オズの魔法使いに隠された風刺

<オズの魔法使い>が製作された歴史的背景

これまで数多くの映画やミュージカルでも製作されたオズの魔法使いの物語(The Wonderful Wizard of Oz)を見ると、竜巻に巻き込まれたドロシーがオズという魔法の国の魔法使いオズに会うために旅に出て、かかし、ブリキの木こり、臆病者のライオンに会って友達になるというバラエティーに富んだ冒険の話を扱っている。ところで、この物語の裏には金本位制に対する風刺が隠されている。

これを理解するためには、しばし、19世紀末のアメリカの状況を見てみる必要がある。1893年アメリカの金備蓄量が底をつき、アメリカは金融恐慌に見舞われ、当時JPモルガンの助けを借りて、ようやく危機を免れるようになる。これにより、1896年の大統領選挙では、金と銀を一緒に貨幣として使用しようという複本位制の採択を要求する人物が登場するが、彼がほかならぬ36歳の年齢で民主党候補となったウィリアム・ジェニングス・ブライアン(William Jennings Bryan)であった。

彼はアメリカ西部と南部の農民を代弁して大統領候補受諾者の演説で、「あなた方は、労働者の頭にいばらの冠をかぶせてはいけない。あなた方は人間を金の十字架に釘打ってはいけない」と言って、複本位制の導入を主張する。この時、オズの魔法使いの著者であるフランク・ボーム(L. Frank Baum)は、金と銀の複本位制の施行を支持し、「オズの魔法使い」を通して、その時代の貨幣構造を含蓄的に風刺するようになる

<オズの魔法使い>に隠された風刺

オズの魔法使いでドロシーが出会ったかかしはアメリカの農民を、ブリキの木こりは工場労働者を、臆病者のライオンはウィリアム・ジェニングス・ブライアンを象徴する。そしてオズに向かう一行の行進は、1894年ジェイコブ・S.コクシー(Jacob S. Coxey)将軍の指揮の下、失業者たちが集まって、政府に5億ドルのグリーンバック紙幣発行と雇用創出を要求したコクシー軍の行進を象徴する。そして、魔法使いは、当時共和党とマッキンリー政権の実力家だったマーカス・ハンナ(Marcus Hanna)を象徴しているが、金オンスの魔法使いであった彼は、オンスの略であるオズの魔法使いとなった。

この小説の最後の部分では、アメリカ人を欺いた魔法使いと魔女の正体が暴露され、国民は、金と銀で構成された貨幣制度が施行されている世の中に安着するようになる。そして、その過程でかかしは自分がどれほど賢明な存在なのかを悟り、ライオンは自分の勇気を発見し、ブリキの木こりは金の斧と銀の剣によって新しい力の源をもらい、金と宝石で飾られた銀の油を持っている限り二度と錆びなくなった。そしてドロシーは彼女の銀のスリッパに魔法をかけてカンザスに戻るようになる。

しかし、このようなボームの風刺にもかかわらず、ウィリアム・ジェニングス・ブラインは共和党の候補者だったウィリアム・マッキンリーに敗れ、アメリカは1900年、金本位制を導入するようになる。

分かったときに深まる面白さ

このように物語の中に隠された歴史的背景を分かってみると、内容がより理解でき面白いように、真理も分かって悟ってみると、もっと理解でき面白く、有益なのである。聖書の中に隠された多くの比喩と象徴、そして歴史的な背景を分かって悟るとき、新たな発見が必ずあるだろう。

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