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顔を覚えていないひとを探した夏

この夏、ある人物を探していた。私はその人物と、20年以上前に1度だけ会ったことがある。会ったというより、「見かけた」というべきか。ある知人の結婚式の2次会の席だった。その時、彼女はまだ小学生だった。

なぜ探していたかは、今はちょっと言えない。ただ、この夏私は、彼女を探さざるを得ない心理状態にあった。

とりあえず、googleで名前を検索してみた。苗字はとてもよくある苗字。下の名前も、まあまあよくある名前。ただ、名前の漢字には少しだけ特徴があった。

いやいや、あっさり見つかりましたよ。年恰好も同じ、SNSの中の笑顔にも面影があるじゃないですか。

本当は、人の顔を覚えるのは苦手な私。面影があるというのは、彼女の母親の、だった。その方とは、1995年から約15年間、年に一度か二度お会いする機会があった。私は、太陽のように明るい性格のその方のことが好きだった。

それから、ネットで見つけた彼女のSNSの記事をずいぶん読んだ。英語圏に住んだことがあり、流暢な英語を話す、父親が京都に住んでいる、趣味は世界中を旅すること、など共通点多数。ただ、直接の知り合いではない彼女のことを、私は多くは知らなかった。

ネットの彼女は5年前に大病を患い、それまでの仕事をきっぱり辞めていたことがわかった。住む場所を変え、不規則な生活、ジャンクフード満載の食生活も改め、栄養バランスを考えた手づくりのごはん、ヨガ、エコな暮らし…。

胸騒ぎがした。なぜなら、彼女の母親は、7年前にがんでお亡くなりになっていたから。彼女のブログには、自身が再発の恐れのある悪性腫瘍だったと書いてあった。さらに検索して、料理家として活動を始めた彼女のサイトをみつけた。

素朴だけれど美しそうな料理の写真が続いた後、数年前にぷっつりと更新が途絶えていた。ブログも、インスタも。体調が悪いのだろうか。心配になった。

執念深く、ネットの海を探す私。そして…。彼女のブログを、もう一度よくよく見直して気づいたこと。

え?三重県出身?

私が彼女に会ったのは東京。彼女の実家は山手線の内側にあった。

別人でした。

ちなみに、ネットで見つけた彼女は、ご結婚されて名前が変わったようで、同じ笑顔の詰まったSNSを無事見つけました。料理のサイトは閉鎖されてました。まあ、いろいろあるよね、いま。

よかったよかった。

そうそう、後日談。私が探していた本物の彼女は、物書きになっていました。本名で作品を出されていなかったから、見つけられませんでした。(古い知人に尋ねて、あっさり判明しました。(笑))

ご本人に連絡するつもりは、はじめからありませんでした。

コロナ禍でなければ、ここまでやりませんでしたね。ひと夏の人探しの話でした。

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