60. スラムダンク創作山王でわちゃわちゃする話(深津一成•沢北栄治•一之倉聡•藤真健司)

  • 主人公 佐藤アキちゃん、山王工高出身、大手雑誌編集部で働いている。

  • 沢北:アキの幼なじみ 山王工高出身 アメリカ在住

  • 深津:東京のプロチーム所属 沢北の先輩 山王工高出身

  • リョーコ:深津の幼馴染 東京プロチームのマネージャー

  • 水原さん:アキの上司、大手雑誌編集部で働いている。

  • 仙道: 東京のプロチーム所属

  • 一之倉:実業団に所属。コーチを目指して勉強中

  • ミレイ: 外資系アパレル企業に働く一之倉の彼女

  • 諸星:ミレイの上司 

  • ミサキ: 深津一之倉松本と大学の同級生 多国籍企業のシューズディレクター


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※成人指定※

※直接的な表現ありなので、苦手な人はご遠慮ください


完全自己満、結構大人な内容ですので苦手な方はご遠慮ください。あまりバスケに触れず健全な男女として書いてます。誤字脱字あり。すみません。前回の続きです。


※本作はファンアートです。原作とは一切関係ありません。

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「大学卒業したらどうすんの?」
いつも通りのなんて事ない会話。

「メーカーの開発部に入って、私が作った物じゃないとダメだ。って誰かに言わせたいな〜。」

切れ長の目を見つめた。

「一之倉に私が開発した靴とか履いて欲しいな。」それを聞いて片眉を上げる。

「もっと、目標高く持ってよ。」そう言ってハハッと笑った。

「ミサキならもっと凄い選手に履かせられるよ。」
さりげなく言う一言が私を励ます。

この、絶妙な距離感が好きだった。
何かが始まりそうなのに、すごく冷静だった。まるで静かな朝の海みたいに。

私たちに、よく静寂は似合っていた。

このさりげない日常が関係性を深めていくものだと思っていた。
きっと一之倉も、それを望んでいるんだと思い込んでいたから。

安心感があって一緒にいると喜びがあって、私にはこの人が1番合ってる。
大学の飲み会では、いつも隣にいた。

帰りは最寄り駅から家まで送ってくれた。

顔を見れば2人で一緒に過ごしたし、何か進展するわけじゃなかったけど
勝手に私たちは似た物同志だと思ってたんだ。

だけど、私は思い違いをしてたんだよね。
今ならわかるよ。

一之倉は、安心感より
理性と本能が真っ向から対立するような人を求めていたんだって。

一気に天秤が傾くように、わき目をふらずに他の女の子を追いかける
後ろ姿を見つめて、ああ、やっぱりそうなのか。と腑に落ちた。

わかってはいたくせに、改めてもう私に気持ちがないことを思い知ったんだよ。

「そういう訳でふられたのよ私は」

四ツ谷にあるこじんまりとしたバーで、
葉巻の先をカットしてもらう様子をカウンターから眺める。

店主が個人で葉巻を作ってるらしく、もの珍しくて2人で吸ってみたくなった。

「付き合うと思ってたけどなぁ。」やけに棒読みな松本が、何かを知ってるくせにとぼけた様子なのが憎らしくなる。
先にゆっくりと葉巻に火をつけて口に咥える様子を見つめる。

「松本、それ違うよ。」
貸して。と言って慣れない様子で葉巻を持つ松本から取り返して、口に含むと煙を燻らせる。

「俺、葉巻吸ったことない。」目を真ん丸くさせて、興味深そうに私の慣れた手つきを見た。
「タバコじゃないから、灰も落とさなくていいよ。自然に任せて。」
「へぇ。いい匂いするんだな。って…」

何かに気づいたように私を見るから、なんだろう。と煙をふかしながら見つめ返す。

「お前、それ間接キスになるだろ。」
なんだ。松本ってそんな事気にするタイプか。
ふざけて恥ずかしそうに言う松本を見て可笑しくなって
我慢できずに吹き出す。

「…別に松本と間接キスしたところで…。」お腹を押さえながらそう言って
笑いながら目を細めると「それもそうだ。」と松本がつられて笑った。
私の分のシガーを手渡されるから、吸っていた方を松本に返す。

「独り身も減ったなぁ。」
松本が私の真似をしながら煙を吐いて、寂しいことを呟く。
そういえば松本、彼女がいないんだっけ。

「松本って、顔はいいのにね。」
「中身もいいぞ。」そう言ってワイシャツの襟をまくる。
葉巻を咥えてスーツ姿の松本はすごく二枚目に見えて、すぐ女性から声がかけられそうだった。

目線を顔から手元に移すと、注文したのはフローズンスタイルのカクテルで、レモンと傘が入ってる。
なんていうか、海辺でギャルが飲んでるみたいなやつだった。

「ミサキに合う男って、どんな奴なんだろうな〜。俺からしたら、一之倉は普通すぎるよ。」

普通すぎる?か。
多分、私といたら周りにそう思われる事も、嫌だったんだろうな。
松本の言葉を聞いて考え込んだ。

「一之倉は全然普通じゃないよ。」
「そうかぁ?なんか、エリートが似合うよミサキには。」

私は一之倉がよかった。
肩書も何もいらないから、あのくしゃくしゃにして笑う彼が欲しかった。

一之倉に出会ってから、他に欲しいものなんてないよ。

私は、派手な恋愛ドラマみたいな恋なんてしなくていい。
ただ一之倉と笑い合っていたかったんだ。
考え込んでいるとふと、疑問に思った。

「松本って片思いとかした事ないの?」
「…片思い?ふられた事はたくさんあるけど。」
「そっか。松本って結構ちゃらいもんね。」

ふられたってサラッと過去のことのように言える松本が、今は羨ましかった。
多分、その場のノリみたいな告白なんだろうな。
振られたら、ああ、ダメだったか。その位の気持ち。

私は心がボロボロだったから、なんてことない様子の松本と全然違う。

「恋愛なんて、そんなもんだろ。高校生でもあるまいし。」
そう言ってカクテルを飲む。

「…松本ってなんもわかってないよ。」
「何をだよ。」カクテルのグラスを置いて笑った。

「誰かに夢中になる事。」綺麗な色のミモザをハイペースで飲む私を見て、松本が何か滑稽なものを見る目で見つめた。

「俺は、そんな風になりたくないよ。今のミサキ見てたら余計そう思うわ。」
「どんな風?」
「お前、頭いいし何でも手に入りそうだから。そんな捨てられた猫みたいな感じになる時もあるんだなって。」

少し心配もしているのは伝わるけどストレートに無慈悲だった。

「松本も、いつかこうなるんだよ。」
「酔っ払いだな。」
「覚悟しなよ。」
「わかったよ。ミサキ、元気出せよ。」

2人でふかした煙はアロマな匂いがして、すごく落ち着いた。確かに、こんな煙たいバーは一之倉に似合わない。
もっとキラキラしてて、洗練されたお洒落な場所が好きなはずだから。

あの子と行く姿が目に浮かんだ。すごくお似合いだった。
何をしてても考えてしまう。まるで前頭葉が機能しなくなったみたいだ。

「ミモザってさ、贅沢なオレンジジュースだよね。」そう言って全部飲み干す。
シャンパンって最初はいいんだけど、段々重たくなってきて本当に一杯でいいんだよね。そう思った。

私の様子を煙をふかしながら心配そうに松本が見つめる。

「ねぇ、松本。私、意地悪しちゃったんだよね。」
「…。」松本が葉巻を言われた通り灰皿に置いて、灰が落ちるのをただ見守る。

「一之倉の好きな子が全部手に入れてるの、どうしても許せなかったんだよね。」

肘をついて私の横顔を見つめて、また葉巻に意識を移していた。

「最低だよね。」
「お前は最低じゃないよ。」
ハッキリそう言われて、松本の方を見る。

「ただ、傷ついただけだ。」

珍しく気が利くことを言われて、少し泣きそうになった。
松本はそれから黙って、ただ煙をふかした。

花咲カットをされたマンゴーのフルーツ盛りが出てきて手を伸ばす。
「あの、バーテンさん。」
すかさず松本の顔を勢いよく見る。

「その呼び方失礼だから。名前で呼んで。」そう言って名札に書いてある苗字を耳打ちする。
「そうなのか?」あたふたする松本を見てふふッと笑った。

なんだか元気が出た。楽しかった大学生活を思い出したから。
あの時の時間は無くならない。

胸がいっぱいになる。笑ってる一之倉を思うとまたいつか話したいな。そう思った。
何年後でもいいよ。来世でもいい。

松本が私の顔を見て煙を吐くから、私も煙を松本に吐いた。子供みたいに悪戯っぽく笑う。そのまま酔った勢いでシガーをふかしながら中指を立てる。それを見た松本がケラケラ笑いながら私に中指を立てた。

何歳になっても、私たちはやっぱり中身は子供のままだ。
「松本、ありがとう。」

最初は笑っていた事をちゃんと覚えてる。
気づいたら夜が遅くなっていて、
私が知らない間に呼んだタクシーに乗せられた後、
車内で栓が切れたように大泣きした。

私の横に乗っている松本が
誰かに電話してるのが目に入ったけど、そんなの気にならない位
泣きじゃくっていた。

聞かれてもいないのに私は「大丈夫。」と言いづけて
最寄りの駅で降りたい。と言ったから、
松本が電話をしながら運転手さんに伝えてくれた。

目的地の駅まで同乗した後に、自然と私を降ろした。

泣き腫らして目がかすれていると、
見慣れた最寄りの駅の前で、大好きな人の姿が見えた。

夢でも見てるのかな。

そう思って、おぼつかない足取りで近くまで歩く。
波巻きのパーマが風に揺れてる。
すらっとした姿で私を見つめてる。
それだけで、凄く嬉しくなる。
目を丸くして近づいた。

目の前に立つ一之倉を、しばらく見つめて
肩に手を伸ばした。

そっと指先で触れて、一之倉の男らしい体つきに驚く。

一之倉に初めて触った。

ずっと触りたいとおもってたよ。
ずっとずっと。

指先から高揚する気持ちを感じながら、心は絶望してた。

一之倉はそんな私をじっと見つめていて、
同情する訳でもなく、ただ私を受け止めてる。

なんて、残酷な夏なんだろう。
目の前に一之倉がいるから。

「飲みすぎた?」大好きな低い声が聞こえる。

もう手に入らないのに、こんな風に再会するなんて。
私の世界は壊れて、もう元に戻らないよ。

「…こんな事言っていいのかな……………」
鼻をすすりながら、言葉が出た。

一之倉に触れたまま夜風に体を震わせた。
足は相変わらずおぼつかない。
誰もいない駅のロータリーに停められたSUVの車の前に、たたずむ一之倉を見つめた。

「愛してる。」

なぜか顔を見たら言葉が出て、今まで自分が言った言葉の中で一番最低だと感じた。
幼稚で、全然理性的じゃない。言葉にすると酔いがさらにまわって、気分が悪くなった。

「ありがとう。」
一之倉が、いつもの低い声で悲しそうに言うと、くしゃっと大好きな顔で笑うから、涙が止まらなくなる。

「ミサキを、大事にできなくてごめん。」
そう言われて、辛すぎて目を閉じた。

「…この関係を壊したくなかったのに」
多分、自分に言っていたんだと思う。
愛してるなんて、言わなければ
傷ついた姿なんて見せなければ
自然に友達に戻れたかもしれない。

「なんでっ…私たちダメになっちゃったの。」
肩に添えた手を拳に変えて押し付ける。
支離滅裂な頭が、お酒のせいなのかわからなかった。とにかく悲しくてどうしようもなかった。
「ミサキのせいじゃないよ。」
一之倉は取り乱す私をあやすように寄り添って、昔みたいに何も言わずに一緒に歩きだした。ただ横で泣いてる私に歩幅を合わせて。

「…一之倉のせいでもないよ。」

そう言って瞼を閉じた。


昔はこの道を2人で笑いながら歩いたのに、そう思って家の前まで私は子供みたいに泣いていた。

会いにきてくれた事が嬉しかった。

この時間が終わるのが、とにかく寂しくてたまらなかった。
私はずっと、一之倉と一緒にいたかったから。

「私って大人になったのかも。」

夜中のちょっといいファミレスで、パフェにスプーンをさしたまま呟いた。
なんだか高そうな所に連れていかれそうだったから、会社の近くのファミレスを指差した。
実はずっとここのパフェが食べたかった。

「だって、彼氏が」
そう言いかけて、思い出して言葉に詰まる。

「前の女に最後に会ってくるって言われても行ってきなって言えたんだよ?!」
ピーカンナッツが贅沢にちりばめてある、熱々のチョコレートをかけて食べる
ホットファッジサンデーが美味しくて、言葉は続けてもスプーンを動かす手が止まらない。

「それで、心配で眠れなくて仕事しようとしてたんでしょ。」
「…。」

家に帰ってから一之倉から電話が来て
ミサキさんに会いに行く。そう言われたから
いてもたってもいられず、会社に来たら
施錠していた諸星さんに捕まった。

相当ひどい顔をしていたらしくて、
「…パフェとか食べる?」と声をかけられた。

「…私、諸星さんとこんな事してていいのかな…。」
「別にいいんじゃない。浮気じゃないし。」
呆れたように諸星さんはパフェを頬張っていた。

「でも、私そういう…ちゃんと誠実に対応しようとする彼氏も、好きなんですよ。」
「はいはい。ご馳走様です。」
諸星さんは興味なさそうに話を聞くけど、口出しはしない。

「ちゃんと、ミサキさんと話してなかったから、話したい。って。言ってた…。」
言われた言葉を口にだしていたら、胸が苦しくなってきた。

「嫌だなって思うのは、当たり前だよ。」
目線を伏せたまま、諸星さんが私を正当化する。

「でも前の女さんは、今日でミレイちゃんの彼氏と会えるの最後かもしれないしね。」
諸星さんが、絶妙な立ち位置で話すから私は何も言えなくなる。

「……みんな幸せになるのって無理ですよね。」
「無理だね。」
窓の外を見て呟く私に、諸星さんが淡々と答える。

「だから、自分が選んだ相手に一生懸命になるしかないんじゃない?」
「…そうですね。」

私は顔を上げて、諸星さんを見つめる。
急に申し訳なくなってくる。

「ごめんなさい…付き合わせて」
「いや、俺パフェ食べたかったんよね。」
そう言ってパフェのメニュー表を指差す。

「…私もこれ、食べたいと思ってました。」
なぜか恥ずかしくなってメニューを指差す。
「あ、ほんとに?嬉しい。」
諸星さんが急に笑顔になるから少し驚く。
しばらく無言でパフェを頬張った。

「あんまり会えてないの?」興味はなさそうに、でも気にかけてる様子で聞かれる。

「あ…そうですね。急に会いにきてくれたりしますけどね。」
「前の女に会いに行って少しは嫌いになった?」
パフェを頬張りながら、顔を覗き込まれる。

「え?嫌いに…ならないですよ。」
少し怯んでもぐもぐしながら肩を傾ける。

「なーんだ。おもんない。」
諸星さんが、そう言いながらパフェの容器を私に近づける。

「アイス、あげる。」
「あ、え?ありがとうございます。」
新しいスプーンですくわれたチョコアイスを渡されて、受け取って食べた。

「少し位、嫌いになったらいいのに。」
そう言う諸星さんを、不思議そうに私が見る。

「そしたら、ミレイちゃんとこうやってパフェ食べれるでしょ。いつでも。」
言われた言葉の意味がわからなくて
とりあえず笑いながら首を傾げた。

「いつも食べたいって言ってる韓国チキンとか、なんでも、いつでも一緒に食べれるのに。」
私があからさまに固まっているから、諸星さんが急にふっと笑う。

「構えすぎ。」
そう言われて「はぁ…。」言葉にならない声を出した。

「ミレイちゃんがやりたい事、目の前に一緒にできる都合のいい男がいるって事だよ。」
いつもの飄々とした顔で悪戯っぽく笑うから、顔を見てははっと笑った。

「…慰めてくれてありがとうございます。」
「慰めてるっていうか、口説いてるっていうか。」諸星さんが小さい声でつぶやくから、ん?と顔を傾ける。

「とりあえず、大丈夫だよ。」
そう言ってメニュー表を広げた。
「何でも頼みたまえ。」
スプーンを咥えて言うから「やったー」と手を上げて笑った。

家に1人でいたら泣いていたかもしれない。
諸星さんに感謝した。

「次が、中国、タイと国際強化試合やって4日間の韓国遠征して...来月から日本でニュージーランドと強化試合で…」

手渡された工程表を見ながら沢北が読みあげる。
ホテルの中で荷造りしながら、さも日常的なスケジュールのように言うから思わず顔を見た。

「次が、ワールドカップぴょん。」
そう言葉に出して、ホテルの椅子から立ち上がる。
自然とパッキングを手伝った。
沢北が、アメリカに旅立つ前にやってあげたみたいに。
その様子を少し見つめた後、一緒に荷物を詰める。
部屋に来たのは、沢北が荷造りが苦手だから心配して見に来た。

「俺たち、代表になっちゃいましたね。」
トレーニングウェアを鞄に詰め込んで、雨降ってきちゃいましたね。
みたいなトーンで言うから思わず笑った。

不思議そうに沢北が顔を上げる。
「お前って、何にも変わってないぴょん。」
綺麗に詰め込まれた荷物を見て、立ち上がった。

「あ、深津さん」
沢北の部屋から出ていこうとすると声をかけられた。

「アキに言いたくてウズウズしてるんですけど、深津さんが言ってからにしますよ。」
そう言って笑顔になるから、心の中で大人になったぴょん。と呟いた。

途端にノックされたので、ドアの近くにいた自分がドアを開ける。
きょとんと自分を顔を見つめる藤真がいた。

「あ…。悪い。邪魔した、か?」
少し動揺したように言われる。

「いや、別に…?沢北ならいるぴょん。」
そう言ってドアを広く開けて、後ろで荷造りしてる沢北を指差す。

「おめでとう。一緒に候補生として練習できてよかったよ。そう伝えたくて。」

まっすぐな目を見てそう言われて拍子抜けした。
藤真は竹を割ったような男なんだな。と思った。

「あ、あと。」なぜかこれから言う事は言いづらそうにする。

「佐藤の事よろしく。」
そう清々しい声で沢北を見て言った。

「色々あると思うけど、泣かせないでくれよ。」
沢北がきょとんとする。

「……わかったぴょん。」

自分の横から返答が聞こえたのが、不思議そうに俺の顔を見た。

なぜ、藤真が沢北に言ったのかはわからないけど藤真の言葉が心に響いた。

沢北も不思議そうに俺の顔を見た。

その時、藤真の表情があまりにも真剣すぎて、うなづくしかできなかった。

幼稚な感情より藤真がアキちゃんを大切に思う気持ちが伝わってきて気圧された。

取材が今日で終わったので私は出遅れながらキャリーに荷物を詰めていた。
代表選抜結果が気になってるのか、うまく荷作りができなかった。
何を言われても喜んでくれる言葉を選びたい。
何回も頭の中でシュミレーションをしていたら手が止まっていた。

そうこうしてるとチェックアウトの時間になりそうで「やばいっ」1人で慌てて部屋を出る。

長い廊下をキャリーでひいていると、少し小走りでこちらに向かってくる男性が見えた。
キャリーを引く手を少し緩める。

人目がいない事を確認した後、少し控えめに両手を広げた。
その人は小走りする足を緩めた後、私の動作を見て少し止まった。
その後また足をはやめて大きな両手で私を包みこんだ。

「あっ、こんな抱きしめてくれると、思わなかった。」大きな胸の中で身動きがとれなくなる。
ふふッと笑った後私を解放する。

「アキちゃん、大胆だぴょん。」

深津先輩がだよ…。
髪の毛を整えながら周りを確認する。
2人で会ってる時の優しい顔をしてる。
機嫌がいい気がする。
そう思うと、心の中で最高の展開を期待してしまう。

眉毛が下がって後ろに手を組んで私を目に焼き付けるように見つめた。
「ん?」少し顔を赤らめて、私も顔を見つめ返す。

「アキちゃん、喜んでくれるかな。」
「…なに?」
何か大事なことを言う前の顔をしてた。でも、子供みたいに早く言いたいって感じで、口元はウズウズしてる。

深津先輩ってドラマとかもすぐネタバレ言っちゃうタイプなんだよね。

「俺、日本代表になったぴょん。褒めてほしいぴょん。」
「えっ!おめでとう!」
私がキャリーから手を離して、両手で口を覆う。飛び跳ねたい気持ちを堪えきれずに少しジタバタする。結局シュミレーションは役に立たず素のリアクションがでちゃった。本当は声を大きくして叫びたい。深津先輩ってすごいって!

その様子を終始ニコニコして眺めている。
やっと歩き出して、2人で自然と歩幅を合わせた。

「…アキちゃん、数年分の言い訳していいぴょん?」
「ん?なに?」まだジタバタする私を前に、真面目な顔をする。

「アキちゃんと付き合うのを我慢して、ずっとバスケする事を選んだ理由を考えてたぴょん。」
深津先輩が少し遠い目をしてから、私をなんとも言えない顔で見つめる。

「多分、日本代表になるためだったんだと思うぴょん。……うん。ここでなれなかったらダサい。」
私がなんて言うか迷う。

「っていう、言い訳みたいな事、だけど…。なんか、言いたくて。」
「…そっか。」

私が口をきゅっと結んで、言葉を探す。

「うん。これで、よかったんだと思う。
今、一緒にいれてるし。」
自分にも心からそう言える気がした。

「アキちゃん、俺を待っててくれてありがとう。」
なぜかお礼を言う深津先輩の方を見れずに、歩きながら心にぐっとくる何かがある。

「純粋に待ててたかは…自信ないけど…。うん。待ってたよ。」
「いいぴょん。」珍しく確信があるように深津先輩が言葉を被せる。

「今、アキちゃんと一緒に歩いてるから。」
「そう、だね。」
急に幸せな気持ちになって前を向きながらそう言う深津先輩を見つめた。
急に目があってドキッとする。
深津先輩が急に足を止めて、顔を屈めて横に並ぶ私にチュッとキスをした。
「わっ。」
不意打ちにびくっとする。
キスされたと気づいたらカーッと顔が赤くなった。
「え…すごい恥ずかしいなんか。」
「…真っ赤ぴょん。」
そう言って目を細めてふふっと鼻で笑うと、前を向きながら頭をポンポンする。硬直した私からキャリーケースを奪って、自然にひいていった。
「俺…なんかこの合宿でちょっと変わった気がするぴょん。」
「そうなの?」
ポンポンされた私が自分の頭に手を添えながら、その後を追いかける。

廊下の曲がり角で、思ってもいない物を目撃する。
ただ、佐藤にさよならを言いたかった。
けど深津とキスする佐藤を見かけて、声をかけずに壁にもたれかかった。

「なんだよ。もっと複雑だな。」

佐藤と深津が、隣同士並んで歩く姿を見送る。

ふたりの背中を見てると、向かい側から沢北が歩いてきて自然と合流すると仲良く話しだして、そのまま3人で歩いて行った。

3人の背中が見えなくなる頃にやっと歩き出す。

やっぱり、俺達のタイミングは大学の時だったんだよな。

今あの2人と歩いていく姿を見て、あの当時に自分が踏み出していたら、佐藤は深津と沢北と笑い合えてなかった。

それなら、これでよかったのかもしれない。
そう思った。本心だった。佐藤があまりにも幸せそうに見えたから。

「藤真。」
後ろから声をかけられて振り向くと、大きな体が目に入る。

「牧。おめでとう。気合いいれてけよ。」
にこっと口角を上げた。
牧が手を上げて返事をして、その後俺の肩に手を乗せる。
「こたえたよ。今回の合宿は。」
そう言って遠くを見る。
「…俺も。」
同じ方向を見た。

「でも、今だったな。」急にぽつりと牧が言葉を聞いてしっくりくる。
「そうだな。俺も今だった。」
同じ声のトーンで答えるから、牧は少し不思議そうに自分を見るけど、その視線を無視して口角を上げた。

フェンスに手をかけて、よろけた体を支える。私は一之倉の襟元に顔をつけて服を掴んだ。
急に密着して大好きな匂いがして、強がっていた気持ちが揺れる。

家に帰ってくると、アパートの前に一之倉が車を停めて待っていて思わず携帯の時間を見た。
いつもより残業をして帰ってきたから遅くなっちゃった。いつから待ってたんだろう。っていう罪悪感と、
一之倉があの人と昨日一緒にいた。っていう嫉妬する感情が入り混じって忙しい。
連絡が来てたけど、なんとなく返せてなかった。

すれ違う時に上手く言葉をかけられずに、暗闇で足がもつれた。

「あぶね。」

そのまま一之倉が背中に手を回す。
はぐらかされたくなくて、拒みたくなる。
私は服を掴んだまま、ぎこちない時間の中で言葉を探した。

やっと、ゆっくり顔を離して「おやすみ」と言う。

せっかく行ってきなよ。って言えたのに、余計な事を言って格好つけられなくなるのが怖かった。心臓はドキドキしたまま。

私の腕を掴んで、通り過ぎようとするのを止められる。
「ねぇ、ミレイ。」

そう、呼ばれて今日初めて顔を見ると、一之倉は泣き疲れた子供のようだった。
泣いていた訳じゃないけど、酷く気圧されたみたいに弱ってた。
思わず、居た堪れない気持ちになる。

「今日は、俺たち一緒にいない?」
少し自信がなさそうに言う。
その顔を見て、私まで自信がなくなってくる。
「いやだ?」
「…。」私は今までした事がない、矛盾する悪態をついてる。

「ごめんね。嫌だったよね。」
何も言わない私にそう続けて、心がギュッとなる。

「…ふたりで、会う必要あったのかな。」
口を開くと取り繕えなくなる。
行ってきていいよ。って言えたのに、今矛盾しててこんな自分が嫌になる。

「ごめんなさい。」
そんな風に子供みたいに謝る一之倉が意外だった。
初めて目を合わせる。

「……今日、私一之倉に冷たくしちゃうと思う。」
「それでもいいよ。」
真っ直ぐ見つめられて、私の言葉を待ってる。その姿に気圧される。

「俺、ミレイの事好き。」
「え…。」切れ長の目で見つめながら、急に好きって言われて動揺した。

そう思っていると、アパートから人が出てきて目線が合うと、ジロジロ見られた。

「ミレイの事、大好きだから今日一緒にいたい。」
「なっ、聞こえるよ。」恥ずかしくて小さい声で制した。

一之倉の顔を見て、口をきゅっと結ぶ。

私は、何も言わずに一之倉の手を引いて部屋に入った。

パタンと玄関のドアが閉じて顔を覗くと、少し安心したような表情をしていて
何て言ったらいいかわからずに、目をそらした。
電気に手を伸ばしてる時に後ろから抱きしめられる。

「ごめんね。」
動揺してる様子はないのに、少しどうしたらいいかわからない感じで、でも言葉は真っ直ぐだった。
居た堪れなくなって、振り向いて顔を見る。
目が合うと、黒目が揺れた。

「キスしていい?」
「…だめ。」
一瞬口元が緩んだけど、断っちゃった…。
多分キスされたら、いつものように一之倉にめちゃくちゃにされて許してしまいそうだったから。

「わかった。我慢する。」
少しシュンとして、私の顔を両手で撫でた後、
私の後を黙ってついてくる姿が可愛かった。

「深津さん、俺ずっとアキと会えなくなるんでキスしていいですか?」
「は?」
「ダメに決まってるぴょん。」

沢北がトレーニングセンターから呼んだワゴンタクシーに乗り込んで都内に向かう。
広めの車内でなぜか深津先輩と沢北に挟まれて、2人の顔を交互に見る。

沢北が口を尖らして足を広げるとカーテンが閉まった窓を見た後に、目線をちらっと向けて
物悲しく私を見る。

急にそんな事言われて顔を赤くしてる私の横から、
体を前屈みにして顔を出して沢北を、じーっと見つめる深津先輩。
おもちゃを取り上げられた子犬みたいな沢北が深津先輩を見つめ返す。

深津先輩が急に私の顔を掴んで、深津先輩の方を見つめさせると、
沢北を見ながら私の唇に噛み付く。

「んっ」
ビクッとする私の反応を見た後、唇に吸い付いた。
舌が入ってきて、どうしたらいいかわからなくて固まっていると
深津先輩が片手で私の後頭部を掴む。
頭を押されて、もっと深くキスされた。

「うっわー…意地悪いとこでてますよ…。」

後ろから沢北の声が聞こえて、恥ずかしくてたまらなくなる。
そうこうしてると、沢北が私の肩を掴んで思いっきり後ろに引き寄せた。

沢北の肩にもたれるように倒れると、沢北が深津先輩の顎を掴んで、キスする。
それを見てギョッとする私をちらっと見て意地悪く笑った。
沢北が深津先輩の唇を思いっきり吸った後、
舌をいれようとした途端に、頭をおもいっきり引っ叩かれた。
ガンッ
叩かれた拍子でよろけながら、私を後ろから抱きしめてゲラゲラ笑う沢北。

「いったーー!アキにするのダメだったら間接キスするしかないじゃないですか!」
「もう、これは間接キスじゃないぴょん。」

ぷんぷんしてる深津先輩を見て、沢北が泣きながら笑うから
私は頭がこんがらがる。
なんなんだろうこの2人。そう思って顔が熱くなった。

「アキちゃんは俺のだぴょん。」
「アキだってたまには俺とキスしたいよね?」そう言ってまた頭を叩かれてた。
2人が私の両手を手にとって目的地につくまで手を繋ぐから、
私たちは高校の夏祭りから何も変わってないなと感じた。

「あ、花火の音。」
言い争う声を止めて私の顔を見る。
「ほら?聞こえない?」
「どこだろうな。」
そう言って沢北がカーテンを捲ると、ちょうど車は渋滞待ちの中停車していて窓の外から花火が見えた。

「すげー!綺麗」
沢北が花火に夢中になる。

私も沢北の後ろから身を乗り出して見つめてると、深津先輩が私の顔に手を回して唇を合わせる。

車内からでも聞こえる花火の音の中、静かに角度を変えて
キスしながらドキドキが止まらなくなって、目の前の深津先輩に見惚れる。
高校生の夏祭りの時と一緒だった。
目の前の世界が止まる。

私たちだけに用意された特等席みたいだ。
どうして世界はこんなに私にとって都合が良いんだろう。
そう思える位胸がいっぱいになった

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