[日々是読書]原爆不発弾 ~藤村 正太~【2291文字】
ご注意
以下に『原爆不発弾』のストーリーの一部についてネタバレをしています。未読のかたはご注意ください。
『原爆不発弾』は、戦後30年となる、昭和50年(1975年)に出版された(現在は絶版)、乱歩賞作家藤村 正太氏の推理小説です(⦿_⦿) 。
ふと思ったのですが。
この本が出版された昭和50年(1975年)前後は、召集されて戦場に行った人や空襲を受けた人と、戦後に生まれて育ってきた戦争を知らない世代の人とが、普通に会社の職場で机を並べて働いていたわけですね。すごいジェネレーション・ギャップがあったんですね(⦿_⦿) 。
さて、『原爆不発弾』ですが。
読んだことがないものの、作品自体の存在は、かなり以前から知っていました。
映画『オッペンハイマー』のヒットを受けて、この作品にもスポットライトが当たるかな~と思ったのですが、現時点で取り上げられていないようです。う~む、忘れられた作品なのかな?(⦿_⦿) 。
せっかくなので、図書館で借りて読んでみました。
あ、ちなみに映画『オッペンハイマー』は観てません(⦿_⦿) 。
■あらすじ(本書より抜粋)
あらすじに書かれている『現実の事件の見事なフィクション化』とは何を意味するのでしょうか。気になりますね(⦿_⦿) 。
本書にある『作者の言葉』と『あとがき』から引用します。
つまり、『現実の事件』とは、『長崎に投下された原子爆弾の補助兵器の中に、オッペンハイマー博士から嵯峨根遼吉(さがね りょうきち)教授にあてられたメッセージが一通はいっていて、佐世保鎮守府で焼却された為、教授には届けられなかったこと』を指しています。
ところがですね、ボクがネットで調べたところ、半分は正しくて半分は違うようなんです。
長崎への原子爆弾投下の際に、直前にラジオゾンデ(放射能などを観測する装置)がアメリカ軍によって3器降下されており、3器とも日本軍が回収しています。(2器は戦後に米軍へ引き渡され、1器は長崎平和資料館が所蔵)
3器の装置の中には、日本の物理学者・嵯峨根遼吉(さがねりょうきち)教授にあてた、マンハッタン計画参加者の三名の学者の連名になるメッセージが入っていました。それは事実です。
ただし、藤村正太氏が書かれているようなオッペンハイマー博士からのメッセージではありません。
また、メッセージは焼却されることなく、終戦後に物理学者・嵯峨根遼吉(さがね りょうきち)教授に届けられています。
これが、ボクが『半分正しくて半分違う』と書いた理由です。
では、メッセージを誰が書いたかと言うと、wikiによれば、ノベル賞受賞学者のルイス・ウォルター・アルヴァレズらとなっています。
(ちなみに、ルイス・ウォルター・アルヴァレズは映画『オッペンハイマー』に登場し、アレックス・ウルフという俳優が演じておられるようです)。
嵯峨根遼吉(さがね りょうきち)教授は昭和10年から昭和13年の3年間、イギリスとアメリカに出張しています。
アメリカではカルフォルニア大学・アーネスト・ローレンス教授のもとで研究をしており、その時にルイス・ウォルター・アルヴァレズらと知り合ったのでしょう。
メッセージの中身は、日本が尚も戦争を継続するのであれば日本の全都市が原子爆弾投下で滅んでしまうため、降伏するように、日本の指導者に働きかけてほしいといった内容です。
このメッセージが、同僚であった科学者たちからの純粋に善意からくるものなのか、アメリカ軍による日本国民への心理攻撃で撒かれた脅迫ビラと同種のものなのか、判断が悩ましい所ではありますが。
本書『原爆不発弾』では、メッセージの内容について、このように書かれています。(実際のメッセージはもっと長いのですが)
本書のフィクション部についてですが。
疾走する車から突き落とされ死亡した、「萩」原子力発電所反対運動の指導者・時田亮輔の残したダイイングメッセージ、「ゲンバ・・・フハツダ・・・」は、原爆不発弾を意味せず別のことであるという展開になっています。
そして、事件の真相を求めて、科学部記者・江島功が時田亮輔の過去を探ると、時田亮輔は学徒出陣で昭和二十年四月に長崎の第二十一海軍航空廠に赴任していたこと、そして原爆投下後にメッセージの入ったラジオゾンデの回収に関わっていたことが分かる。
さらにラジオゾンデにはもう一通、オッペンハイマー博士からのメッセージが入っていたのだった・・・。といった感じのストーリーになっています。
もちろんフィクションですが、ちょっと話を膨らませた後の、話しのまとめ方が、やや消化不良な感じです。
また、原爆や原発の説明にページがさかれているのも、本書の特長といえるでしょうか。
(当時この作品が、社会的にどのような評価をされたのか興味深いです)
本書で使われているアリバイトリックは科学的な物理トリックで、ミステリーとして傑作というわけではありませんが、扱われているテーマを考えると、絶版となっていて気軽に読めないのは、少々もったいないのではと思う作品でした。
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