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創作室(投稿作品)

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創作の部屋です。
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#創作室

同じ月を見上げている

同じ月を見上げている皆既月食の夜に 赤茶色に翳った月が明るく輝き始めるのを見上げていたら、 子どもたちの無心なつぶやきをふたつ、思い出しました。 まるで無垢な自由律俳句のようなことば…。 一つは、 「お月さまー そこから海が見えるかー!」 これは、親友の広沢里枝子さんが、幼い子どもさんたちとの会話を綴った会話集 『あきと まさきの おはなしの アルバム '90(第四集)』の表題です。 元々は、「月に聞く」という題の、 まさき「あっ、おつきさま。われた おつきさまだ。オ

ボクのひみつきち

ボクのひみつきち童話の雑誌 くろひめ 第30号掲載(2021.9) #創作室 「おかえりー!」 ボクが赤いランドセルをゆらしながらしごとべやにはしっていくと 「ただいまー。学校、たのしかった?」 おかあさんはおかしそうにわらってくれる。 おねえちゃんもおにいちゃんもまだ学校。 雨だから、ともだちんちにもあそびにいけない。 つまんないな。 そんなときボクは、おかあさんのつくえの下にもぐる。 おかあさんは足がつめたい。 ホットカーペットをつけて、もうふにぐるぐるまきになっ

「熱気球ソラと火の神様」

「熱気球ソラと火の神様」#創作室 日の出時刻の4時半。渡良瀬遊水地(わたらせゆうすいち)は、青白い薄明かりにひっそりと静まりかえっていた。 土手の上では、熱気球チームのスタッフが黒い風船を空に飛ばす。風のチェックだ。風船は5分ほどかけて銀色の空に消えていった。 熱気球パイロットの辰之助さんは、ゲストを振り返ると、風速3メートル以下なので予定通り飛ばせることを力強く告げた。 「今日は予約がおひとりだったので、ソロ気球です。思いきり楽しんでください」 熱気球フリーフライト体験

「かわたれの灯り」

「うさぎのうしろ姿が、お祖母ちゃんと、お母さんに見えたの。 なんだか、ふたりとも、ほんわかたのしそうにしてるなぁ、って思ったら嬉しくて…」 結婚したばかりのきいちゃんが、ニコニコしながら朝子さんに贈ってくれたのは、つりがね型のガラスのランプでした。 起伏の穏やかな雪原に、大きなけやきが立っています。 長い吹雪がやっとやんだので、うさぎの家族が巣穴からでてきました。 2羽の白いうさぎが仲睦まじくよりそって、夜明けの空を眺めています。 三日月と星々のまにまに、銀色の雲がたなびい

「虹の滝」

うたはその名の通り、歌うことが好きだった。信濃の里山に嫁いでもうすぐ40年になる。目は見えないが、晩秋の森のような明るさの中でいつも朗らかに暮らしていた。 ところが、大切なひとと死別してからというもの、声を失ってしまった。かけがえのないひとだった。ある夜、とぎれとぎれの眠りの中で、自分を呼ぶふしぎな声を聞く。 「ウタ ウタ ココヘオイデ」 たえまない雷鳴のような滝のとどろき。そこから聞こえてくる呼び声には、会えるはずのないひとの気配があった。うたはおそれおののいた。でも