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新聞部のくすぐり尋問に敗北寸前な秀才少女の話

前回のお話:


【前回までのあらすじ】

私、箕咲まりなは私立笑来学園の1年生。

理科教師の佐橋花先生にはめられて、科学部の和泉恭平先輩を私の手でくすぐるという異常な状況に陥ってしまった。

その行為中の写真を新聞部の女子生徒に撮影されてしまった私たち。

拘束されて機械にくすぐられ続ける和泉先輩を理科準備室に残し、私はスキャンダル記事が出回ることを阻止すべく、一人で新聞部の部室を訪れていてた。


【第四話】

1

「私たちの部室では、誰も、嘘をつくことができないのよ」

そう言ってにっこりと微笑む新聞部部長の藤田真希先輩。少し後ろには妹の藤田美希先輩が立っている。私の恥ずかしい写真を撮った張本人だ。

スラっとしたモデル体型の美人姉妹は体格や顔立ちが瓜二つで、お嬢様然とした縦ロールが姉、活発そうなポニーテールが妹と、辛うじて髪型で見分けることができた。

「まりなさん、取材はこちらでさせていただくわ」

私は新聞部姉妹の二人に半ば引きずられるように部室の奥まで連れられて、なんだか高級そうな椅子に座らされてしまう。

「ひゃあ!」

私が座ると同時に、姉の真希先輩が背後から突然私の両耳を弄ってきた。

「……ちょっと…ひ、ひぅ……ふぁあ……ゃだ」

「あら敏感なのね。今日は楽しくなりそう♡」

「もう、お姉様ったらいきなり。まあ、これでまたひとつ裏は取れました」

「……裏が、取れた?」

「あら、あなた本当に気づいてなかったのね」

私が疑問を口にすると、美希先輩は「やれやれ」といった様子で持っていたスマホのボイスメモアプリを開き、再生ボタンを押した。

そこから流れてきたのは――


『あああひぃぃぃぃあひぃぃぃぃ!!』

情けない喘ぎ声。

しかしこの声には聞き覚えがある……和泉先輩の声だ。ということは……!

『私、耳とっても弱いんですよ。あ、聞こえてないか』

続けて聞こえてきたのは、やはり私自身の声。

『上半身はだいたい分かってきました。それじゃ次は……』

『ちょ、何考えて』

『ふふふ、じゃあまずは太ももから……』


紛れもなく、ついさっき理科準備室で交わされた和泉先輩と私のやり取りだった。

あまりに無邪気で楽しそうな自分の声に、私は絶句する。


「耳がとっても弱い。情報の裏取りはこれでバッチリね」


2

最悪だ。

写真だけなら、仮に流出してもなんとかごまかす余地があったかも知れない。しかし今の録音がセットで流されてしまった暁には、いよいよ弁明のしようがなくなる。

「さて、まりなさんに自分の立場をしっかり理解してもらったところで、お話というのを伺おうかしら?」

「あ、あの! 今回のことには深い事情があって……」

「どんな事情があったにせよ、理科準備室で男女の不適切な交友が行われた事実は変わらないわ」

「ふ、不適切って、私たちは別に……」

「密室で、女子生徒が、パイプ椅子に男子生徒を拘束して身体を撫で回していたわけだけど、これが”適切”と言える?」

「た、たしかにそうですけど……私たちは嵌められて」

「まりなさん、言っておくけど、私たちはあなたを説教する気なんて微塵もないの。風紀委員じゃなくて、新聞部なのよ」

「大事なことは、こういう事実があったことと、この事実が学園の生徒たちの興味を引くということ、この2点だけですわ。言っている意味が分かるかしら?」

「……わかります。それなら、それなら……」

私は熱くなるのを抑えて、自分の置かれた状況を冷静に考える。

新聞部の立場を考えれば、二人の言うことはもっともだ。それなら私に出来ることは……


「今回のこと以上の特大ネタを私が持っているとしたら?」


取り引きしかない。

「それで、今回の写真と録音を破棄しないと、それを私が喋らないと言ったら?」

ふむ、と興味深そうにお互いの顔を見合わせる藤田姉妹。

「……魅力的な話ね」

「でも、まりなさんが出まかせを言っている可能性もありますから、喋った時点で破棄というのは約束しがたいですわ」

「それに取り引きなんか応じなくても、私たちは力づくで聞き出す術を持ってる」

何やら物騒なことを言う美希先輩。ここはこちらも強気に出るしかない。

「私がこのネタを話す条件は、写真と録音を破棄すること! そうじゃなきゃ何をされても喋らない!」

「面白いじゃない。本当にそうなら、取り引きに応じる可能性もなくはないわね」

「でもまずはそれを証明してもらわないと、話は進みませんわ」

真希先輩がそう言うと、まるで初めから決まっていたかのような段取りの良さで姉妹からの提案が始まった。

「私たちは今から10分間、”ありとあらゆる手”を使ってあなたから情報を聞き出そうとする」

「10分間あなたが情報を吐かなければ、力づくで聞き出すのは諦めて、取り引きに応じましょう」

「でもチャンスを与えるだけよ。あなたの情報に価値がないと判断したら、あなたの写真を破棄はしない」

「もちろん、あなたから力づくで情報を取れなかったというのが前提ですから、私たちは”どちらか一方”の情報しか使いません。この条件でいかがかしら?」

圧倒的に新聞部側にとって都合のいい条件。

とはいえ、これ以上強気には出られない。「じゃあこの話はなかったことに」と言われたらそれまでなのだから。今は……

「……それでいいです。その代わり、私の情報を選んだのなら、写真と録音は破棄する。これだけは約束してください」

「いいでしょう」

新聞部姉妹はまたお互いの顔を見合わせて、ニヤリと笑った。


3

「はじめに言っておくけど」

私は両腕を上げた状態で、天井から吊られた手錠によって頭の上で両手を拘束された。何故そんな設備が部室にあるのか……というのは、今更気にしても仕方がないのだろう。

「まりなさんにはいつでもギブアップして帰る権利があるわ。決して私たちが無理やり拘束しているわけじゃない」

「……わかってます」

「確認して」

美希先輩がスマホのタイマーを見せてくる。そこには確かに「10分」と表示されていた。

今から10分間、私はいったい何をされるのだろう。さっきは交渉のために強がってみたものの、正直なところ不安で仕方がない。

「安心して。力づくと言っても、痛いことやケガをさせるようなことはしないから」

不安な気持ちを見透かされたようにそう言われ、私はいくらか安堵する。反面、ではこの拘束はいったい何なのかと更なる不安がよぎるのだった。


「じゃ、10分。スタートよ」


タイマーの開始ボタンが押された。

「それじゃ、まりなさん。あなたの持っている”特大ネタ”を私たちに教えてくださる?」

私の背後に立った真希先輩がそう尋ね、正面からは美希先輩が俯く私の顔を覗き込んでくる。先輩二人に前後からプレッシャーをかけられ、私は少しだけ声が震えてしまう。

「……言いません」

「そう。じゃあ身体に聞いてみましょうか」

美希先輩の手が、前方からじわじわと私に向かって伸びてきた。

何かされる……身体にギュッと力が入る。俯きながらも、反抗の意思を込めて先輩の顔をキッと睨む。

絶対に耐えてみせる。そう決意して、少しずつ距離を詰めてくる美希先輩の手に視線を移す。あと数センチ。何をするつもりかと先輩の手の行方を注視し――

「ッひゃうん!?」

「ふふ、不意打ち大成功♡」

無防備な両腋を後ろからツンとつつかれて一気に力が抜ける。背後からは真希先輩の弾んだ声。美希先輩の手に気を取られていた私は見事に不意を突かれてしまった。自分の口から出てきた間抜けな声によって、私の神妙な雰囲気は一瞬で崩された。

「ふふ、さわさわ~~こしょこしょ~~♪」

「ふぁ……くふっ……ゃ、力づくって…くすぐり!?」

まずい。今の私にとってくすぐりは色々と……まずい。

私の両腋に狙いを定めた真希先輩は、10本の指をセーラー服越しに触れるか触れないかのところでわきわきと動かす。本来はこれから訪れるくすぐったさを予感させるための脅し程度のつもりだろう。

ところが今日の私は既に花先生に細工をされて足裏を散々くすぐられた後だったためとても敏感になっており、恥ずかしいほど大きく身を捩らせてしまっていた。

「まりなさん、ずいぶん弱いみたいだけど、やっぱり今のうちに喋っておく?」

「それは、くぅぅ…ぃ、言いません!!」

「ふふ、そうこなくっちゃ。美希さん?」

「お姉様、この子たぶん1分ともたないわよ。いくらなんでも敏感すぎ」

呆れ声の美希先輩は膝立ちになって、さっと私の脇腹に手を添えた。そのままセーラー服の上からさわさわと撫で始める。

「なあぁっ!? くふふ…くく! ああぁ!!」

大声を上げて笑い出す程の刺激ではないものの、姉に両腋を、妹に両脇腹を弄ばれて私は早くも声を我慢することが出来なくなっていた。

「あはははは!! くふふふ、やめてぇぇ!!!」

「開始から40秒。まだ服の上から触ってるだけなのにすごい反応ね♡」さわさわさわ

「もう時間の問題ね。噂の優等生がこんな全身敏感体質だったなんてねぇ」カリカリカリ

「ちがっ!ちがうの!これはあはは、先生のせいでくひゃあっ!!??」

姉妹に好き勝手言われ敏感さを自覚させられていくようで、私はなんとか反論を試みるも、その瞬間に新しい刺激が送り込まれて変な声が出てしまう。

両腕が吊り上がっていることで出来たセーラー服の裾の隙間から、脇腹をくすぐる美希先輩の手がなんと中に侵入してきたのだ。インナーの上から脇腹をカリカリされる。

「ひゃんっ!? あああっ!! だめ! あああははははは!!!」

私はあっという間に、本格的な笑い声を上げさせられてしまう。

「どう? そろそろ喋りたくなってきたんじゃない?」カリカリカリ

「ああああははははははっ!! い、言わない~~~~!!」

「あら美希さん楽しそうなことしてるわね。じゃあ私も……」

続いて背後から腋をさわさわしていた真希先輩が人差し指の爪を絶妙な力加減で押し当ててきたかと思えば、そこからツツツーーと私の吊られた両腕を上に向かってなぞり始めた。

「きゃあ!? ひ、ふゃぅっ!!? あうぅぅ~~~~~!!」

半袖のセーラー服は二の腕から先を守ってくれない。真希先輩は指を皮膚に軽く食い込ませながら、私の二の腕をゆっくりとなぞり上げた。

「んひゃぁあ!!?」

「あっ♪ これ弱いのね♡」

「!? そ、そんなこと、ないです…!!」

肘の裏あたりでUターンして再び二の腕をなぞられる。

「ひっ…だめ…はうぅぅぁぁ!!??」

「面白い遊び、見~つけた♡」

二の腕がこんなにくすぐったいなんて知らなかった。先輩の指はセーラー服の袖口で一旦停止して、今度は人差し指と中指の爪の表面を軽く押し当てられる。自分でも気づいていなかった弱点を狙われて、私は焦っていた。

「違う……そこは……効かない……!」

「そっか残念、効かないかぁ♪」

2本の指で再び二の腕をなぞられる。

「いひゃぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!」

悔しい。簡単に笑い叫ばされてしまう。

「ここは効かないのよねー? あまり弱点ばかり責めても可哀想ですし、しばらく”効かない”二の腕をなぞり続けてあげますわ♪」

「ちょ、待って、そんな……!」

また肘裏で折り返し、薬指も加わって3本指でスタンバイされる。ダメだ。これは耐えられない……!

「特大ネタ、喋ってみる?」

「……い……い、言えない!」

絶対に喋るわけにはいかない。絶対に……だめ……やめて……!

3本の指が肘裏から二の腕まで一気になぞりながら降りてくる。

「なああぁぁぁっぅぁあ!!?」

「喋りたくなったら、一言そう言ってくださいね?」

「……言いたく、ない……!!」

小指も加えて4本。

「きゃあああぁぁぁぁぁぁぅぅぅっっ!!!!」

真希先輩は1度なぞるごとに小休止を挟むが、私はそのたびに二の腕の弱さをじっくりと自覚させられていった。そしてその間も美希先輩による脇腹カリカリは続いている。

「くううぅぅふふふふ、あははは、あああははははは!! だめっ……ああははっだめだけど……い、言えない…言いたくない!!!」

「言いたなくないなら、仕方ないですわね」

真希先輩はついに5本の指を突き立て、ピンと伸ばされて無抵抗な私の両腕を爪の先端でカリカリと引っ掻き始めた。

「いやあああああああぁぁぁっはははははは!!!!」

「まもなく二の腕よ~~~はい、とうちゃーく♪」カリカリカリ

「なはぁぁぁぁぁぁっっっ!!??きゃあああああははははははは!!!」

左右で10本の指が私の弱点をカリカリと刺激しながら通過する。そしてセーラー服の袖口で一時停止を……しない!

「ダメッとめてぇっああっ!!!止まるんじゃないのぉっ!!?」

真希先輩の指は二の腕をくすぐりながら降りてきたかと思えば、袖の隙間から内部に侵入し、素肌をなぞって腋までたどり着いた。

「ぅああああッッ!!!!!」

服越しに感度を高められていた腋に直接触れられ、悲鳴に近い声が出てしまった。私の叫び声を合図に、一旦二人のくすぐりが止まる。

「はぁ……はぁ……はぁ……」

「残り約8分30秒。ウォーミングアップ完了ってとこね。1分持たないと思ったけど、割と頑張ったじゃない」

余裕を伺わせる藤田姉妹に対して、私は呼吸を整えるのに必死だった。

「さて、とっても敏感なまりなさん。これから何をされると思う?」

袖の隙間から差し込まれ、腋に直接あてがわれた真希先輩の10本の指。裾から侵入してインナーの上から脇腹を包み込んでいる美希先輩の両手……ゾワッと鳥肌が立つ。

ウォーミングアップを終えたという姉妹がこのままくすぐってきたら……無理だ。絶対無理。

「この様子だと、いま喋っておいた方が身のためだと思うのだけど」

先輩の言う事は正しい。何をされても喋らないという決意が揺らいでしまう。

「……い、言わ………言いたく…………」

「この後のくすぐりはさっきまでの比じゃないわよ。陸上部のエースですら3分で限界を迎えたもの」

「……3分?」

私の迷いを感じ取ってか、とどめとばかりに持ち出された陸上部の話。結果としては新聞部にとって、あるいは双方にとってこれがよくなかった。

そう。ご存じの通り私、箕咲まりなは負けず嫌いなのだ。

「この私が……たった3分程度、我慢できない訳ないじゃないですか……」

「あら? 良いわね。そういうの嫌いじゃないわよ」

「目の色が変わったわね。いいですわ、その目から光が消えるところを見るのがとっても楽しみ♡」

お互いに変なスイッチが入ってしまう。

「覚悟はいいかしら?」

「それじゃあ行きますわよ。さん、にぃ」

こちょこちょこちょこちょこちょ…!!

「きゃああああああああはははははははははは!!それ!!!ずる!!ずるいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」

何という古典的な手。くすぐられ疲れて思考力が低下していた私は、まんまとカウントダウンを信じてしまった。心の準備も出来ぬまま「1」を数える前に襲ってきた強烈なくすぐったさに絶望させられる。

「喋りたくなったら喋るって言うのよ?」ぐにぐにぐに

「きゃあああはははははははははははは!!い、い、言わないいいいひひひひひひひ!!!」

「まだまだ序の口。30秒ごとにもっと激しくしていきますわ」こちょこちょこちょ

「も、もっとぉぉぉ!!?? まって!!!それって!いやあ!!あははははははははは!!!まって!!!!」

真希先輩がさらっとこぼした「30秒ごとに激しく」という台詞に私は戦慄した。

「ふふ、いつまでもつか楽しみね♡」


4

「10、9、8、7、6、5、4……」

腋の窪みに指を食い込ませて激しくかき回している真希先輩のカウントダウンが、耳元から聞こえてくる。セーラー服の内側に侵入されての激しいくすぐりが始まってから、最初の30秒が経過しようとしていた。

「きゃあああああはははははははははは!! あああはははははははははははは!!!」

「3、2、1……」

「「ゼロ♡」」こちょこちょこちょこちょ…

「!!!??? いやあああああああーっははははははははは!! ぎゃあああああっはっはっはっはっは!!!」

姉妹が声を揃えて、カウントが「0」を迎えたことを告げる。

「さっきより一段階ギアを上げさせてもらったわ。耐えられるかしら?」ぐりぐりぐり…

そんな説明など必要なかった。上半身を襲う二人の指の動きは速さを増し、私の笑い声は誰が聞いても明らかに、一層大きなものへと変わっていた。しかし「一段階」でこれほどのくすぐったさ。次にカウントがゼロになったとき、私はいったいどうなってしまうのだろう。

「3分耐えるってことは、30秒が6回。あと五段階くすぐりが強くなるのよ? 喋るなら今のうちよ?」ぐにぐにぐに…

「そ、そんなあああああっはっはっは!!! きゃあああっはっはっは!!!!」

「さあて、もうすぐ次の段階ね。5、4、3、2、1……ゼロ♪」

「うぎゃぁぁぁぁぁぁぃぃぃっぃぃぃぃっひっひっひっひ!!! だめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!! だめぇぇぇぇぇぇぇぇッッッ!!!」

更に激しさを増す二人のくすぐりに、自分でも聞いたことのないほど大きな笑い声が絞り出される。

私はもう無我夢中で、なんとか敏感な腋と脇腹を守りたい、その一心で頭をぶんぶん振り回し、身体の色々な部位に力を込めた。しかし天井から吊られた両腕は決して下ろすことが出来ず、真希先輩の意地悪な手つきで無防備な腋の下が激しくかき回され続ける。

「抵抗しても無駄ってことを教えてあげる♪」

脇腹を揉んでいた美希先輩の手が、ついにインナーをめくり上げて更に内側へと入り込んできた。脇腹を中心に、腹部、背中、敏感な腰まで広範囲にわたって素肌を直接ワシャワシャとくすぐり回される。

「ひいいいぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁッッ!!それッだめええぇぇぇぇぇぇぇッッッ!! 死んじゃうよぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

「3、2、1……」

カウントが怖い。次にどれほどのくすぐったさが襲ってくるのか分からない。まさに未知の領域。わからないものは怖い。私の心はくすぐったさと同時に恐怖心に支配されつつあった。これ以上続けられたら自分が自分でなくなってしまうような怖さ。

「ゼロ♡」こちょこちょこちょこちょ…

「あああぁぁぁぁぁぁぁ死んじゃうっ!壊れるぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」

汗ぐっしょりになった身体にもお構いなしに、姉妹の計20本の指は更に激しく動き、上半身の弱いところを徹底的に這い回る。くすぐったい辛さと、恐怖がこらえきれず、気づけば涙が溢れていた。くすぐったさと汗と涙の不快感で、何が何だか分からなくなる。それでも……

「喋らないぃぃぃぃぃ!!3分なんてぇ!!3分なんて耐えられるんだからあぁぁぁぁぁっっ!!!」

私を繋ぎ留めていたのは「30秒」を6回数えれば「3分」という事実だった。受験戦争を勝ち抜いてきた、私の人並外れた負けず嫌いが、幸か不幸か「3分間耐え抜いて見せる」という呪縛を自らに課していた。

「10、9、8……次で6回目ね。正直驚いてるわ」ぐりぐりぐり

「4、3、2、1……」ワシャワシャワシャ

「「ゼロ」」こちょこちょこちょこちょ……!!

「あああああああああああああああっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!!!!!!」

3分経った。6度目のカウントがゼロを迎えて、もう訳の分からないレベルで激しさを増したくすぐりに私は絶叫し、一瞬気を失いそうになる……が、その刺激はすぐに止み、私の意識はギリギリのところで現実に引き留められた。

「……ぜぇ……はぁ……???……はぁ……はぁ……」

藤田姉妹はくすぐる手を一時的に止めていた。

「なるほど、まりなさん。あなたを誤解していたわ」

「ここまでぐちゃぐちゃにされても口を割らないなんて……あなたの負けず嫌いは本物のようですわね」

朦朧とする意識の中で、私は達成感のようなものを覚えていた。次の瞬間、地獄に突き落とされるまでは。

「おめでとう。私たちの全力のくすぐりを3分耐え抜いたのはあなたで二人目よ。でもね、気づいてるかしら?」

「あなたが耐えたのはあくまで「3分間」の全力のくすぐり。ここまでは尋問の前半戦に過ぎませんわ」

「ぜん……はん……?」

そう言えばそうだ。美希先輩の「陸上部のエースですら3分で限界」という話に対抗心を燃やした私は、勝手に「3分耐える」ことにゴールを設定していた。いや、そう誘導されていたのかも知れない。美希先輩が私に見せてきたスマホのタイマーには残り「5分」の表示。

ここまでは10分間の尋問のうち、たった5分の出来事。

「ここからは”力”に頼らない、本当の地獄を教えてあげるわ♪」

「ほ、ほんとの……じごく!? や!! そんなのいや!! 助けて!!!」

3分耐えるという目先の目標を失った私の心はただひたすら恐怖に浸食されていった。

「まりなさん、あなたがこの部室に来た時からずーっと疑問だったのだけど」

そう言うと真希先輩は顔を私の耳元まで近づけて、吐息交じりの声でこう尋ねる。

「どうして靴下を履いていないのかしら?」

「そ、それは……///」ビクッ

理科準備室で花先生に騙されたときから、靴下を脱いだままだったのだ。先輩の指摘通り私はずっと素足にスリッパという状態だった。

「もちろんどうせ脱がすつもりだったけど、自分から脱いでくるなんて、ひょっとして期待してたのかしら?」

「ちっちがっこれは……くひゃんっ!!!? ダメ!!!」

美希先輩が私の左足を抱え上げ、スリッパを脱がせた。そのまま指を土踏まずに当てられる。これからされることは容易に想像できるが、私にはもう抵抗する力が残されてはいなかった。

「さ、地獄に落ちなさい♡」カリカリカリカリ…

「ひぎぃいゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁははははははははははは!!!!そこはダメなのぉぉぉぉぉ!!!!たすけてえええええええぇぇ」

左足の裏を片手でカリカリとくすぐられ続ける単調な刺激。それだけで私はもう何も考えることが出来なくなった。花先生に飲まされていた薬、理科準備室で受けた足裏責めの余韻、藤田姉妹の巧みな誘導で失われた目標と希望。くすぐったい。怖い。くすぐったい。くすぐったい。くすぐったい。くすぐったい。

「まってぇぇぇぇ!!!まってってえばああぁぁぁ!!! もうやだぁぁぁぁぁぁッ!! たすけてよぉぉぉぉぉッッ!!」

「……助けて欲しい?」

耳元で真希先輩が囁く。

「ほしいほしいほしい!!いやあああああははははははははは!!!!たしゅけてえええええええ!!!!!」

「ギブアップするときは、どうするんだったかしら?」

カリカリカリカリ…

「どううふふふふふ!? どうしゅればッ!! どうしゅればいいのおおおぉぉぉぉぉ!?」

「うーん、そういう時間稼ぎはよくないわね。罰として、こうよ♪」

足を抱え上げられスカートが捲れて無防備な左の太ももを、真希先輩の5本の指でツーっと引っかかれる。その瞬間、私の頭がショートする。

「おおおおお%$※&※$%$!???」ビクンッビクンッ!

新しい弱点を発見され、そしてなぞり上げられて腰が大きく跳ね上がる。

「さあ、やめて欲しい時はどうするの?」

カリカリカリカリ…

「しょれはあああああああひゃああああはははははわかっわからなひひひひひひひひひひひひ助けてええええへへへへへへへ!!!!!!」

「また時間稼ぎ作戦ね。許しませんわ」

ツツツーーーー

「%&’’(($”””!!!!!????」ビクビクビクッ!!

太ももはダメだ。弱すぎる。次されたら、死んじゃう、おかしくなっちゃう。

私は本当にどうしたらいいのかわからなくなっていた。

「しょうがない子ね。やめて欲しければ私の言う事を真似しなさい? わかる?」

カリカリカリカリ…

「はひっひぎぃぃはひいい!!! はひひまふ!!! いひましゅうううぅぅぅ!!」

「『私の負けです。私は情報を喋ります』……はい、言ってみて?」

「わらしひゃぁぁあ…ま、まあああははははははあっけ、わら、ひゃべ……はは、はれれ??」


5

***

私立笑来学園の理科準備室に、美人教師、佐橋花の姿があった。

「和泉くん、大丈夫? もしかして壊れちゃってる?」

ゆっくりと和泉恭平の足かせを外し、彼を約10分ほど無機質にくすぐり続けていた機械の上履きを脱がせた。

「……ぜぇ……ぜぇ……さ、さはし……せんせぃ…………」

「あ、よかった生きてるわね。まりなちゃん、今とっても頑張ってるのよ」

「……???」

「あなた先輩よね。さっき、あの子に助けてもらったのよね?」

「助け……後輩……箕咲さん…………」

***


午後6時過ぎの新聞部室にて。美希先輩に容赦なく足裏をくすぐり続けられ、真希先輩に太ももを数回に渡って引っかかれて、私はもうほとんど思考を放棄していた。

地獄のようなくすぐったい時間を終わらせたい一心で、真希先輩が教えてくれる「くすぐりからたすかる方法」をただただ必死に唱える。

「『私は』?」カリカリカリカリ…

「わははっはっ! あははっ、あふっ!! あわっ! わらしは……」

「『情報を』?」

「じょ、じょほほ、じょうほーをぉぉっ!! ほほっははひっ!」

「『喋ります』」

「ひゃっひゃべっ、ひゃべり……」

ガラガラガラッ!

「箕咲さん!」

「ひゃべ…ひゃ、ははは…ふぇ……ひ、い、いじゅみ先輩……?」

突然部室の扉が勢いよく開けられ息を切らした男子生徒が駆け込んでくるのを、ぼやけた頭で認識した。私は、この人を知っている……和泉先輩だ。


「あら、不用心。美希さん、鍵を掛けてなかったの?」

「え、そんなはずないわ、お姉さま! 私は確かに……」


「箕咲さん、大丈夫!?」

「だ、だい……いやっみにゃいでっ! 見ないでください……先輩……!」

二人がかりでくすぐられ続けて全身真っ赤に火照り、髪はボサボサに乱れ、汗と涙と恐らくよだれでぐっしょり濡れ、肝心なところは上手く隠れているとはいえスカートやインナーもだらしなく捲れ上がってへなへなになった私。

はっと我に返る。こんな姿を和泉先輩に見られたことへの羞恥心が、私の意識を現実へと引き戻した。

「だめ、あっち! あっち向いててください!!」

私は――第三者から見れば全く変化が分からないと思うけれど――たしかに顔が赤くなるのを感じた。目の前には驚きと苛立ちを露にした美希先輩。

「いいところでとんだ邪魔が入ったものね!」

そして相変わらず落ち着いた様子の真希先輩。

「ま、いいじゃないですか美希さん。残り2分30秒。まりなさんが敗北する姿を、パートナーさんにもしっかり見届けてもらいましょう♪」


***

「これで役者は揃った、というところかしら♪」

理科準備室でノートPCを開き、新聞部室を映し出す監視カメラの映像を見ながら、佐橋花は本日3杯目のコーヒーを優雅に啜るのだった。


(続きます!!!)


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