西暦で見た幕末・維新(9)~余談:「異国船打払令」復活の検討・見送り~

■はじめに
歴史に対する見解は諸説あり、異論・反論もあるかと思います。
これはボクが読んだ書籍等から、そうだったのかもと思ったものです。
ですので、寛大な心で読んでいただければ嬉しいです。
また年代・人名・理解等の誤り等のご指摘や、資料のご紹介をいただければ幸いです。
では、始めさせていただきます。


徳川御三家。
徳川家康が将軍家に男子が生まれなった場合に備え、徳川の血を絶やさないようにするため、自らの子供3名の系統から将軍を出せるようにした制度となります。
御三家とは具体的に言うと、尾張徳川家、紀伊徳川家、水戸徳川家です。
(※水戸徳川家は御三家に含まないという説もありますが、ここでは、水戸徳川家も含むこととします)

水戸徳川家は御三家の中で一番石高が少なく(尾張・紀伊に比べ半分以下)、尾張・紀伊の官職は大納言に対して水戸は中納言、しかも参勤交代は免除されていて常に江戸藩邸に居住することが義務付けされる(水戸に帰るときは許可を得ないといけない)という制約付きでした。
なぜ水戸徳川家だけがこのようになったのか、ちょっとわかりませんが。

ともあれ、この水戸徳川家で幕末において強烈な存在を示すのが、最後の将軍徳川慶喜の父親でもある、徳川斉昭です。
藩政改革を進め、北海道の開拓や大船建造を解禁させるべきなどの意見を幕府に進言するなど、有能な藩主としての側面もありますが、それゆえに煙たがれたのか、時の将軍、徳川家慶の意を受け、強制的に隠居させられるなどの処分を受けたりもしています(のちに許されますが)。

老中筆頭、阿部正弘はこの徳川斉昭の能力を高く評価していたようですが、それが徳川幕府にとってよかったのかどうかは、意見が分かれるように思えます。

将軍徳川家慶が、1842年(天保13年)に出した「薪水給与令」(外国船に燃料や水を補給させることを認め、穏便に退去してもらう)を再び、「異国船打払令」を復活させようとしたことが1846年にありました。この復活の件に関して、徳川斉昭が関与しているという説があります。(おそらく同年に東インド艦隊司令長官ビッドルに率いられた軍艦2隻が来航したことに影響を受けてと思われます)

しかし、時の老中首座・阿部正弘はその動きを事前に察知してか、ビッドルが素直に退去した二日後に、海防掛、三奉行、阿部正弘の政策ブレーンのひとりともいえる、長崎奉行も歴任したことのある筒井政憲に、「薪水給与令」を「異国船打払令」(無二念打払令ともいう)に戻すべきか否かを検討するよう指示していたのでした。

ここで正弘が言っていることは、二日前ビッドルの軍艦二隻は無事に帰航したことは幸いだが、このあと薪水給与令を無二念打払令に戻すべきか否か、いったん改めたものをふたたび改めるには何かの名目が必要である、海岸防禦(ぼうぎょ)には並々ならぬ費用がかかる、かといってやりかけたものを中途で止めるようなことがあってはならない、ということである。
いずれにしても、これ以上たびたび「夷船」が乗りよせないようにしたい。それについて打払令復活以外にもなにか「心附」、アイデアがあれば申し出よと、これが正弘の達しである。とくに自分の考えを具体的に述べてないが、暗に完璧な海防は財政上困難であることを示唆している。

開国への布石―評伝・老中首座阿部正弘

これに対し、筒井政憲は条件付き賛成、海防掛は反対の結論を出しています。

筒井政憲の条件付きの条件とは、異国船が先の攻撃した場合に限り、となります。(難破船などは除外とする前提と思われます)
その場合は、農兵(農民に戦闘訓練をさせ海防の兵力とする)を活用し、異国船が来襲し上陸した場合の最初の防御として時間をかせぎ、続いて武士集団の兵力をもって打ち出すということと、新たな台場(砲台)の建設でした。
そして「異国船打払令」を復活させるのならば、オランダを通じて諸外国に宣言しておけば、異国船が勝手に日本沿岸に来ることもないだろうと意見を述べます。

対し、海防掛は「異国船打払令」復活には、異国の軍事力に対抗できうる海岸防禦力が整い、軍艦をもって戦えるようになるまでは無理という考えでした。(しかし軍艦を持つとなると膨大な費用がかかるため実質できないと言ってるようなものでしょう)

結論として老中首座、阿部正弘は「異国船打払令」復活を見送るとの結論を出しました。
しかし、これ以降もたびたび、各地に異国船が現れることがあり、二度三度と「異国船打払令」復活の議論は行われたようですが、ペリー来航時も「異国船打払令」が復活していないことからみて、いずれも復活は見送りとなったのでしょう。

しかしそれが結果的にはペリー来航時に、戦火を交えるという最悪の結果を回避できたことにつながったのではないでしょうか。


■引用・参考資料

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