旅客営業関係帳票記入例(1)JR補充券(乗車券編)批評

 昨今JRの補充券類は、常備券類の消滅やマルス券紙の感熱化により収集家の注目を浴びている。
 しかし、国鉄民営化以降出札機器のコンピューター化に伴い、特に平成10年代からは機器の性能向上で駅出札において補充券類を常時使用する箇所が大幅に減少し、既存のマルス駅でも補充券類を扱うことが少なくなった。
また、国鉄民営化から30年が経過したこともあって、補充券類を常に扱っていた出札・改札・車掌の戦士も引退されたことも大きく影響して、「怪しい」券が量産されることも多くなってしまった。
 また、国鉄民営化直後までは国鉄が国民の税金による負担があったためか、JTB等の旅行業者などのためか、民鉄の規範となるためかは判らないが、国鉄・JRの旅客営業規則や乗車券記入例などが一般に市販されていた。
しかし、現行JR様式の補充券についての記入例はJRが民間企業となったことで一般に開示されることがなくなった。(民鉄・旅行業者などの機器自動化で需要もなくなったのだろうが)
 そして乗車券記入例や営業規則本の発行が途絶えてからも、新在直通や、HS、別線往復などの制度は頻繁に変わって行ったため、民衆には補充券類の書き方の「正解」がわからなくなってしまった。(旅客営業取扱基準規定から考察することはできるが、いまいち曖昧なところはある)

 今回交通法規研究会(@trrc_editorship)より発刊されている「旅客営業関係帳票記入例(1)-JR補充券・乗車券編-」は、その「正解」がわからなくなってしまった今現在の、補充券の書き方について解説する同人誌である。
今現在の制度に即し、大体の書き方を網羅した大変力作である。
 補充券と題しているが、今回の冊子では乗車券をメインとしているためと、補片・補往(補往については後述するが)は書き方が大体単純であり、出改札補充券の書き方をマスターすれば乙片の書き方も大体マスターできるため、補充券と題名はあるが大体は出改札補充券(特別補充券の第一種様式)の書き方が主力になっている。
 また、特殊事例で発行が稀な補定があるのも素晴らしいところである。

 ただ、この素晴らしい冊子について個人的意見ではあるが、批評をしていきたいと思う。
 一つ目は、根拠がわからないところがあった。
 例えば、P.144とP.146の復割取消の復片の発行方法については、「何故このような書き方の違いになるか」がこの記入例本だけではわからない。
(これは旅客営業取扱基準規程を見ても特に書き方については書いていない)
 似たようなケースとして、「乗継取消」があるが、この場合収受変更区間はまつ線で記入するとある。(旅客営業取扱基準規程 第236条 (2) カ (イ)による)
 復割取消として収受・変更区間は復片の区間のように見えるが、乗継取消の例や原券からの変更区間がないと考えると、収受又は変更区間はまつ線で記載するのであろうと推測はできる。
 しかし、P.144の例においては、収受又は変更区間に、原券の復片の記載があり、P.146の例と相反しているように思える。
 また、P.155とP.158では払戻が発生する補充券ではあるが、領収額欄に払戻額があるなしについてやはりここも差異があり、その根拠の記載がない。
 これも根拠がない、とは言えないが事務管コード6桁のJR駅の場合、慣例的に一番最初の桁を空白にし、右詰めで数字を書き、空白桁には「△」を記載するルールがある(実は、東側3社のローカルルールと化している?)が、この本では記載されていなかった。

 二つ目は、「制度Q&A」か「記入Q&A」のどちらの方向性を目指すのかが曖昧になっている様な印象を受けた。
 当然、補充券の正しい記入には、正しい制度の理解が必要で、その制度の誤理解は直ちに誤記入へ繋がってしまう。
 そのため制度についても正しく詳しく説明が必要であるから、この本の制度の解説が非常に大切であり、また、質の良い解説をされており、その点大変素晴らしい。
 しかしながら、解説に重きを置くが、書き方について意外とあっさりと通過されるケース、例えばP.10の補片の乙方の発駅部分の事務管コードの書き方などは注記があってもよいだろうと思う。(記入例として押さえておいたほうが良いと思うポイントだ)
 また、代用発売とならない改札補充券(使用開始後で無札の片道・往復事由での発売等)、事由「券なし」パターンや、のぞみ号やHS絡みの再収受証明(ただ、これは料金券編に出てくることだろうか?)は気になるところだったが、残念ながら掲載はない。
 事由「券」について、出補においては「券」を付けられるケースで発売されるのが一般だが、代用発売等の定義も紹介しておくと、記入例では良かったのではないだろうか。
 他には、発売額計欄の注記はあるが、発売額計欄をを使用した例となるような(別線往復はある)な改札補充券の記入方もなかった。
また、上記にも絡むが単純な発駅区変(社線発はあるが)がないのは補充券記入の基本例であるから、押さえておいたほうが良かったのではないかとは感じた。

 三つ目は、冗長に感じるような点があった。
 1-8節では連絡運輸(割引)が多々あり、ここは「記入例」としての多様性はなく、書き方の例としては絞って紹介し、制度を別項で紹介しても良いと思った。これは、二つ目に挙げた方向性の問題かもしれない。
 ただ、1-8-10節のようなIR通過連絡かつのと鉄道連絡のような3社連絡の例を漏らさず書かれているところは素晴らしいと感じた。
 1-8節では割引の例は多かったが、連絡券の学割(鉄学)はあるが、社線だけ学割(社学割)の例がなかったり、鉄社学(復割鉄社学は2-5節にある)の例も挙げると良いだろう。このあたり同一記入例と違う例も挙げるのがよいのではないだろうか。

 これは二つ目と相反する内容だが、制度を重きを置くが、あっさりとこれも通過されるケースとして、1-10.4(P.60)の小児運賃端数整理(端数切り捨て)の例として西日本ジェイアールバス(西J)連絡があったが、JR鉄道線と西J自動車線の大人運賃を合算した運賃を1/2の端数整理する例であるが、 そのあたりの計算式は全く無く唐突に小児運賃1170円と与えられ、ここは制度がメインの話だったのがそれが省略されたり、改札補充券発行例の有効日数はすべて「営業キロおよび原券の有効日数を確認し」で済まされているは気になった。

 大きな点は3つ批評させていただいた。しかし現代の乗車券記入例としてほぼ唯一といってもよい完成度であり、この同人誌は趣味者なら一冊は持っておきたいと思う。しかしながら、上記の改善があったなら、さらにより良くなっていくと思う。
 今後もシリーズは続いていくので、今からワクワクしながら期待して待っている。

(本文敬称略)
(執筆日2023年8月22日時点、2023年8月10日初版を元に記載)
(是非お手持ちにこの本を持ちお読みいただければと思います)

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