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[読書紹介]~「喉切り隊長」 ディクスン・カー[1770文字]~

海外の長編本格ミステリーの黄金期」というと、おおよそ1920年代~1930年代をさすのではないかと思います。
 
本格ミステリーの三大作家と称される、アガサ・クリスティー、エラリイ・クイーン、ディクスン・カーの代表作の多くはこの時期に集中していますね😃。

今回は他の二人に比べるとイマイチ知名度が低いディクスン・カー1955年に発表した歴史ミステリー「喉切り隊長」を再読してみました😃。

学生時代に一度読んだのですが、細かいところをかなり忘れているので、再度、読んで見ました^^;。 
尚、学生時代も今も、「喉切り隊長」は安定して絶版状態なので、図書館で借りました😅。amazonでは高値ついてるなぁ^^;。

1930年に弱冠24歳でデビューし、不可能犯罪とオカルティズムにどっぷり浸った数々の傑作・怪作(?)を精力的に世に出したディクスン・カーは、1950年代に入ると歴史ミステリーを書くようになります。

この「喉切り隊長」も、ディクスン・カーの歴史ミステリーの系譜に連なる作品で、舞台はフランス、小説内の時間は1805年8月です。


あらすじ:
イギリス・フランス間で戦争が再開されると、フランス皇帝・ナポレオンイギリス本土進攻作戦を立案、20万余の将兵をフランスのブーローニュに布陣する。

しかし、英仏間の海峡は潮の干潮の差が大きい上に天候が変化しやすく、さらに強力なイギリス海軍が制空権を握っていたこともあって、作戦の実行は遅れに遅れます。
 
 このため、フランス軍の軍規は弛緩し、皇帝に対する不満と厭戦気分が広がって、誕生後まのないナポレオンの帝国は早くも危機に見舞われます。
 
 折も折り、ブーローニュの陣地内に夜な夜な殺人鬼が現れて、次々と歩哨を殺しては〝喉切り隊長“ と署名した書きつけを現場に残していくという事件が起こるのです。戦意の衰えた陣営内はパニック状態におちいります。
 
 皇帝は時の警務大臣ジョゼフ・フーシェ(四十六歳)に、喉切り隊長の正体をあばいて、七日のうちに軍務局へ引き渡せと、きびしい命令を下します。

「喉切り隊長」訳者あとがきより

皇帝ナポレオンからの命を受け、警務大臣のジョゼフ・フーシェ捕獲したイギリス人のスパイ、アラン・ヘップバーンに、喉切り隊長の正体をつきとめさせようとするのだが・・・。


感想:
学生時代にこの小説を読んだ時は、皇帝・ナポレオンは稀代の陰謀家であるジョゼフ・フーシェを心の底から嫌っていながらも、その手腕を認め重用せざるを得なかったという両者の複雑な関係性をあとがきで読み、へぇー😮と思ったものでした。

ところで、本格ミステリ創作の指針となる決まり事として、ミステリー作家で大司教でもあるロナルド・ノックスが定めた「ノックスの十戒」なるものがあります。
その最初にかかれているのが以下のものです。

1.犯人は、物語の当初に登場していなければならない。
  ただしその心の動きが読者に読みとれている人物であってはならない。

ノックスの十戒より

同様にアメリカのシステリー作家、ヴァン・ダインが定めた「ヴァン・ダインの二十則」の中に、このようなものがあります。

10.犯人は物語の中で重要な役を演ずる人物でなくてはならない。
   最後の章でひょっこり登場した人物に罪を着せるのは、
   その作者の無能を告白するようなものである。

ヴァン・ダインの二十則より

要は、犯人は物語のなるべく早い段階で登場させるべきであり最終章でようやく登場するのは論外やろ、また通行人のようなガヤに近い登場人物が実は犯人でしたはあかんやろ、ということです。
まぁ言ってることはわからなくもないのですが^^;。

なぜこのようなことを書いたのかというと、ディクスン・カーは、この掟を破りつつ、本格ミスリーとして成立させるというくわだてを「喉切り隊長」でやってみたかったんだろうなぁと思うからです^^。

ネタバレになるのでこれ以上は書けませんが、その試みは、まぁ成功したのではないかと思います。
だからといって、「喉切り隊長」が歴史ミステリーとして手放しで面白いかというと・・・ではありますが😅。

絶賛絶版中の「喉切り隊長」ですが、いつの日か復刊した際に、読む機会があればディクスン・カーの企みを味わって頂ければ、と思います😌。

「なんじゃ、こりゃ」と怒られるかもしれませんが😅。

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