[クラシック・ミステリ紹介]『T型フォード殺人事件』広瀬正~(1878文字)
昭和の時代、広瀬正[1924年9月30日 - 1972年3月9日]というSF作家がいました。
ジャズ・サックス奏者でもあり、(SF的作品が多かったからでしょうか)創成期のテレビアニメ『ビッグX』、『宇宙エース』、『W3』、『マッハGoGoGo』などの脚本にも参加しています。
本格的な作家活動が1970年から急死する1972年まで、という極めて短い期間ながら、64回・65回・66回と連続して直木賞候補となり、司馬遼太郎からは絶賛されるものの、いずれも受賞に至りませんでした。
その広瀬正氏の遺作が、本格ミステリ中編「T型フォード殺人事件」(1972年)です。
松本清張の登場以降、旧来の探偵小説は徐々に勢いを失い、社会派推理小説と呼ばれたミステリが全盛を極めていた昭和40年代に書かれた本格探偵小説のひとつが本作です。
作品が書かれた1972年の現在から物語は始まります。
保存状態のよいT型フォード(1924年製のクーペ[二座席の密閉車体])を手に入れた富豪が友人たちを屋敷に招いて、そのT型フォードにまつわる、46年前の昭和2年に起きた密室殺人事件の謎に挑むのだが、そこでまた事件がー、というのが物語の大まかな骨子です。
鍵のかかったT型フォードの中にあった死体。鍵は持ち主が持っており、合鍵は無かったにもかかわらず、どのような方法で犯人はT型フォード内に死体を閉じ込めたのか、そして犯人は誰なのかー。
ちなみにT型フォードのTは設計番号で、フォード社の創業者、ヘンリー・フォードが1903年に最初に販売した車がA型で以降設計を変更するたびにB型、C型と名付けていき、1908年から発売されたのがT型となります・・・といったことが、この本に書かれてました。はい、受け売りです😆。
T型フォードを用いた密室トリックは、作中で登場人物が「じつは、これは、江戸川乱歩の『幻影場』の類別トリック集成の中にある方法なのです。でも、ちょっとふつうの人にはわからないでしょうね。盲点をついたやりかたなのです」と言及していて、乱歩の『幻影場』を読んでいたボクは、本作品を読み終えた後にようやく、なるほど元ネタはあれかぁとわかりました💦。
このトリックを成立させるために、広瀬正氏は・・・(以下ネタバレのため省略)などと思ったりしました🤔。
尚、広瀬正氏はトリックの手がかりを、ちゃんと作中に示してくれていますが、読んでいる時には気づきませんでした😅。
半世紀前のミステリなので、登場人物の言葉遣いやストーリー運びなど、やや古めかしいところはありましたが、クラシックな本格探偵小説として味わえました😊。
また46年前の昭和2年の事件が扱われていて、その当時の社会風俗描写があり(大正13年生まれの作者にとって、生まれる前の時代ではなく、空気を感じながら育った時代ですね)、へぇー😮と思うこともありました。
横溝正史・角田喜久雄などの終戦直後に書かれた本格探偵小説が好きな方以外にはあまりお勧めしにくい作品ですが^^;。
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