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【歴史のすみっこ話】漢字、危機一髪10~使用上の注意事項~[1981文字]

漢字に関する主査委員会』は、1946年(昭和21年)10月16日に審議を終えて、1850字からなる新しい常用漢字表をとりまとめ文部大臣に答申しました。

1か月後の1946年(昭和21年)11月16日に政府は内閣総理大臣吉田茂の名のもと、『当用漢字表』の名で内閣訓令として官報に掲載します。

内閣訓令ついて、阿辻哲次氏は以下の様に説明してくれています。

ここにいう訓令とは「上級官庁が下級官庁の権限の行使につき、これを指揮するために発すつ命令」であり、「内閣訓令」は内閣総理大臣が政府部内での実施を指示する命令である。これによって内閣の指揮系統に位置する各行政機関は、それ以後この範囲内で漢字を使用しなければならなくなる。
(中略)
しかし、内閣訓令は法律ではないから、直接に一般国民を拘束したり、強制力をもつものではない。

『戦後日本漢字史』著:阿辻哲次より引用

とはいえ、学校教育の場では『当用漢字表』に基づいて教育が行われるわけですし、新聞や出版物はこれに準じて漢字を使おうとするはずなので、むしろ影響は大きいと思うのですが。

そして1948年(昭和23年)2月16日に「当用漢字別表」(義務教育期間内で読み書きできるよう指導する必要がある漢字を定めたもの)と「当用漢字音訓表」が、1949年(昭和24年)4月28日に「当用漢字字体表」が、内閣訓令・告示として公布実施されます。

ところで、今まで「常用漢字」と表記されていたものが、「当用漢字」という名称で公布されていますが、この当用とはどういう意味なのでしょうか。

阿辻哲次氏は「当用漢字」を「まさに用いるべき漢字」の意味と受け取っていたようですが、「さしあたって(しばらくの間、当面)用いる漢字」という意味だったようです。

今回、終戦直後の国語施策に関する議事録を調べてみて、それが山本有三による「日用の使用に当てる漢字」という意味での命名であることを知り、あらためて不思議な感覚にとらわれた。
「日用の使用に当てる」ことを「当用」と表現することも、漢文の語法ではありえないのだが、その時代の「旧時代の文化の残滓」である漢文に関する知識などまったく相手にされなかった、ということなのだろう。

『戦後日本漢字史』著:阿辻哲次より引用

少々嫌味っぽい言い方のような気もします💦。
確かに、「日用の使用に当てる」ことを目的とする漢字ならば、「当用漢字」ではなく、「日常漢字」の方が伝わりやすいように思えますが。
 
もっとも、「日用の使用に当てる」からこそ、時間の推移によって使われなくなる漢字も出てくるはずなので、おりおりに漢字表を見直すから「当用」としたのかも知れません・・・・・・知らんけど (´-`)。

「当用漢字」にかかわる、昭和二十一年十一月十六日の内閣告示第三十二号はまず、「現代国語を書き表すために日常使用する漢字の範囲を、次の表のように定める」と述べる。「現代国語」が主対象であることがはっきりと謳われている。理念を知るために、「まえがき」と使用上の注意事項を次にあげておこう。

「常用漢字の歴史」 著:今野真二より引用

ここで書かれている「現代国語」は、ざっくり言えば「現代の日本語」という意味とボクは理解しています。
 
「内閣告示第三十二号」のまえがきは5つありますが最初の2つが重要だと思いますので、それのみを引用いたします (´-`)。

一、この表は、法令・公用文書・新聞・雑誌および一般社会で、使用する漢字の範囲を示したものである。
一、この表は、今日の国民生活の上で、漢字の制限があまり無理がなく行われることをめやすとして選んだものである。

「常用漢字の歴史」 著:今野真二より引用


続いて、「使用上の注意事項」ですが、こちらが重要だと思いますので、全てを引用いたします。

使用上の注意事項
イ、この表の漢字で書きあらわせないことばは、別のことばにかえるか、または、かな書きにする。
ロ、代名詞・副詞・接続詞・感動詞・助動詞・助詞は、なるべくかな書きにする。
ハ、外国(中華民国を除く)の地名・人名は、かな書きにする。ただし、「米国」「英米」等の用例は、従来の慣習に従ってもさしつかえない。
ニ、外来語は、かな書きにする。
ホ、動植物の名称は、かな書きにする。
へ、あて字は、かな書きにする。
卜、ふりがなは、原則として使わない。
チ、專門用語については、この表を基準として、整理することが望ましい。

「常用漢字の歴史」 著:今野真二より引用


1981年(昭和56年)10月1日
に『常用漢字表』が内閣訓令・告示として公布実施され、当用漢字表はその役目を終えますが、当用漢字表による教育を受けた方も、多くおられるのではないでしょうか。

次回から、当用漢字表の使用上の注意について、書かせていただこうと思います。
最後までおつきあい頂きありがとうございました。

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