愛し下手
「ごめんね」
私の表情に何も浮かんでないと、悲しそうにいう。そんな気持ちにさせてしまった事に私はもっと悲しくなる。
そんな時の彼は、チャームポイントでもウィークポイントでもある、人よりも大きな体が一回りくらい小さく見える。
その言葉をいわせてしまう時、大抵何も悪いことなどなく単純に私は無意識に無表情なのだ。
一緒にいると彼は小間使のように始終私の表情を伺う。
嬉しい顔も悲しい顔も元気のない顔も、表情の変化が何かあるとその変化に合わせて一生懸命彼自身の対応を変化させる。
仕事をしている時は、自信過剰なくらい自信満々なのに、私の前ではその自信はほぼ0に近い。
「嫌われたくない」という彼の思いが彼の心を通り越して私の御世話を一生懸命してくれている彼の姿から私にまで伝わる。
そんなひたむきな愛情に、たまにいたたまれなくなる時がある。
そんなふうにしなくても、愛はあるのに。
私の知らない誰かが、彼のことを傷つけた事を私は知っている。
「こうすると愛されない」という過去の呪縛から彼は無意識に逃れられていない。
だから過剰に私の表情を伺おうとする。
彼の過剰な気遣いは、彼自身の傷を見ているようで辛くなるのだ。
私は「そんなことする必要ない」と一生懸命伝えているがなかなか届かない。
そしてあまりの彼のひたむきさに、私はたまにいらいらしてしまうのだ。
そしてそんな感情を持つ時、彼のあの悲しそうな顔が浮かんで私はやりきれない気持ちになる。
そして、彼が過去の呪縛から少しでも解放されるように、イライラした感情から起こる言葉ではなく、愛の言葉を伝える。
人を愛することは難しい。
彼も私もお互いのことを思いあっているはずなのに、愛し方は下手くそだ。
楽に愛し合えるようにもっと努力が必要みたいだ。
「ごめんね」と悲しい顔で彼が言う必要がなくなるように。
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