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【歴史のすみっこ話】E・A・ポー、C・ディケンズと会う(1334文字)

雑誌「グレアムズ・マガジン」1841年4月号に『モルグ街の殺人事件』を著し、ミステリー小説の祖と呼ばれるアメリカの幻想文学作家、エドガー・アラン・ポー。

彼がこの短編で創造した名探偵オーギュスト・デュパンは、当然ながら世界で最初の名探偵となります。

ちなみに、デュパンという名前は、元犯罪者(変装・脱獄の名人)という異質の経歴をもつ、フランスはパリ警視庁(正確にはその前身組織)の初代長官、ウジェーヌ・フランソワ・ヴィドックの「ヴィドック伝の未完の章句」第一シリーズ『マリー・ロラン』に登場する女性主人公マリー・デュパンから借用したものといわれているそうです。
(『文壇の異端者「エドガー・アラン・ポー」の生涯』 宮永孝(著)参照)
こちらは、そのヴィドックの評伝です。


そして『クリスマスキャロル』・『二都物語』など数々の名作を著し、その死によって未完となったミステリー作品『エドウィン・ドルードの謎』を書いたイギリスの文豪チャールズ・ディケンズ。


ポーとディケンズ、この両者がアメリカで会ったことがあるという話を、『文壇の異端者「エドガー・アラン・ポー」の生涯』で知りました。

時は1842年。
チャールズ・ディケンズは講演旅行でイギリスからアメリカへと渡ります。

エドガー・アラン・ポーは、自身が住むフィラデルフィアの有名ホテルのユナイテッド・ステイツ・ホテルに、ディケンズが宿泊していることを知ります。

このまたとないチャンスに、ポーはディケンズと会い、自分の作品を売り込むことを思いつきました。

さっそく手紙に、ディケンズが発表中の『バーナビー・ラッジ』の今後の展開の予想を書き、そして彼自身の作品『グロテスクでアラベスクな物語』二巻と一緒に、ディケンズのもとに送ります。

ディケンズはポーに会ったことはありませんでしたが、その存在は知っていました。

1841年2月、ある雑誌にポーが、ディケンズが連載していた小説『バーナビー・ラッジ』の結末予想を発表したものを読んでいたのです。

読者や作者自身が非情に驚いたことは、ポーがこの小説の結末を予言したことである。
「この男は悪魔にちがいない」と、この有名なイギリス作家は思った。

『文壇の異端者「エドガー・アラン・ポー」の生涯』 宮永孝(著)

手紙と寄贈本を受け取ったディケンズは、ポーに以下の返事を書きます。

一八四二年三月六日
ユナイテッド・ステイツ・ホテルにて

拝啓ーいつでもご来訪を賜れば、喜んでお目にかかりたいと思います。
十一時半から十二時までの間が、一番都合が良いように思われます。
ご親切にもお送りいただいた本に、ざっと目を通しました。
とくに雑誌の方に注意をひかれました。
そのためぜひともお目にかかりたく存じます。

『文壇の異端者「エドガー・アラン・ポー」の生涯』 宮永孝(著)


かくして、英米の二人の作家が邂逅します。
イギリスで自分の本を出版したいと思っていたポーは、ディケンズにイギリスの出版社の紹介を頼みます。

ポーに好印象を持ったディケンズは、イギリスに帰国したのち、いろいろと出版社とかけあったようです。
ですが、残念なことにディケンズの骨折りは実を結びませんでした。

とはいえ、ポーとディケンズ。ミステリー小説創成期に名を残す英米の文豪が出会っていたとは、ちょっと驚きでした😮。

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