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目の前でくすぐられる先輩の姿に何かを感じてしまう秀才少女の話

前回のお話:


【第二話】

「ん……」

放課後の理科準備室で、私、箕咲まりなは目を覚ました。

どうして学校の”床”で寝ていたのか。いまいち思考が判然としない。

さっきまで何か激しい運動でもしていたのか、身体に疲れが残っている。


ぼやけた視界で、ふと違和感に気づく。

「……足が、スース―する」

どうやら靴下を履いていないみたいだ。

「…………」

一瞬考えたところで、先ほどの記憶が徐々によみがえってきた。

そうだ。

私、足裏くすぐりで気を失ったんだ。

変な上履きを素足に履かされて、それで……!!

「……ひっ!」

今しがた体験した耐えがたいくすぐりの感覚がフラッシュバックし、思わず小さく悲鳴を上げてしまう。

足の裏に残るくすぐりの余韻。

ローションでぬるぬるになった両足を靴の中から直接、無数の毛にわしゃわしゃと責められたのだ。

思い出すだけでもくすぐったい。

「あ~はっはっははははははは!!!!」

笑い声の幻聴すら聞こえてくるほどだ。

「お、お願いです!! もう、もう許して!! わはははははは!!!」

許しを請う声の幻聴も…………幻聴?

いや、これは――


私はいよいよ覚醒し、顔を上げた。

相変わらず暗幕カーテンで覆われて外の光が入ってこない理科準備室。

その床にうつ伏せで横たわる私の目の前には、先ほどまで自分が座っていたパイプ椅子がある。

「ぎゃーはははは!ごめんなさい!ごめんなさいぃぃぃぃ!!!」

そこに手錠で繋がれて拘束された見知らぬ男子生徒が一人、笑いながら身を捩っていた。

そしてその男子生徒の脇腹を、妖しい手つきで背後からくにくにと責め立てているのが――

「あら、おはよう。まりなちゃん。やっとお目覚めね」

理科教師の佐橋花先生だ。

男子生徒をくすぐる手を止めないまま、壁掛け時計を一瞥し、そして床に倒れている私を見下ろす。

「時刻は17時30分。宿題、間に合わなかったわね。ざ~んねん♪」


私たちの通う私立笑来学園の理科教師は、若くて美人でみんなの憧れ。

花先生が拘束された男子生徒に淡々とくすぐりの刺激を送り込みながら、にっこりと微笑んで私を見つめる。

その顔はきらきらとした瞳の可愛らしさと、つややかな黒髪がよく映える大人の凛々しさを兼ね備えており、たしかに女でも見惚れてしまうほどの美貌だ。

けれど私は瞬時に理解した。

――この人、やばい。


「ごめんなさいね。まりなちゃん」

「え……?」

「あなたに履いてもらった”集中力が高まる上履き”、あなたくすぐったいって言ってたじゃない」

「……はい」

「あの後よくよく調べてみたら、たしかに刺激量の調整ミスがあったのよ。この子がね……」

そこまで言って、花先生は男子生徒の脇腹をくすぐる手を強める。

「うひゃーーーーっはっはっはっ!!!」

「ほら、ちゃんと自己紹介しなさい。言い終わるまで手を緩めないわよ」

「そ、そんなああああはははは!! い、いず、和泉です!! 和泉恭平!!」

和泉と名乗る男子生徒は両手をパイプ椅子に繋がれて、カッターシャツをくしゃくしゃにしながらもがいている。

そのやや低く真面目そうな声と、どことなく大人びた風貌から、私は直感的に先輩だなと判断した。

もっとも今は見る影もなく笑い狂っているが。

「名前だけじゃ何者か分からないでしょー?」ぐにぐにぐに。

花先生が和泉先輩の脇腹に手を押し込むようにして激しく揉む。

その刺激の変化に敏感に反応する和泉先輩。

「ぎゃああああああははははははあははははは!!!か、かか、科学部!!科学部員で、すううううははははははははははは!!わあああああっははははははははははははは!!!!!」

「何年生ー?」こちょこちょこちょ。

「にねっにねん~~~にねんせいいいいいいい!!!!あはははは!!!」

「科学部2年の和泉恭平くんはどうして今くすぐられちゃってるのかな?」ぐにぐにぐに。

「ひええええええええ!!!!そっそれはっ!!ぼ、ぼくがっあああああははははは!!あああしゃべっくすぐったい!!!許してぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

「だ~め。ちゃんと言えるまでこのままよ♡」ぐりぐりぐりぐり。

「あああああああああああああああああああああああああ!!!!」

絶叫。

花先生の激しくも的確にツボを捉えたくすぐりに、和泉先輩がどんどん追い詰められていくのが分かり、見ている私までくすぐったくなってしまう。

「まったくもう。後輩の前でみっともなく叫んじゃって。これは指導のレベルを一段階上げないといけないかしら?」

「ま、待って!!!待ってください!!!!ああひゃひゃひゃ!ぼ、僕がっ僕が調整した上履きがっ!!僕のミスでっ通常の50倍の出力にっ!!」

「つまり~?」ぐにぐにぐに。

「ひゃああああああああ!!つまり!!!微弱な刺激をっ送るはずがっ!!す、すさまじいっく、くすぐったさになってしまって!!!!えへへあははははははははぁぁぁぁぁ!」

「だから~?」ぐりぐりぐり。

「だ、だから今こうやって!!それと同じ刺激をっ!!お仕置きを!!僕が、悪いので!!!!!ああああひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!!」

「はい、よく言えました。じゃ、ご褒美に手を緩めてあげるわね♡」

花先生のくすぐりがフェザータッチになる。

「………っ!!!ぁぅ……!!ぐふっー……」ビクンッ!

それに伴って、和泉先輩の反応も変わる。

先ほどのような絶叫はしなくなったものの、耐えられるか耐えられないかというギリギリのラインをついた刺激。これはこれでキツそうな様子だ。

そんな和泉先輩の腰から胸横にかけて、花先生の綺麗な人差し指がゆっくりとなぞっていく。

ツツーーーー。

「はぅっ………!!………ふぅ……くっ!」ビクッビクッ!

ツツーーーー。

「くふっ……………ぁぁ………!!」ビクッビクンッ!

左右で微妙に時間差をつけてなぞられて、不規則に腰が跳ねる和泉先輩。

完全に、花先生の手の動きに転がされている。

壮絶な光景だった。

「ほら、和泉くん。可愛い1年生に謝らないと」

あまりに和泉先輩がくすぐったそうで呆気に取られていたが、花先生の言葉でこの場に私がいるということを思い出す。

「は、はひぃ……えっと、ご、ごめ――」

ぐにぐにぐに。

「ぎゃああああああああああああははははははは!!!」

言いかけたところで、突如脇腹を強く揉まれて絶叫させられてしまう和泉先輩。

「ごめんなああああはははははさいいいいいひひひひひひひひ!!!」

「ちょっと。謝りながら大爆笑ってあなた全然反省してないじゃない。これは更にお仕置きが必要ね」

確信犯の花先生は、脇腹を揉む手をそのまま、腰、胸横と上下に動かして激しくくすぐる。

「ちがっ違いますうううぅぅぅぅ!!!ぎゃあああはははははは!!!!違うううううううう!!!」ガタンッガタンッ!

「自分のせいで可愛い1年生を気絶させてしまったのよ。分かってるの?」

「はっはい!!!!!!!ご、ご、ごめっ……ごめんなさい!!!!」

「あなたいったい誰に謝ってるの? 私に謝っても仕方ないのよ?」

こちょこちょこちょこちょ。

「くひいいいいいいいいいいいいいぃぃぃ!!!え、えっと、その――」

「あ、箕咲です! 箕咲まりな!」

和泉先輩があまりにいたたまれず、私はほとんど反射的に名乗っていた。

「み、箕咲さん!この度は僕のせいで大変な目に遭わせてしまい、くふっ、ほ、本当にすみませんでした!!!」

「あ、えっと私は、その……」

「やれやれ。やっとちゃんと謝ったわね。まったく、問題児の指導には手を焼かされるわ」

展開についていけず返答に窮する私を遮って、花先生がようやくくすぐりの手を止めた。

「ぜえ……ぜえ……」

くすぐり地獄から解放されて必死で空気を取り込む和泉先輩を、私はただ茫然と見ているしかなかった。


宿題を忘れて花先生に呼び出され、変な上履きにくすぐられて気を失って、目を覚ますと男子の先輩が花先生にくすぐられていた。

くすぐられている理由はどうやら私らしい。

少しずつ思考の整理がついてきた。

私が気を失ったのは和泉先輩のミスのせい……ということになっている。

それなら私は怒る資格がある? でも、さっき壮絶なお仕置きを受けた先輩を思うと、今更そんな気にはなれない。

それより宿題だ。指定された提出時間を過ぎてしまったけれど、上履きのくすぐりがアクシデント扱いなら、減点を免れる可能性はある?

「あの、花先生!」

「どうしたの? 可哀想なまりなちゃん。あ、そっかあ!」

閃いた、といった感じで、わざとらしくポンッと手を打つ花先生。

「あなたが被害者当人だものね」

「え、いや、あのそうじゃなくて、減点――」

「あなたも、くすぐってもいいのよ?」

「……え?」


――あなたも、くすぐってもいいのよ?


先ほどの光景が思い出される。

くすぐり。

花先生の激しく揉む手つき、優しくなぞる指先。

そして。

和泉先輩の笑い叫ぶ声、ビクビクと跳ねる腰。

不意に、高圧的な両親の顔が思い浮かぶ。

年上の男性がなすすべもなく弄ばれているところを生まれて初めて見た。

花先生の両手で、すべてが思いのままだった。


――あなたも、くすぐってもいいのよ?


「な、何言ってるんですか。先生、こんなのっておかしいです。異常です!」

思考を振り払うように答える。

そう、異常だ。

よく考えたら、これは体罰にあたるのではないか。

「私、他の先生を呼んできます!」

私は立ち上がり、”先ほどの上履き”ではなく、もともと履いていたスリッパに素足を通した。

セーラー服についた埃を両手でパンパンと払うと、足早に準備室の出口を目指す。

今回の出来事が公になれば、きっとすぐに問題になるはずだ。

「あらそう。それは別にいいけど、あなたのためにも一つ伝えておかないといけないわ」

「……なんですか?」

扉に手をかけ、一応聞こうと振り返る。

「この理科準備室は私の秘密基地みたいなものでね。表向きは安全管理のためってことになってるけど、その扉。外からも中からも鍵がないと開かないわよ? それにもし開けようとすると――」

鍵がないと開かない。その続きを聞く前に、私は確認のため扉を開けようとしてしまった。

「ほんとだ、開かない……!」

直後――

「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああははははははははははははははははははははははは!!!!!!!」

これまでにないくらいの勢いで和泉先輩が笑い叫んだ。

「えっ!?」

「あーあ。人の話を最後まで聞かないからこうなるのよ」

私は慌てて振り返ったが、花先生は和泉先輩に触れていない。

それならどうして。

「和泉くんの足を見てみなさい。まりなちゃん、見覚えないかしら?」

「あっ!上履き……!」

和泉先輩は椅子と両手を繋がれたうえで、両足には先ほど私をくすぐり地獄に陥れたあの特別製の上履きを履かされてた。

「この上履きね、理科準備室の扉のセンサーと連動していて、無理やり開けようとすると、最大出力で足裏と指の間のローションくすぐりモードが始動する仕組みになってるのよ」

ヌルヌルヌル……ワシャワシャワシャワシャ!!!

「ぎゃあああああああああああああああはははははあははは!!!!むりぃぃぃぃぃ!これむりいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!!」ガタンッガタンッ!!

椅子を揺らして笑い叫ぶ和泉先輩。

この苦しみは私がついさっき受けたもので、身に染みて分かっている。

上履きの内部にローションが充満し、ふさふさした毛を張り巡らせた特殊な中敷きが、意思を持って足裏と指の間を責めてくるのだ。

「せ、先輩!すみません……!!」

「ふふふ。これで共犯ね、まりなちゃん♡」

「ひいいいひひひひひひひ!!あああああああひゃあひゃははひゃひゃひゃ!!!!」

まんまとはめられた悔しさと申し訳なさが込み上げてくる。

「……ていうか、これってもしかして」

「そうよ。あなたがもし一度も手を止めずに宿題をやりきってしまったら、職員室に提出に行くために扉を開けようとしたところで、この最大出力のくすぐりが始まる予定だったの」

全てが花先生の掌の上。

このぶんでは、上履きの調整ミスというのも恐らく仕組まれたものだ。

子どもの私にだってそれくらいのことは分かる。

そもそも私の宿題がなくなったこと自体、仕組まれていた?

だとしたら、花先生の目的はいったい何?

ヌルヌルヌル……ワシャワシャワシャワシャ!!!

「あああああひいいいいいいいいくすぐったいいいいい!!!指っ!!指がああああああ!!!!」

私の思考を遮るように、和泉先輩の笑い声が響く。

「さてさて、まりなちゃんのせいで和泉くんがとってもくすぐったくなっちゃいました♡」

「あなたが仕組んだことでしょ!」

「そんな二人にお知らせです♡ 私はこれから職員会議に行ってくるから、二人は放課後の部活動をこのまま続けて下さい♡」

「ちょ、ちょっと! 私たちをここに監禁するつもり!?」

「ぎゃはは! ぎゃは! ぎゃはははははは!!!」

和泉先輩が何と言っているのか分からないが、恐らく憤慨している。

「まだ17時台だもの。部活よ、部活。ところで和泉くんを足裏くすぐりから解放する方法がひとつだけあるわ」

「あああああひゃひゃひゃひゃ!教えて!!!!ふひひひひひいいい!!!!」

「実はこの上履き、足裏以外の部位に一定のくすぐったい刺激を感じていると、その間はくすぐりが停止する機能がついてるの」

「そ、それってつまり」

「誰かが足裏以外の場所をくすぐってくれれば、足裏のローション責めは一時的にストップするってことよ。それ以外に止める方法はないわ。まりなちゃん、あなたこれ気を失うほど辛かったのよね」

そうだ。私の場合は宿題提出の減点を避けたいという精神的な縛りがあったが、物理的な拘束はされていなかった。

それでも人生で経験したことのないようなくすぐりを長時間受けて、あまりの辛さに気絶してしまったのだ。

「和泉くんはあなたの不用意な行動のせいで、女の子の後輩を前にして涙を流しながら醜態を晒しているのよ」

「ぎゃああああああああはははははは!み、見ないでくれえええええええ!!!!!」ブンッブンッ!

「おっと、これ以上は職員会議に遅れちゃう。安心して。最終下校時刻の前にはちゃんと顔を出すから。それじゃ、あとは二人で部活動、頑張ってね♪」

そう言うと、花先生は持っていた鍵で扉を開けて、理科準備室を出て行った。

私の耳には和泉先輩の笑い声に紛れて、しっかりと外から鍵をかけ直す音が聞こえていた。


4

もしかしたら、花先生が扉を開けた瞬間に飛び掛かって逃げ出すことは出来たのかもしれない。

でもこの時、私の頭はある別の考えに取りつかれて鈍っていた。


恐らく罪のない和泉先輩が、地獄のくすぐり責めを受けている。

これは私のせい?

先輩をくすぐったさから解放してあげるには……


――あなたも、くすぐってもいいのよ?


……私が、先輩のことをくすぐるしかない?


ヌルヌルヌル……ワシャワシャワシャワシャ!!!

「ひひひいぃぃぃぃ!!くすぐったいいいぃぃぃぃぃぃああああああはははははは!!!」

靴の中から直接足を弄ばれて笑い苦しむ先輩を見て、ふと我に返る。

「あ! せ、先輩! 靴を脱げばいいんですよ! 手が使えないなら、私が脱がせますから!」

どうしてこんな簡単なことに気が付かなかったのか。

私はしゃがんで、和泉先輩の右足に履かされた上履きに手をかける。

しかし、何故か脱がすことができない。

「どうして!?」

何かが引っかかっているみたいだ。

「し、失礼しますね」

私は不思議に思って先輩のズボンの裾をたくし上げた。

すると上履きからほんの数ミリ上、足首にピッタリと枷のようなものが付けられており、それが頑丈そうな素材で上履きと何ヵ所も繋がっていた。

もちろん左足も同じで、上履きを脱がすことができない。

「ふ、ふうううう!!!ふうううううううううう!!!」

「あ、す、すみません!」

私の顔が近くにあるから、足をジタバタさせないように我慢してくれていたことに気づき、私は慌てて飛び退いた。

「ぬ、脱げないんだ!ぐふふっこれ、先生に繋がれて!どうやっても脱げないんだあああはははははははは!!!」ガタンッガタンッ!

私が退くとすぐに、少しでもくすぐったさを紛らわせようと身体をバタつかせつつ、叫びながら状況説明してくれる。

「そ、それじゃあ……」

徐々に、選択肢が限られてくる。退路が断たれてくる。

「ああああああははははは!!!く、くすぐっ!!!!くすぐって!!!!くすぐってくれ!!!!!」

「い、いいんですか……?」

「ど、どこでもいいから!!!!くすぐって!!!!足裏より!!!!ローションより、マシだから!!!!!!!頼むっ!!!!」

「それしか、ないんですよね……」

どうしてこんなに意識してしまうのか、自分でもよくわからない。

ごくり……。

私はパイプ椅子に拘束された和泉先輩の背後に回り、彼の腋の下に手をかけた。


5

私立笑来学園の職員室で、PCのモニターを眺める佐橋花の姿があった。

その顔は満面の笑みだ。

職員会議とは真っ赤な嘘。本日二杯目のコーヒーを啜りながら、監視カメラ越しに若い二人の生徒の行く末を見守っている。

「やっぱり青春っていいわねー」

などと呑気なことを呟く。

「ふふ。見込み通り、どっちの素質もありそうね。ほんと、目が離せないわ。箕咲まりなちゃん♡」


(続きます!!!)

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