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【歴史のすみっこ話】漢字、危機一髪 箸休め編1 ~筆順~[1900文字]

「漢字、危機一髪」の番外編です💦。

漢字の書き順(以下、「筆順」と記載)、覚えていますか?
ボクはまったく覚えていません😅。

小学校に入って、国語の授業で漢字の筆順を教えてもらったときに、なぜか「右」と「左」の漢字の筆順が違っているのが理解できなかった記憶があるような、無いような💦

筆順は漢字を書きやすくするため、と教えてもらったような気がするのですが、「右」と「左」の最初に書く線が異なるのが理解できませんでした。

実は、学校教育で学ぶ漢字の筆順にも、「当用漢字」が関係しています。

ということで、今回はその経緯を。

1945年(昭和16年)──。
この年の4月に国民学校令が施行されて、尋常小学校は国民学校の初等科に、高等小学校は国民学校の高等科になります。

この時、「第5国定国語教科書」教師用書所(教師向けの教科書解説書)に、漢字668字の筆順が示されました。
国が制定した漢字の筆順の最初のものです
それ以前にも筆順に関するものはありましたが、国が制定したものはこれが最初のようです。
(ただし、ひとつの漢字に、二種類の筆順が書かれているものが、38字あります)

1949年(昭和24年)4月28日に「当用漢字字体表」が、内閣訓令・告示として公布実施されます。
この「当用漢字字体表」とは、当用漢字表に収録されている漢字を印刷するときの、漢字の形を示したものです。

この段階で一八五〇種類の漢字に含まれていた旧字体が新字体にあらためられたのですが、それらの中には「恋(戀)」や「予(輿)」「旧(舊)」、「寿(壽)」など戦前に使われていた旧字体の形から大きく変わったものがたくさんあって、(略)新字体のいくつかについて、何通りかのことなった書き方で書かれることがありました。

「漢字再入門」 著:阿辻哲二より引用

「当用漢字表」を公布実施した時に131種類の漢字に対して、簡易字体が採用されたのですが、漢字表全体の字体については、なお調査中とされていて、字体の検討は「当用漢字表」公布実施後も、引き続き行われていました。

字体検討の主体となったのは、印刷業務等に精通した関係者を集めた「活字字体整理に関する協議会」です。

この協議会が精力的に調査と検討をすすめて、最終的に七七四種の字体を決めた。(中略)国語審議会はそれにさらに検討を加えていくつかの字体の取捨をおこない、最終的に七七三種の字体を選んで、「当用漢字字体表」を作成した。

「漢字再入門」 著:阿辻哲二より引用


規範的な漢字の形が決まったことにより、従来と違う字形の書き方に混乱が発生(特に教育現場で)したようです。

一部、俗字・略字として扱われていた漢字が、正式な字形となったものの、共通した書き方が確立されていないものがあったことが、混乱の原因でした。

そのため、文部省が1958年(昭和33年)に、当時の義務教育期間に教える漢字881字の筆順を示した『筆順指導の手びき』という本を作成します。
この『筆順指導の手びき』では、ひとつの漢字に一種類の筆順のみが示されています。

これによって学校教育で使用する漢字の筆順は定まった・・・かというと、そうではありません。

「本書のねらい」という部分には、続けて、
 
 もちろん本書に示される筆順は、学習指導上に混乱をきたさないようにとの配慮から定められたものであって、このことは、ここに取りあげなかった筆順についても、これを誤りとするものでもなく、また否定しようとするものではない。
 
とも書かれています。

「漢字再入門」 著:阿辻哲二より引用


教育現場が筆順で混乱しているから、混乱をきたさないようにとの配慮から筆順を定めたのですが、その中で、定めた筆順以外の筆順も誤りではなく否定しないと明記しています

しかしながら、教育現場で、この『筆順指導の手びき』の「本書のねらい」の断り書きは浸透することなく、『筆順指導の手びき』で示された筆順が、正しい筆順であるかのように、教えられたのでした。

だから、書き順テストで唯一無二の正解があるかのように、〇✕の採点をするのは、適切ではないと思うのです🤔。
(利き腕によって、書きやすい筆順は異なるわけですし)

『漢字再入門』を読んで、『筆順指導の手びき』内「本書のねらい」の記述内容を初めて知りました。
(また、さらに突っ込んだ書き順の話もありますが、ご興味のある方は『漢字再入門』をご覧ください。)

それはともかく、漢字の「右」と「左」の筆順の違いに悩んでいた小学生のボクに、学校で学ぶ漢字の筆順に、唯一無二の正解はないということを、伝えてあげたいです😆。

最後までおつきあい頂きありがとうございました。

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