ファッション雑誌の校正

ファッション雑誌の校正をやっていた頃、周囲の人から「写真ばかりなのに何を校正するんですか?」と聞かれたことがある。単行本のように活字が多いものは「校正」をするイメージがあるのだろうけれど、モデルさんの写真や、モードな洋服の写真を見て校正をすることは想像できなかったのかもしれない。

しかし、雑誌も所詮「人」が作っているもの。実際は色々なことが起こるのである。締切前に目を真っ赤にして徹夜状態で仕事をし、タクシーでの朝帰りは当たり前、という生活の中で作られる雑誌にミスが起きないわけがない。皆、本当に必死にやっているものの、人間には限界というものがある。やっぱり目がショボショボしていて見落としたり、睡眠不足が原因で頭が朦朧としていてあり得ないミスをしてしまうのが現実である。だからこそそれを徹底的に見つけるのが校正の仕事となる。

「最先端のミラネーゼのシューズ特集:イタリア職人のワザが光るシューズ」なんていう記事があって、山のような靴の写真が載っているとする。下の方には「写真1:○○ブランド、カラー:レッド、ブラックの2色、ヒール:7センチ、価格:50,000円」などということが書いてある。文字だけ見ると何もおかしくない。美しいネイビーの靴の写真は惚れ惚れするほどだし、その横に書かれた「立ち仕事が多く、アクティブなあなたにも足が疲れずピッタリ」というキャプションは、「足が疲れないなら、通勤にもいいかもなー」などと共感をよんだりもする。

ここで校正者は本領を発揮する。色はレッド、ブラック2色って書いてあるのに、ネイビーの靴の写真っておかしくない? ヒール7センチって書いてあるのに、立ち仕事でアクティブなあなたにピッタリっておかしくない? という具合にツッコミを入れることになる。更にはその写真がローファーだったりすると、「ヒールはせいぜい2センチくらいにしか見えませんけど…」というツッコミも沸き、おまけに「イタリアの職人のワザが光る」って書いてあるのに、ブランド名が英国のトップブランド名だったりすると、それについてもすぐさまツッコミを入れることになるのである。

「このようにして、単独で読んでおかしくないけれど、よく考えるとおかしいことを発見し、ツッコミ(編集者への質問を出す)を入れるのが仕事と言える。読者として雑誌を読む時は「へぇ~」「カワイイ❤」というくらいの感覚でしか読まない(眺めない)けれど、いざ「作る」となれば、それはもう、当然ながらぼんやり眺めるだけでは済まされない。書かれていること、掲載されていることを疑ってかかり、何かおかしな点はないかと粗さがしをすることになる。

仕事をしていて思うのは、「嫌いな人が書いた記事」だと思うと仕事のクオリティーがあがるということ。何とかミスを見つけてギャフンと言わせてやりたい。重箱の隅をつついて、細かいミスをあげつらって指摘してやりたい。鬼の首でも取ったかのように「ミスですよ!!」と嫌味の一つも言ってやりたい。そういう意地悪な気持ちで取り組むと非常に仕事はスムーズになる。うっかり書いてあることを信じてしまうと絶対にミスは見つからないからだ。そう考えると、編集者を続けると、とてつもなく性格が悪くなるのではないかと思えてきて、心底不安になってくるのである。


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