顔をしてる。
私が逃げたのが気に食わなそうな顔で、でも不安げで私は何て答えたらいいかわからなくなる。

「別に、逃げなくていいでしょ。」
少し肩で呼吸して、そう低い声で言われた。
本当だったら、久しぶりに会えて嬉しいはずなのに…。

「でも」息を切らしてやっとそう言うと、私を見つめる切れ長の目を見つめたまま、何もしてないのに責めたくなる気持ちをおさえた。
今一番、されたら嫌な事をされた気がして、
でも耐え切れないのは私だけで
一之倉と私に何かあった訳じゃない。働いてる理性が上手に喋れなくした。だけど、心の中がぐちゃぐちゃになる。

「…聡、手痛い。」
掴まれた手の力が強くて、力なく伝えた。
「ごめん。」
ぱっと手を離して、ふーっと息を吐いたあと遠くを見る。
私はゆっくり手をおろして両手をあわせて、せわしなく手を動かす。

「俺、なんとなく告白されて付き合う事が多かったんだ。…俺から、追いかけたりなんてしないし。」
そう切り出した一之倉をおそるおそる見つめた。

「ミレイと会うまでは。」
そう言って私を心配そうに覗き込んで優しくほっぺを触った。

「だから、俺はミサキと付き合って何事もなく過ごしていくんだと思ってた。」
私が口をきゅっと結んで、一之倉を見つめた。

「でも、初めてこんなに惹かれたんだ。我慢できないくらい。」
そう続ける一之倉の言葉を聞いて、なぜか泣きそうになる。
「何回、ダメだって思っても、惹かれるんだよ。ミレイには。」
困ったように笑った。

「…初めて?」
拗ねたように口を尖らす。
「うん。初めて。」
欲しい言葉をくれる一之倉が少し不安そうで、悪い事をした気持ちになる。
「こんな女の子に会った事ない。」
そう言ってぎゅっと抱きしめられる。
私はおそるおそる手をまわして、一之倉のあつい体を味わう。

「だから、怖いんだよ。俺。」
頭を撫でる手が優しくて、心がいっぱいになってくる。
「いつか逃げられちゃうんじゃないかって。」
「…ごめんなさい。」
たくさん並べられた言葉を聞いてなぜか謝った。
「不安になった?」そう聞かれて何も言わずに背中に回した手に力を込めた。
「私、不安だよ。いつも。」子供みたいな声で伝える。
「こんなに好きなのに?」
体を少し離して、飄々と言ってくる一之倉を見てふふっと笑いがでた。
「何か…今日、素直だね。」
「本心だし。」そう言って少し恥ずかしそうにするのを隠しながら、私を抱きしめなおした。
機嫌がなおりそうな私を抱きしめながら左右に揺らして、子供をあやすようにした。
「ミレイと会って、人を本当に好きになるってこういう事なんだって気づいた。」
私は心が満たされるのを感じながら、ミサキさんの事を考えていた。

きっと私が一之倉と出会わなければ、この腕の中にいたのはあの人だから。
急に切なくなって、偶然に感謝した。

一之倉に抱きしめられるこの世界は、あまりにも自分に都合がよすぎる。
充分すぎる奇跡を感じた。





「足、はやっ」
一之倉が走っていった方向を見ながら、諸星さんが私に話しかける。
「ミサキさんがここにいるってことは‥‥。」
顎に手をあてて、交互に私の顔を一之倉が走り去っていった方向を見る。

「俺がきたの、めちゃくちゃタイミング悪かったです?」
疎々しい表情でいうから、笑った。
「まあ…私にとっては。」そう言って自販機に小銭をいれた。
「はあー。私って結構、理論的な性格だと思ってたんですけどねえ。」
そう言って、でてきた缶ジュースをとりだす。
「ミサキさんは、理論的な人ですよ。」
そう言う諸星さんを見上げて、困ったように笑うと立ち上がった。
買ったジュースを諸星さんに差し出す。

「全然、ダメだったなあ。」
諸星さんがジュースを手にとりながら、不思議そうに私も見た。
「ダメ?」
「うん。ダメダメ。頭ではわかってたのに全然、感情的になっちゃう。」
「ん~。」
諸星さんが缶を開けて、私が小銭をいれようとするのをさえぎって、自販機に携帯をかざす。
場を和ます電子音が聞こえて、私が頭を下げた。

「俺、そういう時。自分に言い聞かせるんですよ。」
受け流さずに答える姿が珍しくて諸星さんを見つめた。

「もう、そんな人この世界にいない。そう思い込む。」
大したことではないとでもいうように、そう言った諸星さんは理性的で魅力的だった。
「それって‥‥今も実行中ですか?」
「どうでしょうね。」

傷ついた人を目の前にすると、自分はそんな風にはならない。そう人を見下す事もできるのに、同じ経験をしていると、人は優しい言葉をかけるものだ。
私はそう思って、共感してくれた諸星さんが幸せになりますようにと祈った。


「…諸星さん、私がめちゃくちゃ大人げないことしても嫌いにならないくださいね。」
「嫌いにならないですよ。ミサキさんの人柄わかってますし。理解はできると思いますよ。だからなんとかします。」
意外な言葉が返ってきて、少し笑って缶を差し出してくるからクスッと笑って乾杯した。

「気持ちはわからんでもないですしね。」
諸星さんがそう言ってくれるのが、救いになった。もう私は傷つくだけの、少女じゃない。
あの子は幸運と偶然を手に入れたから、私にも手に入れるべき何かがあるはず。





「藤真。」
休憩所で藤真と2人っきりになった。
気づいたら声をかけたのが、自分でも凄く意外だった。普通ならこんな事しないのに、俺はアキちゃんと付き合って少し変わったのかもしれない。

「おう。」先ほどの練習試合の影響か、少しばかり構えた返事をされた。

「藤真が最近、気にかけてる相手いるだろ。」
目線を合わせず、ロッカーを見ながら言う。
なんだろう。急に言いたくなった。
幼稚な感情も、持ち合わせていたけどそれを超えた何かがあった。

「え?」これだけじゃ伝わらないか。と気づいて何て伝えようか迷う。昔ミサキが、これは恋愛じゃなくて、片思いだと言っていたのを思い出した。

「なんていうか、俺は山王の時から片思いしてたぴょん。」
藤真が口を開けて信じられないと言う顔をしたので話しずらくなる。

「でも俺も相手も離れ離れになって、会えなくなって再会したらやっと気持ち通じたっていうか。」

こんな話、した事ないからどうしたらいいかわからない。さりげなく関わりが深いアピールも含んでしまって、言った後から恥ずかしくなる。

「だから…実は俺…」
凄く言いにくそうな俺を、藤真がじっと見つめるとハッとした顔をして立ち上がる。

「いいよ。深津。」
急に言葉を止められて、藤真の方を向いた。

「それ以上は………言わなくていいよ。」
なぜか、藤真が辛そうな顔をしていた。

「俺も大人げなかった。深津が、あいつを好きな気持ちはよく伝わった。」
握り拳を口にあてたあと、顔を上げて何か聞きたそうにする。

「…付き合ってるってことか?」
「…そう、だな。」苦手だ。こんな話は。
でも付き合ってる。そう言われてこんな状況なのに浮かれてる自分がいる。
どこかで誰かに言いふらしたい位、付き合ってる事が嬉しい。

藤真がそう言ったのを聞いてもっと難しい顔をした。
「そうなのか………だから、ずっと悩んでたのか……複雑だな、凄く。」

急に深く考え込む藤真を見て、少し首を傾げた。
複雑?でもないぴょん。

「教えてくれてありがとう。」
違和感を感じたけど、藤真がまっすぐな笑顔で眉毛を下げながら言ったので「ああ。」と答えるしかなかった。
立ち去る藤真を見て、本当に通じたのかな?と不思議に思った。

「恋愛って、難しいぴょん…。」
こういう事を自分が言う日が来るなんて思わなかった。そう思って肩をおろした。


「…そうか。深津と沢北は付き合ってる、のか…。だから佐藤はあんなに悩んでたんだ。沢北と佐藤、仲は良さそうだったしな…。」
藤真が練習中にイチャイチャしてる2人を思いかえす。心臓をドキドキさせながら、足早にその場を去った。

「俺の悩みなんて、小さいのかもな。」そう呟いて足を緩めた。




夜の風が心地いい。
夏の日は、夜が来るとなんだか切ない。
冬とは違う気持ちの切なさだった。

とぼとぼ歩く足取りが重い。
さっき諸星さんが言った言葉を頭の中で繰り返すけどいまいち理解ができなくて、私が今わかるのは自分がデザインした靴が出回らないって事。

「まぁ、全日本選手が履くバッシュのデザインをしたって事が言えなくなっただけで、ミレイちゃんのデザインがダメとかそういう評価じゃないよ。」
そう言った諸星さんが、大した事ないよ。って思えるように気配りをしてくれたのが伝わってきて情けなくなる。
なぜなら、諸星さんが奮闘してくれていた事を知っていたから。

ダブルスポンサー契約とか、東京のプロチームは元からチームでミサキさんのメーカーと契約していた事が、改めて個人契約を自社が結ぶ事が問題定義されたとかなんとか。

私には難しい話だった。

いつもの帰り道を歩いていると、聞き慣れた通知音が鳴る。
足を止めて携帯を見る
「…聡だ。」

『今から会える?ここに来て😌』
LINEに表示された文字を見て、心が少し明るくなる。

行った事はないけど、送られてきた場所は会社の近くだった。
いつも一之倉は助けてほしい時に現れる。
少し足早に足を動かすと、オフィス街を抜けてひらけた場所になっていく。

道の角を曲がると、フェンスに囲まれたバスケットコートが見えた。

「あ…。」思わず声が漏れた。

一之倉がバスケットボールをドリブルしながら、華麗にシュートをしていた。

飛んで行ったボールがゴールに吸い込まれている。
すごい羽が生えたみたいだ。浮いてるみたいにプレイする姿に見惚れる。
少しずつコートのフェンスに近づく。
一之倉は私がデザインしたバッシュを履いていた。

コートの隣を通る学生の子達が一之倉に視線を向ける。
「すっげぇ。上手いな。」
「うん。しかも、あのバッシュなんだろうな。」
「かっこいい。」

そんな声が聞こえてきて、なんだか泣きそうになる。

フェンスに手をかけると、私に気づいた一之倉が弾けるように笑いながら近づいてきた。

フェンスにかけた手をコート側から握り返す。
おでこをつけると、一之倉もフェンス越しに顔をつける。
急に顔を離して私を見下ろした。
「かっこいいでしょ?この靴。」
そう言って、眉毛を動かしながらしたり顔をする。
「ふふっ」堪えきれなくて少し笑った。
「俺の、彼女がデザインしてるんだ。」
「聡…。」
一之倉はなんでも、お見通しなんだよね。
どうして一之倉がその靴を持っているのか不思議に思ったけど、ふざけた語尾の人が頭に浮かんだ。

「私、ほんとこの仕事しててよかった。大好きな人に履いてもらえたから。」
一之倉の一部になれたような気がした。
少し泣きそうになりながら笑いかけると、一之倉が顔をくしゃくしゃにして笑った。




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