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[大大阪ミステリ紹介]~殺人喜劇のモダン・シティ 芦辺拓~[1979文字]

とーとつにクイズです。
日本の都道府県で一番面積が小さいのはどこ?

正解は、香川県です。
しかし、1988年以前は、この答えは違っていたのです。

1988年以前なら、1番面積が小さいのは大阪府でした。
関西国際空港の埋め立て&香川県の面積測量によって順位が入れ替わったそうです。ちなみに3番目に面積が小さいのは東京都です。
大阪府と東京都が、面積の小ささでベストスリーに入ってるのは意外ですね😮。

かっては面積の小ささ1位であった大阪府ですが、しかし、大阪は帝都・東京を凌ぐ、掛け値なしの東洋一のモダン・シティだったのです。

今回は、昭和9年のモダン・シティ大阪を舞台にした、本格ミステリ『殺人喜劇のモダン・シティ』(著:芦辺拓)をご紹介します。

著者・芦辺拓氏は1958年の大阪生まれ。
読売新聞に入社後、1990年に『殺人喜劇の13人』で第1回鮎川哲也賞を受賞します。
この『殺人喜劇のモダン・シティ』は受賞作品も含めると第3作目となり、戦前の華やかな大大阪を舞台にした長編本格ミステリです。

うーん、表紙のイラストは、作品イメージと違うような気がするのですが😅。

芦辺拓氏は博識・博学の方のようで、本書を読んでいる最中、いったいどこからそんな情報をと、何度も感心してしまいました。

歴史ミステリの特長のひとつ、『虚実ないまぜエンタメ』の魅力が、本作には随所に溢れています。
戦前の関西の探偵小説作家たちが出て来るシーンなどは、知っているともっと楽しめただろうなぁと、自分の知識不足を残念に思いました😅。

さて、物語はいきなりクライマックスの活劇場面から始まりますー。

ー昭和九年。生駒山上空5千フィートを疾走する旧式複葉機。

この時期、伊丹の「大阪第二空港飛行場」、のちの大阪国際空港は、まだ机上のプランでさえない。では、”第一” 飛行場はというと、市の南西部、木津川べりにあった。工場地帯に囲まれ、中山製鋼の大煙突を間近にした十八万平米の湿地帯。そこから東京、四国・九州、大連などへの空路が延びていたのである。

『殺人喜劇の殺人喜劇のモダン・シティ』著:芦辺拓より

しかし、木津川に降りていたのでは間に合わないと、旧式複葉機のパイロットは着陸地点を変更します。

「城東練兵場・・つまり敵陣の真っただなかに舞い降りようってわけか」
(略)
「いや、そっちじゃない。連中と立ち回りをやってちゃ、かえって時間の無駄だろうよ。それより、もっと近くに恰好の着陸場所がある」
「おいおい。そんな飛行場があったっけ?しかも市内に・・・」
「いや、あいにく、ここがそうでございと看板をあげているわけじゃないがね」

『殺人喜劇の殺人喜劇のモダン・シティ』著:芦辺拓より

そしてー。旧式複葉機は大阪市内に着陸します。

こんな道路広げて、大阪のド真ん中に飛行場でもつくるつもりなんかいな』と、大阪人が冗談を飛ばした、工事続行中の御堂筋へとー。

なぜ御堂筋に旧式複葉機が着陸?
そんな疑問を読者に持たせ、物語は始まりの事件へと、時間軸を戻します。

大阪の高等女学校に通う平田鶴子[ひらた つるこ]と帝都・東京からやってきたワケアリの新聞記者、宇留木昌介[うるぎ しょうすけ]が挑む連続殺人事件。

作者のあとがきを引用させていただきます。

 長かった不況を脱出したあとには未曽有のモダン都市文化が咲き誇りました。[略]
 ところは東洋一のメトロポリス大阪。モダニズムの空気をいっぱいに吸って育ったと探偵小説大好き少女と、東京からやってきた新米新聞記者が、ふとしたことから連続殺人事件の謎に取り組むことになります。市バス内の死に端を発して、衆人環視の中で密室殺人は決行され、超特急《燕》は鉄壁のアリバイを乗せて疾走する。ダンスホールに死体は転がり、台風は吹き荒れ、あげく御堂筋に飛行機が舞い降りるに至ります。全ての鍵を握るのはモンゴルの奥地から帰国した美しき博士令嬢らしいのですが・・・果たして真相は?

『殺人喜劇の殺人喜劇のモダン・シティ』著:芦辺拓より

子供の頃に読んだジュブナイル小説を思い出し、思わず読みたくなりますね~😆

戦前の東洋一のモダンシティ大阪を、小説空間で体感できる稀有な作品と言えるのではないでしょうか。

もちろん本格ミステリとしても手抜かりなく、アッと驚く意外な犯人やトリックも含めて楽しめます😊。

作中に違和感なく組み込まれている当時の出来事や、さらりと名前を登場させる歴史上の有名人(淀川長治、織田作之助、円谷英二etc)たちの描かれ方に、作者の巧みな筆が冴え渡る大大阪ミステリでした😆。

物語の最後は、手放しでめでたしめでたしの大団円とはいかず、ちょっと寂しい余韻を残す幕切れとなっており、続編を書く予定はなかったのかな?と思いました🤔。

主人公たちが活躍する中・短編集が一冊あるようなのですが、長編はこの作品のみらしいのが残念なところです。

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