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週報81(2019.12.30〜2020.1.5)

本年最初の週報です。今年もどうぞよろしくお願い致します。今回は常体の随筆をもって新年の挨拶に代えさせていただきます。

・ユーセンの怪

読むのに根気のいる本に手をつけるとなると、自宅ではすぐに投げ出してしまうので、それ以外の選択肢を封じるために、しばらく離れていた懇意の喫茶店に行ってみたところ、聞き覚えのないクラシックのピアノ曲が流れていて、その上この曲が私の求める部分にいたく刺さったので、急いでiPadを開いてオンライン自動楽曲検索を使うも、該当情報なしと突き返されてしまったため、一応録音メモをとっておいた。

注文品が出来上がってカウンターへ取りに行く際、藁にもすがる思いで店のマスターに訊くと「BGMはU-senから流しています」ということであった。実は店の主人に特別な音楽鑑賞上の造詣があって、独自に拵えたプレイリストで店の雰囲気を高雅なものに染めなすものではないか、と密かに期待していたもののこの望みはあいにく絶たれた。

しかし、ただで起きては示しがつかないので、無線端末を活用して何のかんのと調べてみると、U-senで流された曲は日付と時刻を指定すれば当日当所で放送されていた楽曲をまさに一点集中で把握しうるらしいことが分かった。マスターによると店内放送は「カフェ・ミュージック」というチャンネルに合わせていて、あとは流しっぱなしと云うが、このチャンネルを調べるとボサノバの名曲ばかりが出てくるので、どうも勘違いをしているらしい。

そうなると、精確なチャンネル名を知らないことには始まらない。まずはshazamを使って、今流れている店のBGMを検索し、検出された曲名をU-senのHP上でさらに検索する。それでようやく、放送中の曲がどのチャンネルから発信されているかを突き止めるに至る。

結局、怪というほどのものもさしてなかったのだが、店で流れている曲との出会いは偶然のもので、さらにこれを気にいるかはもう一つ分からない。それだけに、どうやってこの曲の素性を知ろうかという気持ちも強くなる。こういう「出会い方」という要素も、曲の要素の大切な一部ではあるまいかと思うようになってきた。

レンタルショップのヒットチャートやストリーミングサービスのAIを活用することによって、そのリスナーにとっての最大効率で音楽との出会いを招来しようという赴きなのだが、これらサービスの性質上、次々と曲を勧められるのが常態であるため、未知の音楽との出会いに付随する感動のいかならんやと、そのことを考える。

冒頭の私の体験では、音楽を聴きに来たわけではないのに、良い音楽が流れてきたという偶然性も相まって、一つの音楽体験が提供されたのだが、こういうドラマ性は意図して得られるものではない。むしろ意図した途端にドラマ性は失われてしまう。

出会いの怪ならざるあらんや。
人為の分を知る必要がある。

※Shazam
空間中に供されている楽曲の情報を検索し表示するアプリケーション。

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