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蛍光色の彼

大学のお昼は、どこにこんな人が隠れていたのかというくらいわらわらと食堂に人が密集する、みんな同じような格好をして。女の子は茶色とかデニムの短いんだか長いんだかわからないキュロットやふんわりしたスカートに白や黒などのふんわりしたブラウス。男の子は白いシャツにチノパンとか黒のショーツ。そしてただ授業に出るだけなのに無駄に機能性を重視して選んだであろうリュック。

なんでみんな同じ格好するんだろう。大学には校則とかってあるっけ?といつも私は錯覚する。

そんな似たり寄ったりの大学生の中でひときわ彼は目立つ。

みんな白とか茶色とか保護色みたいな色ばっかり着ている中で彼は、「俺を見てくれ」と言わんばかりに眩しい。彼はこの保護色の世界では異端児だ。なぜなら彼は蛍光色のシャツを着用しているのだ。そんな彼の存在に気づいたのは今週初め。

私が美味しく398円の唐揚げ定食を食べていると彼が目線の先にちらちら入ってくる。もうその色うるさいよ。

でも彼の服装に目が行きがちだが、よく見てみるとひょろりと細長い体ににあっさりした塩顔がのかっている。今人気の若手俳優に似てるかも、なかなかイケメン。

この1週間、彼を見るたびに私は目で追い続けている。

そうしていると彼の目線と私の視線がぴったりあった。ビクンと心の振動が体の外まで出てきたみたいに綺麗に体が揺れる。

うん、一瞬だからバレてない。大丈夫。

私の心臓を落ち着けようとする脳みそと裏腹に蛍光色の彼はずかずかと歩いてくる。

「ねえ」

ビックーンと初めて目があった時の3倍くらい心が揺れた。震度でいうと6くらい。もう脳みその「落ち着け」という指令は私の心まで届かない。

「いっつも俺のこと見てるよね?なんで?」

心は震度3くらいの余震が続いている。私の心の揺れは蛍光色の彼に伝わってないだろうか。

「え?そうかな・・・」

「いやめっちゃ見てるじゃん。俺今週だけで君からの視線を4回くらい感じてるんだけど」

ずっとバレていたのか、さすがに恥ずかしすぎるぞ、と心の中に冷や汗をかく。

「いやあの、変とかじゃないの。」

「そうなの?じゃあなんで見るの?」

「いや、あの」

脳みそは寝てしまったのだろうかと疑うほど、心の動揺がそのまま言動に現れる。もう脳みそは頼りにならないのでストレートに聴いてみる。

「服の色、どうしていつも蛍光色なの?」

「は?」

小さな目が少しだけ開いて眉間にしわがよる。

「驚き」と「困った」が顔の中でミックスされてキュートだなと思う。

「変?普通だと思って着てるんだけど。」

「変ではないけど、目立つよね。」

もうこの際なので超豪速球のボールくらいの勢いの正直さを彼にぶつける。

「これ目立つのか。」

「え!?だって蛍光色だよ!?」

この発言に私の表情も「驚き」と「困った」が顔の中でミックスされていたと思う。

果たして私のその表情キュートだろうか。もしかしたら驚きが表情の7割占めている気もするので気持ち悪いかもしれない。

そんなことを考えていると彼は左に目線をやって口がもぞもぞ動く。

「うーん」

と迷った結果、ため息をついて、彼は渋々口を開く。

「俺さあ、色の区別があんまりつかないんだよ。色弱っていうのかな?これって俺にとってはベージュみたいな色の服を着てるつもりで。」

「・・・・」

私は唖然としてしまって何も言えない。びっくりしてしまったのだ、自分の想像力の無さに。

「いや、俺にとってはこの世界が普通なんだよ。」

「・・・うん。」

「でもさ、みんな多かれ少なかれ色弱とは言わなくても見えているものが一緒なわけなんてないとおもう。君が着ているその白だって、君の仲良しが全く同じ白だと思って見てるかな?」

私は相変わらず何も言えなかった。私は今この世界で一番正しいことを聞いている。

彼はその後も私が何も言えないことを確認して、両眉毛をあげてこう続けた。

「それだけ?まあ蛍光色で目立つかもしれないけどそういう事情だからさ。ま、また授業とかであったらよろしくね」

そう言うと、くるりと踵を返して蛍光色の彼は保護色の世界に消えていく。彼の周りに取り巻く保護色の世界を食堂に来たばかりの時は私は同じ色としてしか見ることが出来なかったが、各々少しずつ違う色に見える気がする。
そしてそんな保護色の世界の中でも蛍光色の彼の後ろ姿は、この1週間で1番私にとって眩しいものだった。

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